貝谷:音楽というのは、太古の昔からずっと非常にみなさんに愛されているものですから、人と人を結びつける“媒体”、とわたしは敢えて言うんですが、そういうものだと思うんです。それに、ライブ会場で、知らない人同士が会う、そこでいろんな化学反応が起こる、それによってまた新しいものが生まれていく、ということがいままでもあったし、これからもあると思うんです。そういった意味では、このバリアフリーという活動も、みなさんに目を向けていただかないと始まらないというところがありますので、こういった音楽イベントに、たくさんの人に集まっていただいて理解を深めていただければ、という思いでやっています。
貝谷:そうなんです。ただ、そこのところをみなさんにちゃんと理解していただくのは難しいんですよね。例えば、このイベントがすぐに誰かのためになるとか、集まったお金がすぐに具体的な何かに使われるとか、そういう形だとわかりやすいんだろうと思うんですが。それでも、イベントの後に何かが起こるというのではなく、このイベントではイベントが行われている最中も社会的な動きが起こっているというのは事実で、そういう臨場感というか躍動感がいいなとわたしは思うんです。それに、“こんなに一生懸命やってます!”と直接的に伝えるのではなくて、ふと見ると障害者の方が働いているという、そういうさりげなさもこの取り組みを伝える上では大切かなと思っています。
貝谷:そう思います。例えばアメリカのドラマでは普通にみんなが働いているオフィスのシーンにストーリーとは関係なく車椅子の人がいたり、視覚障害者の人が杖をついて歩いているシーンを敢えて折り込んだりするんです。そういうことを敢えてすることはどうなのか?という議論ももちろんあるとは思いますが、それでもみんなが普通に暮らしているシーンの中に障害者も居るという、そういう状況を作り出すということはやはり意味があるんじゃないかなと思っています。
貝谷:非常に重要だと思っています。バリアフリーということを訴えたときに、健常者の方はみなさん、とてもよく理解してくださいますし、障害者の方々もわかったと言うんですが、でも本当の意味で理解するというのは「理解しようと思って理解する」というのではなくて、腑に落ちるということだと思うんです。もっと言えば、腑に落ちたと感じることさえないくらい普通のこととして受け入れてしまうことだと思うんです。
貝谷:それは、いろいろなレベルでいろいろなことがあるので何かひとつというのは難しいですが…、敢えて言えばNPO法人というのは一般的なイメージとしては一定の目的のために集まったプロの集団というよりは素人が集まって何かを成し遂げていく団体というようなものだと思うんです。もちろん、それだからこその良さというのもあるわけですが、でもそういう意識でこの事業をやることはできないんですよね。わたしたちの心構えとしては、すべての場面で“プロ対プロ”としてやっていくというのが基本的な考え方です。しかし実際には、わたし自身も含め、事業を進めていく人間たちのなかでなかなか意識がそこまで高まっていないということがいちばんの課題なのかなというふうに思っています。
貝谷:そうですね。ひと言で言えば“障害者のプロを育てよう”という取り組みでもあるわけで、そういう意味でわたし自身は多分、普通の人よりも仲間の障害者に対して厳しいと思います。障害者の方にお願いしたデザインを何度かやり直してもらったこともありますし、そこは一般の仕事と同じようにクオリティーのより高いものを求めていって、その結果として障害者のコミュニティー全体としてクオリティーを上げていかないといけない、という気持ちが強いです。
貝谷:障害者の人たちはみんな、このイベントに関わることでハッピーになっていますね。やりたがる、という言い方がいいのかどうかわかりませんが、いろんな形で加わってくれていますし、それは知り合いだからとか、そういうことではなく、単純に喜びを感じて参加してくれているということはいろんな場面で実感します。それから、一般の方々の理解も着実に広がってきているなということは感じます。障害者就労ということが社会的な課題としてクローズアップされているという現状も関係しているとは思いますが、社会全体としてこういったメッセージを持った取り組みに対する理解は以前よりも広がっているなというふうに思います。
貝谷:だからこそ、この“GC グランドフェスティバル 2015”のような形が有効だと思っています。というのは、誰もが楽しめるコンサートにいっしょに参加することで、結果的にそういう問題の取り組みにも参加することになるからです。“自分は障害者のために、こんなことをやってるんだ!”と大仰に言い立てるような話ではなく、たまたま自分が好きなアーティストのライブを見に行ったら、それが障害者支援にもなってるという。言わば、意識しない実践と言いますか、そういう形が広がっていくことがわたしたちにとっても理想なんです。ただ、いまのわたしたちの気持ちとしては、イベント当日、会場に来てくださったみなさんに思いきり楽しんでもらうというのがいちばんの目標です。ぜひ、できるだけたくさんの方々に集まっていただきたいと思っています。
GC グランドフェスティバル 2015
公演日:2015年4月17日(金)
会場:チームスマイル・豊洲PIT(ピット)
会場/開演:18:00/19:00
料金:指定席-6000円
スタンディング-5000円
出演:クレイジーケンバンド/島袋寛子/二人目のジャイナ/MORISHIN
※ドリンク代別
※スタンディングは整理番号付き
※車いす席をご希望の方は事務局に要事前申込
詳しくはhttp://gcgf.jp/をご確認ください。
貝谷嘉洋 (かいやよしひろ)
NPO法人日本バリアフリー協会 代表理事
略歴
1970年 岐阜県生まれ
1980年「筋ジストロフィー」と診断を受ける。以後進行し、現在日常生活のほぼすべてに要介護。
1993年 関西学院大学商学部卒業
1997年 野田聖子郵政大臣政策秘書
1999年 カリフォルニア大学バークレイ校ゴールドマン政策大学院修了。
2000年 手先だけで運転できるジョイス ティック車を自身で運転しアメリカ一周。
同年 前身の「日本バリアフリー政策研究所」を設立(翌年、東京都からNPO法人として認可)。以後、現在まで代表理事を務める。
2004年 上智大学文学研究科社会学専攻博士後期課程修了。
2006年 第3回読売福祉文化賞 大賞受賞
著書に、「魚になれた日-筋ジストロフィー青年のバークレイ留学記」講談社。「介護漫才―筋ジストロフィー青年と新人ヘルパーの7年間」小学館 等
現在、国士舘大学非常勤講師。東京大学大学院教育学研究科バリアフリー教育研究開発センター協力研究員。NHK厚生文化事業団障害福祉賞専門委員。社会福祉法人鉄道身障者福祉協会評議員。