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チケットぴあインタビュー

ラファウ・ブレハッチ

ラファウ・ブレハッチ
2005年のショパン国際ピアノ・コンクールで優勝し、あわせてポロネーズ賞やマズルカ賞なども受賞し……という事実は事実として、25歳のラファウ・ブレハッチは(周囲が意識するほど)その“過去”へこだわっていないように見えた。
「もちろん人生の分岐点ではありました。コンクール以降はたくさんの聴衆の前で何回もコンサートを行い、スーツケースを引きずりながら飛行機や車で移動する日々になりましたから。3年先の予定を決めなくてはいけないことも多くなり、人生をもっと長いスパンで考えるようになりました」
……と、話してくれる彼だが、すでにコンクール優勝者というシートからは立ち上がり、自らの音楽を追究するべく歩いているのだ。今回の来日ツアーは生誕200年を記念したショパン作品オンリーのプログラムであり、今年の初めからヨーロッパ各地で披露してきた作品たちでもある。
ポーランド人だけのものではない、マズルカやポロネーズ

――今回のツアーでは、ポロネーズ、マズルカ、バラード、ピアノ協奏曲第2番という具合に、ショパンの作品中でもポーランドを意識したと思われる作品が選ばれています。これは、なにか意図がありますか。

特にポーランドらしさを強調しようと考えたわけではありませんが、やはりショパンの音楽における大切な一面ですし、僕自身がポーランド人として、日本の皆さんにポーランドらしい舞曲のリズムやメロディを聴いていただきたいという思いはあります。もっとも日本だけではなく、ポーランド以外のヨーロッパ各国にもアピールしたいと思っています。それにショパン・コンクールでは「ポロネーズ賞」「マズルカ賞」という、非常に名誉ある賞をいただきましたから、5年たった今、あらためて現在の演奏を聴いて欲しいという気持ちもあります。将来的にマズルカは、やはり全曲をレパートリーに入れたいですね。


――私たちはつい「ポーランドのピアニストだからポロネーズやマズルカの演奏にかけては素晴らしいのだろう、また他の民族にはわからない何かをもっているのだろう」と思いがちですけれど、ご自身ではどう思われますか?

これは、慎重に答えなくてはいけませんね。もちろんポーランド人だから弾きこなせるとか、あるべき演奏スタイルを習得できるとか、そのようには思いません。ポーランド人でなければ、ほんの少しだけ道が険しいかなとは思いますけれど、ショパン・コンクールでも日本人を含むアジアのピアニストたちが素晴らしい演奏を聴かせてくれますし、中国のピアニストがマズルカ賞を獲得したこともありました(註:第5回でのフー・ツォン)。ポーランド人でもなかなかマズルカ賞を獲得することができないのですから、あの独特の雰囲気をつかめること自体が難しいということなのだと思います。たとえば、ドビュッシーの「グラナダの夕べ」はスペイン人でなければ上手に表現できないと言われてしまったら、とても悲しいですよね。むしろショパンの音楽にとって大事なのは、ポーランド性やリズムのことよりも、ピアニスト個々の音楽性ではないでしょうか。


ショパン自身の演奏を常に意識しています

――ショパンの音楽にはさまざまな面がありますけれど、ブレハッチさんはどの部分を大事にしていますか。

眺めたときに読み取れる美的なもの、そこに込められた感情、ショパンが思い描いただろう音色など、すべてです。中でも特に大事にしているのは「音色を探す」ということでしょうか。音色については特に感覚を研ぎすますことが必要です。楽譜の中にある感情に合った表現をするために、どのような音色が適切であるかは大きな問題だと思うのです。もちろん他の要素、たとえばショパン自身が「多用しすぎないように」と指摘しているテンポ・ルバートの扱い方なども見逃すことはできません。


――ショパンはピアニストでしたから、ブレハッチさんにとっても“同業者”として意識せざるを得ないことが多いでしょう。

彼が残した手紙や弟子たちへの指示、他者がショパンの演奏をどう評価したかということは、とても参考になりますね。たとえばある手紙にはショパンの演奏について「天使のような演奏だった」とあるのですけれど、たったそれだけでもデリケートな表現を大事にしていたことは伝わってきます。常に「ショパンだったら、どう演奏するだろうか?」と考えることは間違いありませんし、逃れることができませんね。もっとも当時と現代では、楽器もコンサートホールも聴衆も違いますから、現代のこの環境に変換して演奏することもまた、自分に問われている課題なのだと思っています。え? ショパン自身に会えたらですか? 「こんな難しい曲を書いて!」……とは言えませんよね。やっぱり「こんな素晴らしい曲ばかり、ありがとう」でしょう。もうひと言、言わせていただけるなら「もっと書いて欲しかった」ということでしょうか。


――楽譜は、どの版を使っていますか。

子供の頃から親しんでいるパデレフスキ版です。まだ僕が小さかった頃には、エキエル版(ナショナル・エディション)もすべての曲が出版されていませんでしたし、ショパン・コンクールのときにもパデレフスキ版で準備をしていましたから、すぐに他の版を試してみるような余裕はなかったんです。


ぜひ一度、浜松で本格的なリサイタルを

――ところで、年間のコンサートを何回くらいで抑えるか、決めているとうかがいましたが本当ですか?

そうです。およそ40回というところでしょうか。ショパン・コンクールに優勝した次の年は、本当にたくさんのコンサートを行いました。そこで自分の限界点を意識したんです。翌年からはその限界、つまりそれが年間40回というラインなのですが、そこに目標を置くようになりました。もっとたくさんのコンサートをすることもできるとは思っていますよ。でも、コンサートを開く以外の時間も、今の自分には大切です。たとえば新しい曲のレパートリーを増やしたり、CD録音のプランを考えたりもしますし、2年前から哲学を勉強しているのですが、音楽以外についても興味が尽きないことはたくさんありますから。


――年間で40回だとすると、日本の割合は多いですね。

日本に来られたのですから、できるだけたくさんの方に聴いていただきたいんです。いろいろなコンサートホールで演奏しますけれど、どこも音響が素晴らしく、お客様も集中して聴いてくれます。これはピアニストにとって、とても素晴らしいことなんです。でも、実はいま気になっている街があるんですよ。それはコンクール(2003年、第5回浜松国際ピアノコンクール)で訪れたことがある浜松なんです。最初に日本へ来たとき、成田空港からまっすぐに向かったのが浜松でしたから、思い出深いですね。浜松ではぜひ本格的なリサイタルを開いて、あの街の皆さんに聴いていただきたいと思っています。そういえば名古屋にはおいしいポーランド料理のレストランがあったのですけれど、どうやら閉店してしまったようです。東京にポーランド料理のレストランはありませんか?(笑)


――これからの予定や希望を教えてください。

3年前のコンサート・ツアーで演奏した、J.S.バッハやドビュッシー、シマノフスキなどを、もっと弾き続けたいですね。実は次にCD録音したい曲も自分ではもう決めていまして……(同席したユニバーサル・クラシックスの担当者に)もう言っちゃってもいいですか?……次のCDはドビュッシーの「ピアノのために」「版画」「喜びの島」、そしてシマノフスキのピアノ・ソナタを入れるつもりです。また別の自分を、みなさんに楽しんでいただけると思いますよ。


取材・文:オヤマダアツシ


◆ラファウ・ブレハッチ ~ショパンの真髄~
10月6日(水) サントリーホール 大ホール
10月9日(土) 愛知県芸術劇場 コンサートホール
10月15日(金) 川口総合文化センター リリア メインホール
10月17日(日) ザ・シンフォニーホール
10月19日(火) 東京オペラシティ コンサートホール
10月21日(木) アクロス福岡 福岡シンフォニーホール
10月23日(土) 横浜みなとみらいホール 大ホール
ラファウ・ブレハッチ

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ラファウ・ブレハッチ

ラファウ・ブレハッチ

(c)Felix Broede