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チケットぴあインタビュー

渋谷慶一郎

渋谷慶一郎

5月23日(木)・24日(金)に行われるVOCALOID OPERA「THE END」は、今や世界的なアイコンとなっている、初音ミクによるオペラ。悲劇的ストーリーやアリア、レチタティーボといった従来のオペラが持っていた形式はそのままに、人間の歌手もオーケストラも登場しないという試み。いったいどういったものなのか? コンセプト・音楽・演出を手がけている音楽家、渋谷慶一郎に話を聞いてみた。

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──初音ミクに対して、元々抱いていたイメージなどはありますか?


「まず、初音ミクはすごく面白いテクノロジーだな、と思っていました。キャラクターというよりも、コンピューターでボーカルを扱えるというのは凄く大きい。“新しい楽器”と僕はよく言ってるんですけど」


──ではネガティブなイメージや抵抗感はなかったんですね。


「それ、よく聞かれるんだけどどういうネガティブなイメージが生まれるのか知りたい(笑)。僕はピアノソロのライブも行いますが、人間のやることでしか人間は感動できないなんていうのはそろそろ脱したいという気持ちもあります」


──2011年に渋谷慶一郎+東浩紀feat.初音ミク名義でリリースされた『イニシエーション』が、今回の『THE END』に携わるきっかけになったんですか?


「いや、あれは元々、東浩紀さんのプロジェクトで映画を撮っていて、そのサントラをタダで作れって言われたんです(笑)」


──あははは(笑)


「でも、サントラは生業だからタダじゃ無理だけど、東さんが歌詞書くならタダでやるよ、初音ミク使って、ってTwitterで言い返したのが発端じゃなかったかな。しかもDMじゃなくて公開で。そうしたらザワザワっと周りが騒ぎ出したので、ああ、これは後に引けないな、と(笑)。なので始まりは遊びのような感じでスタートしたんですけど、作品の出来が気に入ったのでCDに残したんです」


──では直接のきっかけとなったのは?


「山口にYCAMという、設計やスタッフなどどこをとっても国際的な水準のアートセンターがありまして……山口にあるのであまり知られていないんですが、そこで前にも作品を作っていたんです。で、せっかく非常に優れた場所なので、久しぶりにここで何か作るなら誰もやっていない、自分にとっても難易度が高いことをしたいなと思ったんです。そこではインスタレーション(展示空間全体を使った3次元的表現)をするのが一般的なのですが、近年だとインスタレーションっていう言葉が消費され過ぎだと思うんですね。広告の言葉になっているというか。そうなる前からインスタレーションは作っていたんだけど、今それをやるのは違うなととか思ってるときに、オペラというのが浮かんだのかな」


──周りの反応はいかがでしたか?


「YCAMにとっても大きなプロジェクトだったので、やはりザワザワっとしましたね(笑)でも、『初音ミクがオペラ』と1行で書いてあれば、『え?』って目を引くじゃないですか。そういうプロジェクトは成功するんです」


──おー!確信があったわけですね。ただ、すでに世界的な認知を得ている初音ミクを扱うことで、躊躇したり障害に感じたりすることはなかったですか?


「結局、音楽の力というものに関していうと、ここ20年で加速度的に弱まっていると思うんですね、それはアートも然りなんだけど。とはいえビジュアルアートはわかりやすいアイコンを使うことで乗り切れている部分もある。いずれ音楽でもわかりやすいメロディだけではなく、音色とか声をはっきりとしたアイコンのように使うというのは問題になってくると思うんです。で、オペラといえば、皆さんドレス着て、オペラ歌手が出てきて、舞台に森があって、とか想像すると思うんです」


──(笑)敷居が高いイメージ。


「そう、でも元々はその時代の先端芸術なんですよね、オペラって。当時の最先端のモノが集約されている。だったら初音ミクのオペラというのは何ら不自然ではないでしょ」


──当時の最先端と今の最先端が出会うというのは必然であると。


「トレーラーを見た方から、『え?これがオペラなの?』とか『オペラ的な要素が全然ない』って反応があったりするんだけど、それは本来的な意味でオペラを知らなすぎると思います。いまオペラを作るならビートがあるのは当たり前だし、コンピューターの音があるのは当たり前だし、もっと言うと初音ミクを使うということは今の状況だったら当たり前だと思うんだけど」


──なるほど。


「人間じゃないものが歌って、人間が感動するということは、100年前には出来なかった未だかつて人類が経験していないことでしょ。僕は人類が挑んでいないことに挑戦したい、付き合って行きたいという気持ちが強いから」


──これまでの話をお聞きして、基本的に渋谷さんは困難な方、誰も選択していない方を選んでいらっしゃるんだなという印象が強いです。


「それはずっとそう。なんでもっと早くピアノ弾かなかったんだとか言われるけど(笑)、必要な迂回というのはあると思う。THE ENDはそういう意味では今までの迂回が集約されていると思います。あと芸術には毒が必要でしょ。出来の良い物でも、毒がないものには興味がなくて、毒とそういう困難は相性がいいんです」


──「THE END」の演出・台本を務められた岡田利規さんとはもともと面識はおありだったんですか?


「はい、彼が僕の音楽を聴いてくれてたり公演も招待してもらったりしてて。チェルフィッチュ(岡田利規が主宰を務める演劇ユニット)は凄く好きで……僕、演劇って大っ嫌いなんですよ」


──あはははは!えーっ!


「(笑)99%の演劇は好みじゃなくて…チェルフィッチュは例外なんです」


──なるほど。


「あと小劇場で、芝居が始まる前に「せーので席ズレてくださいね!」みたいな呼びかけとか聞くと、げんなりしてしまうというか合わない……(笑)」


──(笑)今から入ろうとしてるのに、現実に戻すなと。


「彼の演劇は共同幻想みたいなものをドンドン切断していく感じがあって、そこも好きだった。独特の軽やかさがあるのも良いなと思ってました。でも、一緒に仕事をすることはないだろうなと思っていたんです。でも彼が『ゾウガメのソニックライフ』という芝居で僕の曲を使ってくれて、それが自分の音楽が使われているからとかではなく、非常に良かったんです。ミニマルさとか軽やかさや、ある種のシニカルさから一歩先の、エモーショナルと呼ぶにはもう少し複雑な感情が喚起するものがミックスされているな、と感じて、それは今僕が興味あること、やりたい事と合致したんです」


──それで渋谷さんから誘われたんですか?


「はい、その日のうちに、一緒に何かやれそうな気がすると思って、次の日にはマネージャーさんに同じようなメールを送って、お互い忙しかったので夜の10時ぐらいに渋谷の喫茶店で会って、その時にどちらからともなく『やるんだったらパフォーマンスや演劇、インスタレーションとかではなく、オペラって言葉でやるのが面白いよね』という話になって、その日のうちに決まりました」


──え!その日のうちに決まったんですか?


「それで僕が『今YCAMからオファーが来ているから、それに乗りませんか?』と伝えて、という感じですね」


──キャラクターデザインのYKBXさんとは面識は?


「メディア芸術祭のパーティーに出席した時に、僕の音楽が好きですと声をかけてきてくれたのが彼で。その後、僕がオフィスをシェアしてて、今回のオペラの全体のプロデュースもやっているA4Aが彼をマネージメントすることになって。実際に会うまでパーティーの時話しかけてきてくれた彼だというのは合致していなかったんですが、顔を見たらすぐに思い出して」


──非常に運命的なものを感じます。


「このプロジェクト、岡田さんが海外にいる期間が長かったんですね。他方、YKBXくんはすぐ横の事務所に所属することになって距離が近くなっていった。僕はキャラクターデザインということに最初は目が開いてなかったんですが、すぐ横で彼の作業を見ているうちに目が開けてきて、映像という現実にはないものと、岡田さんの現実をクシャっと曲げてしまうような演出が合致すれば、絶対面白いものになると思って、どんどん映像の比重が大きくなってカッティング・エッジな方向に進んでいったんです。で、岡田さんは久々に日本に帰ってきて話したら『え?!こんな方向になってるの!?』って最初は驚いていましたね(笑)」


──(笑)


「でも、とにかくこの方向で進めようと。岡田さんも面白いと思うと言ってくれたので。ただ岡田さんにとっては、人間じゃなく映像を演出するという難易度の高いプロジェクトになっていったんですね」


──創作活動はどのように進められたのでしょうか?


「ふつうオペラというのは、脚本ができて、音楽ができて、演出ができて、という形だと思うんですが、『THE END』の場合は、“よーい、ドン”だったんです。だから、僕はオペラのストーリーのようなものを考えながら、まずアリアが入ってくるのは当たり前なので、『アリアってどんな感じなんだろう』って想像しながら作り始めて、その話の断片を見ながらキャラクターデザインして……という感じでしたね」


──凄い話ですね。


「初演がYCAMで昨年の12月に行われたんですが、4月ぐらいに1週間会場を借り切って、舞台美術の重松象平さん、僕、YKBXくん、岡田さんで集まったんですけど、そのときはプランも何もないんですよ。舞台美術といってもストーリーがないとやりようがないし、音楽もそうで、でも『とにかく初音ミク使ったオペラやるからみんなで考えよう』って言って、みんな絶句、無言、みたいな(笑)。壮絶なスタートだったんです」


──でも、その何もない状態からきちんと仕上がったんですものね。


「プロは絶対に間に合わせることができるんです。間に合わせる、と言ったら言葉が悪いかもしれませんが、出来上がりが悪いものを作る人はやっぱり駄目で」


──プロじゃない、と。


「そうです。本番の初日があったらそこに間に合うという確信はあったんだけど、でも今回に限っては失敗するかもっていう想いが半月前、11月の半ばぐらいまでありましたね」


──あまりにも無謀だと。


「無謀。僕は11月の頭ぐらいから劇場に入っていたので、ちょうど3週間ぐらいあったんですが、その時点で映像が出来上がっていなくて、絵コンテがコマ送りで流れてるだけだったんです。でもYCAMのスタッフはそういう前衛的な映像なんだと思ったらしくて(笑)まあ映像っていうのはレンダリングに時間がかかるので、できる時は一気にできるもので、実は進んではいたんですが。ただ、初演にこんなに人を積極的に誘わなかった作品は初めてですね、怖かったです」


──その初演を大成功で終えて。今回東京で行われる『THE END』は、スポットを拝見したのですが、渋谷さんは出演もされるということで、ちょっと想像がつきにくかったんですが……


「と、思います」


──どういった感じで出演されるのか、お話できる範囲で聞かせていただけますか?


「初音ミクと僕が絡むシーンはあります。絡むって変な意味ではなくて(笑)。デラットスクリーンという初音ミク関係のイベントではよく使われているものがあるのですが、それは今回使わずに、ミクを立体的に見せる、実際にその場にいるように見せているんですけど、投影の技術者が口を揃えて言うには、その場に実際の人間がいた方が面白いですよ、と。何故かとと聞くと「その方が非現実感が増すから」と」


──なるほど。


「確かにと思って。でも役者が出るという選択肢はなかったから、僕が出ることになったんですけど。普通に演奏したりするんですが、例えばキーボードを弾くのもパソコンで文字をタイプするのも同じ『タイプする』という行為ですよね。舞台になっているのはミクの部屋なんだけど、その中にもう一つの部屋があってそこで僕がリアルタイムで物語を書いているという設定なんです」


──それは楽しみです。ちなみにお客さんは、オペラを見たことない初音ミクのファンの方も、オペラのファンの方も来られますよね。


「客層からして異例ですよね。ただ僕が中学生、高校生だった80年代、90年代初頭って、客層を分類できないライブやイベントがいっぱいあったんです。今は棲み分けがはっきりしていて、行ってもワクワクしないんですよ。いつも会う人か、全く知らない人か、みたいな」


──本当にそうだと思います。


「文化的な活性というのはそういう状況だと生まれないから、もっと混在した方がいいと思っているので。オペラファンのフォーマルな人の隣に、ミクのコスプレした子がいたら面白い(笑)」


──あははは!確かに(笑)。そういった混在があっても気にせず、始まれば物語に身を委ねれば良いと。


「そうですね。あと僕が出演する話でいうと、最初は僕がピアノを弾く予定だったんですけど、結果的にキーボードになったんです。で、それは良かったと思います。僕がピアノを弾いていると、そこに観客の比重が行ってしまって、どうしても映像が演奏のバックグラウンドになってしまう。コンサートみたいになっちゃう。キーボードだと僕はただのオブジェになれるので、そこで映像の占める割合が格段に上がりますよね」


──昨年の2月に太田莉菜さんとのコラボ楽曲『サクリファイス』をリリースされていますが、太田さんのように生身の人間と、初音ミクのような2次元のアーティストで、創作に対して違いは出るでしょうか?逆に変わらない所はありますか?


「ちょっと話が逸れるけど、『サクリファイス』『イニシエーション』『THE END』と並べてみると、ひどく宗教じみてますね」


──(笑)あははははは!


「気がふれてるんじゃないかって感じですけど(笑)。でも実はこの3つは確かに繋がっていて。『サクリファイス』の時に『THE END』の構想はなかったけど、確かに繋がっているんです。『サクリファイス』はポップだけどとても実験的な作品で、1曲目は太田莉菜さんに歌ってもらっているんですが、日本で一番のボイスエディットの職人に、ピッチとかタイミングなど、徹底的にエディットしてもらっているんですけど、逆に2曲目は同じ曲を、この事務所でピアノと歌だけで“せーの”でDSDで一発録りしたものなんですね。だから1枚の中で人工と人間というか生身の究極の対比をしていて、それを突き詰めるとボーカロイドのオペラまで辿り着いたという感じです」


──渋谷さんの中で2次元3次元で分け隔てはないということですね。


「ないですね。全部音楽になるだけです」


──ありがとうございます。では渋谷さんの今後の活動予定をお聞かせください。


「海外の活動が多くなりそうです。この『THE END』も興味もっているところもあるし。あと5月は日本と海外を行ったりきたりという感じですね。あと2年前に音楽をやった映画『死なない子供、荒川修作』のサウンドトラックが秋に出る予定です」


──最後に、このページを見ている方に一言お願いします。


「『THE END』は是非体感して欲しいですね。クラシカルな劇場なのに、スピーカーが沢山あって、天井が高い。オペラを観劇するというより、オーチャードというコックピットに入って全く新しい人工的な体験する感じになるんじゃないかと。音響も劇場が破壊されるんじゃないかというぐらい積もうと思ってるし、映像も3次元的に拡大、縮小される。そんな経験はなかなかできないと思います。何しろ最初に見たとき僕が驚いたくらいだから」



取材・文:佐久間 隆(ぴあ)


<公演情報>
VOCALOID OPERA「THE END」

【日程】5月23日(木) 19:00開演
    5月24日(金) 15:00開演 / 19:30 開演
【会場】オーチャードホール (東京都)
【席種・料金】プラチナ席(プログラム付)-10000円 S席-7500円 A席-5000円

[出演・演出]渋谷慶一郎(音楽) [演出]岡田利規(台本) / YKBX(映像)
[出演]初音ミク

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