岩切正一郎(イワキリショウイチロウ) のチケット情報

公演レビュー
  • 地人会新社「リハーサルのあとで」

    ストリンドベリの「夢の劇」をベルイマンが演出した際のリハーサル後の様子を戯曲化したものらしく、主人公演出家ヘンリック・ヴオーグレルは彼自身のようだ。演出家と俳優の舞台化に向けてのそれぞれの想いや心理を描いている。ヘンリックは今回の主役に過ってともに仕事をし、家族付き合いをしたラケル・エーゲルマンの娘で幼少期から見知ったアンナを抜擢した。大役を得て演技に不安を感じていた彼女は、口実を設けてリハーサルのあとで、楽屋に残っていたヘンリックを訪ねた。自信家の彼は、一方で演出家は「耳を澄まし、口を閉ざすものだ」と彼女の粗削りをほめ、彼女自身がやりやすいようにアドバイスを与える。彼は彼女の才能をどう見極め、期待しているのか、母ラケルとの関係が影響しているのか、他意ないのだろうか?演出家と俳優は対等に意見を出し合って戯曲を紡いでゆくと言うが、果たして。不安を抱えながら、母ラレルを超えたいアンナ(森川由樹)のヘンリックへの信頼と緊張感がありながら適度の距離感を保った演技、ふと遠くを見つめる眼差しに、芯のある女優を演じて素晴らしかった。過っての名女優ラケル(一路真輝)はアル中患者になり、老いてもなお舞台に立ちたい、「輝かしい楽器」でありたい狂気じみた俳優魂を真に迫って演技し、彼女の別の一面を見た思いがした。二人の女優に対するヘンリック(榎木孝明)は演出家としての矜持と、男としての戸惑いを制御するロマンスグレーを演じて流石であった。……「舞台は台詞と役者そして観客」「演出家は黒子だ」……演技と恋愛がない交ぜになり、実生活と戯曲が重なり合うようで、どこまで理解できたかわからないが、ベルイマンに思い入れの強かった栗山民也の期待に応えた三人の演技に感服し、演出家と俳優の凄さを味合った。

    粗忽者の早とちり
  • 誤解

    事前勉強をあまりせずに臨みました。 そのせいか、どう捉えたらいいのか、ちょっと悩んでしまいました(笑)。 素直に、ある家族の物語? それとも、何かを象徴していて、大きなメッセージが隠されている? 少なくとも、単なるサスペンスでないことは確か……。 田舎の小さな宿を営む母(原田美枝子さん)と娘・マルタ(小島聖さん)。 彼女たちは、宿泊客を殺して金品を奪い、その金で、いつの日か、この陰鬱な場所を出ていきたいと夢見ていました。 そこへ20年前に家を出て行った息子・ジャン(水橋研二さん)が帰ってきます。 しかし、息子だと気づいてもらえず、また自ら息子だと名乗りたくない(向こうから気づいて欲しい)ジャンは、彼女たちによって……。 ストーリーは非常にシンプルで分かりやすいものの、交わされる会話に含み?があるため、そこらへんを読み取ろうとすると、なかなか厄介です(笑)。 でも、母親(原田美枝子さん)の疲れと後悔が入り混じった感じ、娘(小島聖さん)の少し狂気じみたエネルギッシュな感じが、うまく対立し、観ていて惹きつけられました。 終演後、未消化の部分を何とか理解しようと、作品や作者について、ネットで調べたりしたんですが、その中で、アルベール・カミュについて書かれたWikipediaに「彼は一貫してキリスト教や左翼革命思想のような上位審級を拒否し、超越的価値に依存することなく、人間の地平にとどまって生の意味を探しもとめた。彼は「父」としての「神」も、その代理人としての「歴史」も拒否した。」という記述があるのを見つけました。 ラストシーン、それまで一度も口を開かなかった使用人(小林勝也さん)が、救いを求めるジャンの恋人(深谷美歩さん)に対して放った一言の意図が、これで分かりました。

    touch
  • 新国立劇場演劇「誤解」

    舞台中央にソフャー、前後を仕切る大きなうす灰色の幕が壁になり、ある時は低く垂れこめるどんより曇り空を表している。無口な年老いた使用人(小林勝也)が置いた椅子の位置でロビーと部屋を分ける粗末なホテル。マルタ(小島聖)と母(原田美恵子)は、ある計画を胸に秘め、金のありそうな一見の客を睡眠薬で眠らせ殺害し、金を奪う算段を繰り返していた。二人は陰鬱なこの地を離れ海の見える明るい国に移住する資金が欲しかったのだ。そこに20年程前に母子を捨て故郷を離れた息子ジャン(水橋研二)が、二人の幸せを叶えるために戻ってきたが、二人は息子とは気が付かない。何か不吉な予感を感じ、心配する妻マリア(深谷美歩)を置いて、一人チェックインしたジャンの「肉親と気付いてほしい」と匂わす会話と、飽くまで客として品定めをするマルタとのやり取りが、可笑しみを帯び、やがて悲劇に繋がってゆく。殺人を冒してまでもその地を離れたいマルタの心理は分からないが、小島聖の必ず成し遂げるという強い狂気じみた意志を感じさせる目力に凄みを感じる好演であった。ジャンは何故名乗らなかったのか、20年の空白が埋めがたい距離を作ってしまったのか?わかってもらえるのではというジャンの身勝手なのだろうか?……自分の居場所ではないと見切りをつけたジャンに計画は実行された。観客にはこの展開は予想されていて、マルタの頑なで冷酷な心理の背景にカミュの書かれた時代背景が影を落としているのだろうか?愛を持たない女と愛を失った女の諍いは果たして?救いを求める女に対し、終始傍観者らしき老人は‘‘否‘‘とひと言発する。彼は何者なのか。

    粗忽者の早とちり
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