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チケットぴあインタビュー

マリアンネ・コルネッティ/トリノ王立歌劇場「仮面舞踏会」、他

マリアンネ・コルネッティ/トリノ王立歌劇場「仮面舞踏会」、他

ドラマティックな歌唱力と磨きぬかれた演技力でゼッフィレッリ版のゴージャスな『アイーダ』(新国立劇場・3月上演)に登場したメゾ・ソプラノのマリアンネ・コルネッティ。彼女の十八番であるヒロインの敵役アムネリスは300回以上歌っているだけあって、主役アイーダを食ってしまうほどの存在感を発揮していた。
5月には再びヴェルディの『ナブッコ』アビガイッレ役で新国立劇場に戻ってくる。さらに12月にはトリノ王立歌劇場の来日公演『仮面舞踏会』で占い師ウルリカ役として登場。2013年のヴェルディ・イヤー、日本での重要な上演作品に参加し、聴衆の耳と目を楽しませてくれる注目の歌手なのだ。
ステージでの「悪役」から離れると、微笑みの絶えないナイス・キャラで、歌いながら質問に応えてくれた。優しく、温かいハートの持ち主である。

――新国立劇場での『アイーダ』では素晴らしいアムネリスを演じていらっしゃいました。ゼッフィレッリ版はオペラ歌手にとって特別な演出ですか?


私は世界中で色々な演出の『アイーダ』を歌ってきて、ゼッフィレッリの演出に参加したのもひとつの作品だけではないけれど、このプロダクションは視覚的にも演劇的にもとても優れています。紗幕を通して舞台を見せるところなど、とてもシンプルな工夫なのに3Dの夢の世界みたいになる。その中に自分が存在しているということは、素晴らしい体験ね。新国立劇場の音響や舞台機構にも本当に感動したわ。


――新国立劇場は合唱のクオリティも評価が高いのですが、いかがでしたか?


「本当に! 皆さんよく助けてくれたわ。ステージでも最高だし、舞台を降りても「今日はよかったよ」と拍手してくれたりしたの。どうすれば私やみんなが一番気持ちのいいコンディションで歌えるかを、実によく気づかってくれた。靴が合わないとか暑いとか、問題が起こるたびに、前向きに解決してくれるのよ。


――なるほど。アムネリスは、演劇的にとても重要な役で、『アイーダ』のオペラの中では彼女が一番重要な役なのではないかと思うこともあります。


アイーダはシンプルなラブストーリーで、アイーダとラダメス相思相愛だし、なんの問題もないのよ。問題は私=アムネリスなのよ(笑)! 私がそこに存在していることが問題なの。典型的なヴェルディのストーリーよね。『イル・トロヴァトーレ』のアズチェーナもそうだけど、その話が転がっていくためのキーパーソンで、アムネリス(アイーダ)、ウルリカ(仮面舞踏会)、エボリ公女(ドン・カルロ)というのは、ソプラノよりもっと興味深いわ。ソプラノはただ自分の身を嘆いて泣いていればいいけど、私はもうちょっと手の込んだことをやる役なので、やりがいがありますよ(笑)。


――恋人をアイーダに奪われたアムネリスは、最後にすべてを許しますよね。あの第四幕は歌っていてどのような気分なのでしょう?


ゼッフィレッリの演出が素晴らしいのは、アムネリスの心の変化を一幕からとても緻密に描いていることなの。最初はただの恋する乙女で、ラダメスも彼女にキスしたり、結婚を承諾したり、憎からず思っているような演出よね。でも徐々に小さな疑惑が大きくなっていって、ついには恋人がほかの女と相思相愛だということを知る。そこでアムネリスは父親の権力のことを思い出すけれど、神官に心のすべてを晒したあと、アムネリスは愛の問題に関しては、自分は何も出来ないということを悟るの。それで、あの四幕につながっていくんだわ。


――なんか胸が締め付けられるようです。


私はスタニスラフスキー・メソッドで演技を勉強したんだけど、それは演技と自分の人生を切り離さず、生の感情を演技で使いなさいというメソッドなのね。ラダメスが最後に牢屋に入っていくときは、いつも恋人に去られたときのことを思い出して演じているの。


――そうなると、ヴェルディは過酷な役ばかりで苦しくなりますね。


私が初めて『イル・トロヴァトーレ』のアズチェーナを歌ったのは、1996年のことだけど、当時は自分の子供を間違って火にくべてしまうなんていう体験は、普通に生きていたらありえないと思っていたのね。その2年後、母が交通事故で亡くなってしまったの。事故に対する怒りや母を喪った悲しみからしばらく混乱していたのだけど、演技の先生が「そういう不幸も芝居にしていくことが必要だ」と助言してくれて…。時間はかかったけど、そのときの悲惨な気持ちを演技に活かせるようになったのよ。


――そんなことがあったんですね…。


母が亡くなったのはイタリアデビューの2日前で、ヴェローナの音楽祭でアムネリスを歌う直前だった。私はステージに立ったわ。幸福の絶頂と不幸の絶頂が同時に訪れた。それでも父は舞台に立つべきだと励ましてくれたのよ。


――コルネッティさんの演技が特別なものである理由が分かりました。5月に再び新国立劇場で歌う『ナブッコ』のアビガイッレは、どこかアムネリスと似たところがあります。


テノールから拒絶される役よね、ふたりとも(笑)。アビガイッレは2009年にパレルモで歌ったのが初めて。役どころは難しいんだけど、音楽を勉強していくことで演劇的な困難は解消していける。怒りの表現から優しいベルカントに変わるところ(第二部のシェーナとアビガイッレのアリアを実際に歌う)よね。本当にヴェルディは偉大なマスターだわ。音楽をフォローしていくことで、自然に役作りをしていけるんです。


――演出のグラハム・ヴィックさんはモダンなスタイルの演出でも有名な方ですが、ヴェルディ歌手の中には現代的な演出を嫌う方もいますね。


あら、でもヴィックさんは大ベテランだし、出てきたばかりで何をしでかすかわからない人ではないから大丈夫よ(笑)。私はモダンな演出は嫌いではないし、1997年にアトランタで『ナブッコ』を歌ったときはフェネーナの役だったけど(!)、ミリタリー調の衣装で、拳銃を持ったりしたわ。面白い演出だった!


――コルネッティさんはMETのほか、イタリア、ドイツ、イギリスの劇場で歌われていますから、その国独特の演劇スタイルをご存知なのですよね。


アジアでも歌っているわよ(笑)! そうね。イタリアはとても伝統的で、ドイツは半々、イギリスはまた少し変わっていて、コヴェントガーデンでは『アイーダ』をエリザベス一世の時代に置き換えたりしているの。一概にモダン演出とも言えない置き換えよね。METはとても新しい試みを始めているし。だからこそ歌手は歌うのが楽しいんです。『アイーダ』は先日の日本での公演が352回目だったけれど、毎回違うことが起こるし、プロダクションによって指揮者も相手役も変わるし、ステージに立てば、その日の新しいことがやってくるの。


――なるほど。舞台はまさに生き物という事ですね。12月にはトリノ王立歌劇場の来日公演で『仮面舞踏会』の占い師ウルリカを歌われる予定です。


私のウルリカの解釈は少し変わっていて、彼女は本物の霊媒師で、手相で人の運命を読むことが出来た人だと思うの。生活のために魔術を使って大袈裟に人を驚かす人、という解釈もあるけど、私にとってウルリカは真実を知っていた女性。だから、ラストシーンでもう一度彼女が出てきて「私の言ったことは真実だった」と語るシーンがあればいいのに、といつも思っているのよ。


――「カルメン」しかり、「リゴレット」しかり、オペラの世界では占いと予言と呪いは、必ず当たることになっています。


まさにそうだわ!私は蠍座だけど、占いは信じているわよ。でも、オペラの世界で占いが絶対当たるのは、そうじゃないと話がまとまらないからよ(笑)。


取材・文:小田島久恵


《マリアンネ・コルネッティ 今後の出演予定》
■新国立劇場オペラ「ナブッコ」
5月19日(日) ~ 6月4日(火) 新国立劇場 オペラパレス
⇒公演情報

■トリノ王立歌劇場「仮面舞踏会」
12月1日(日)・4日(水)・7日(土) 東京文化会館 大ホール
⇒公演情報
マリアンネ・コルネッティ/トリノ王立歌劇場「仮面舞踏会」、他

マリアンネ・コルネッティ/トリノ王立歌劇場「仮面舞踏会」、他

新国立劇場 開場15周年オペラ「アイーダ」(2013年3月)
撮影:三枝近志

プロフィール

■マリアンネ・コルネッティ Marianne Cornetti (メゾ・ソプラノ)
アメリカ・ペンシルバニア生まれ。メトロポリタン歌劇場、ピッツバーグ・オペラなどで経験を積んだ後、『イル・トロヴァトーレ』アズチェーナでミラノ・スカラ座、ヴェローナ野外劇場の舞台に立ち、国際的キャリアのスタートを切る。以来、ウィーン国立歌劇場、バイエルン州立歌劇場、ベルリン・ドイツ・オペラ、ハンブルク州立歌劇場、英国ロイヤルオペラ、フィレンツェ歌劇場、トリノ王立歌劇場などに出演。日本では、2001年ダニエル・オーレン指揮の『ドン・カルロ』エボリ、06年ボローニャ歌劇場日本公演『イル・トロヴァトーレ』アズチェーナを歌い絶賛されている。また本年は新国立劇場の『アイーダ』アムネリス、『ナブッコ』アビガイッレにも出演予定。『イル・トロヴァトーレ』アズチェーナ、『アイーダ』アムネリス、『仮面舞踏会』ウルリカ、『ドン・カルロ』エボリ、『ナブッコ』アビガイッレなど、特にヴェルディ作品では世界最高レベルのメゾ・ソプラノとして名声を博している。