歴史ある建造物の建替えによる解体に伴い、これまで“廃材”として費用をかけて処分されるはずだったものを、技術者などの力を借り、手を加え“メモリアルグッズ”として再生する。
それがぴあ株式会社が行っている「RE:MEMBER プロジェクト」。第1弾「国立競技場」、第2弾「日本青年館」、そして第3弾として「ホテルオークラ東京」と続くこの動きを、一手に引き受けて行
っているのがぴあ株式会社の米村修治。なぜ、このような活動を行うに至ったのか?また、商品化までの流れやこの活動に秘めた、日本の技術者への想い、そして今後の活動展望などを聞きました
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RE:MRMBERプロジェクトリーダー 米村修治
「はじまりは国立競技場なんです」と活動のきっかけについて話しはじめた米村さん。「東京オリンピックに向けて解体をするということを聞いて、昔ヤンキースタジアムが椅子を売った というニュースを思い出したんです。何とかうちのチケットシステムで売れないかな、って思いつきまして」。企画は立ち上がったものの、前例のない話なので、最初は国立競技場サイドへの説明 にも苦労したそう。「先方もこちらも何が売れるのかっていうのが分からないままスタートしたので、最初は解体しながら、どれが売り物になるのか。そしてそれをそのまま売るのか、加工して売 るのか、色々試行錯誤しながら進めていきました」。メモリアルグッズ販売は、文字通り、ゼロからのスタートだった。
『SAYONARA国立競技場FINAL “FOR THE FUTURE”』
電光掲示板を使った時計
そのまま売れるものはともかく、そのままでは商品として価値が出そうに無い資材を、どう商品化するか。米村さんが最初にぶち当たった大きな壁。そこを乗り越えるそ助けになったのは 米村さんがこれまで築き上げてきた人脈だった。「僕はこの会社、ぴあに入る前、起業をしていたんですけど、その頃の知り合い、技術者の方々にはとても助けられました。そういう方々は技術は 持っているんですが、正直に言うと自分のPRが上手くない(笑)。資材を商品化するために、助けてもらう代わりに、技術自体のPRになれば良いなと」。こうしてできあがった商品は、指定席やVI P席といった素材をそのまま活かしたものから、電光掲示板を使った時計、卓上ミニプランター芝生など、加工を加えたものまで、バラエティに富んだラインナップとなった。
『SAYONARA 国立競技場 FOR THE FUTURE MEMORIAL GOODS デザイナー with カリモク家具』
ponyチェア
実際にメモリアルグッズ販売がスタートすると、反応は米村さんが想像した以上だった。「ありがたいことに、こちらの予想を軽々超えるぐらいのリアクションがありました。販売してみ て、この商品は良かったな、この商品は失敗だったなとかも分かりました(笑)」。
SAYONARA国立競技場FINAL “FOR THE FUTURE”』
電光掲示板を使った時計卓上プランター芝生製品
「商品の出来としては成功でしたが、ビジネス的に失敗だったのは芝生。乾燥させてキーホルダーという商品はよく見かけますが、関西のスポーツ施設関連企業に協力してもらい、茨城に 畑をつくって、そのまま卓上プランターとして販売していたんですが、まあお金がかかる(笑)。一番人気が出て、アイデアとしては良かったんですが、コストパフォーマンスの問題ですね(笑) 。販売して1番良かったのはカリモク家具さんがデザインした椅子。凄く評判が良くて、記念品でもそのまま売るのではダメなんだなと分かりました。記念品として、眺めておきたいもの、実用的 で、普段から使えるもの。この線引きが重要なんだなと、かなり勉強になりました」。こうして、ゼロからスタートしたプロジェクトは成功を収めた。
『日本青年館メモリアルグッズ』
ホールゲート
この成功をきっかけに「日本青年館」「両国国技館の土俵」とメモリアルグッズ企画はさらなる展開を見せ、その全てで評価を得た。今回のホテルオークラのメモリアルグッズ販売は、こ れら実績を残したからこそ決まったもの。「私たちのプロジェクトと、ホテルオークラの意向が合致したからこそですね。国立競技場や日本青年館という前例があったからこそ、いただけた話だと 思っています」。ルームナンバープレートや、壁紙を使ったクッション、シャンデリアを加工したペンダント、イヤリング・・・etc。ホテルオークラのメモリアルグッズも、これまでのプロジェクト に勝るとも劣らないラインナップとなっている。
Memories of Hotel Okura TOKYO ホテルオークラ東京 Charity Project for Music
ラインベースライト
では、こうしたメモリアルグッズはどのように発想されるものなのか。「よく会議とかで侃々諤々、議論を重ねていると思われるんですが、大体がインスピレーションですね。解体作業をしていて、これはこういうグッズにできそうだ、という発想方法もあるんですが、僕の場合は先に技術者や業者さんから逆算して考えます。この素材だったらあの人に頼めばこういうものができそう、とか」。また、カリモク家具に国立競技場の椅子のデザインを頼んだことで、分かった事もあるそう。「国立のブランドに、もうひとつブランドを掛け合わせると、もっと価値が上がるんですね。国立だけでも、大きなブランドなのに、そこに日本における老舗のカリモク家具さんを合わせると両方のファンの方にアプローチできるってことに気づきました」。ホテルオークラのメモリアルグッズでも、山田照明など様々な企業やデザイナーとコラボを行っている。
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商品のラインナップには、その会場や場所を支持しているお客さんの年齢層も重要と語る米村さん。「オークラは対象年齢層が若干高めなので、そこに合わせた商品。国立競技場は、スポーツなども関連してくるので、オークラと比べるともう少し年齢層は低め。誰がどういうものを欲しがるか、という事は念頭に考えます。あと、販売商品を多くしすぎてもお客さんの意識が散っちゃうのかな、とか考えたり。未だに試行錯誤しながらやっていますね(笑)」。メモリアルグッズと言えど、こうしたマーケティングは不可欠なようだ。
ここで米村さんが、マーケティングを意識するきっかけとなった経験について語ってくれた。「前の会社で一緒に開発を行っていたのが、アメリカのスタンフォード大学なんです。そこは 凄く面白い大学なんですね。スタンフォードは、企業から開発のオファーがあると、大学の研究所側が“それはどれだけ売れるんだ?”って聞くんです。それは大学側も商品のロイヤリティーで儲 けようとしているからなんですが、凄く合理的だなと思って。僕がマーケティングとか、対象年齢を意識するというのは、その経験がでかいですね」。売る側だけではない、作る側もマーケティン グへ高い意識を持つ。米村さんの思考の礎には、こうした経験が大きく関係していた。
米村さんが行うのは、商品開発やマーケティングだけではない。その前段である企業へのアプローチにも携わる。「最初に企業の方にお願いするのは、“これで出た利益は社会貢献に使っ てください”ということです。例えば、これが売れたら新しい国立競技場の柱の一本にはなるだろう、とか考えたら楽しいじゃないですか。それはひとつのやりがいですね。あとは、日本の若い技 術者や若い経営者を少しでも支援できたら、という想いもあります。日本は起業する率が最も低い国なんですね。それは思ったより簡単に起業できるという事を多くの人が知らないだけだと思うん です。僕が前に起業したときは資本金1万円でしたから(笑)。だからこそ、若くして起業している人は支援していきたいと思っています」。自身の経験を踏まえ、日本の若き技術者へ手を差し伸 べる。日本の未来に向かって、経営者の底上げにも一役買っているのだ。
浮世絵 製作の様子
若い人材だけではない。米村さんの目は日本の古きよき伝統的な技術にも向いている。「今、日本では浮世絵の技術を継承する職人さんが本当に少なくなってきており、このままではこの 素晴らしい日本の技術が廃れてしまうかもしれない。伝統工芸に新しい企画要素をプラスし、現代のニーズにあった商品を作ることで、伝統工芸が抱える問題を解決できる一助となるのでは?と考 えました。そうした素晴らしい伝統工芸をPRする窓口にもなりたいと思っています」。伝統的な技術の火を絶やさない。こうした想いも、米村さんの原動力のひとつだ。
RE:MRMBERプロジェクトリーダー 米村修治
解体から企画の立案、企業との交渉までほぼひとりで行っている米村さん。「まず、その商品を取り外せるか、とか、中は空洞かなとか叩いて調べていたら、その会場の方に“チケットぴ あの方ですよね?工事の方かと思いました。だって普通素材とか調べないですよ”って言われたりとか(笑)」。こうした尽力のもと、プロジェクトは今やお茶の間の人々も知るコンテンツにまで 成長。米村さんは最後に力強くこう話した。「これから東京オリンピックに向けて、様々な場所が改修されたり、解体されたりしていくと思います。その過程でもしこういった「RE:MEMBER」に興 味がある会場の方がおられましたら、是非ぴあの米村まで連絡いただきたいですね。あとは、技術を持っている中小企業の方や、伝統工芸の方もどしどし連絡いただきたいですね」。 多くの人の想いが詰まった場所を、ただ壊して廃棄するのではなく、商品として想い出に残す。その利益でまた新しい場所が作られる。技術者も経営者もプロジェクトに関わる事で、自分のPRにな る。多方面に幸福をもたらす「RE:MEMBER」。これからの動向も注目したい。