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チケットぴあインタビュー

下野竜也

下野竜也
2013年2月の「卒業公演」で振るブルックナー「交響曲第5番」を最後に、読売日本交響楽団での正指揮者としての任期を終える下野竜也。この6年間、三代にわたる常任指揮者とともにオーケストラを導き、いくつもの冒険的な試みを達成したことは、50年の歴史をもつ読響にとっても大きな飛躍となった。現代音楽のレパートリーを意欲的に取り入れ、新作の日本初演を行なう一方で、ドヴォルザークの交響曲全曲演奏を実現。知られざる初期作品も紹介した。2013年4月からは、首席客演指揮者として、読響とのパートナーシップを続けていく。「有終の美」を飾るブルックナーについて、そして読響との今後について話を聞いた。

――読響正指揮者としての「卒業公演」に下野さんが選んだのはブルックナーの「交響曲第5番」でしたが、これはずいぶん前から決めていたのですか?


そうですね。スケジュールはだいたい2年くらい先まで決めておくんですが、ちょうどこの月は定期演奏会ということになっていたので、正指揮者最後の曲は僕の好きな曲でしめくくることにしたんです。もうひとつ、スメタナの「わが祖国」も、過去にやって評判がよかったというので候補に上がっていたんですが、せっかくなら、読響とやったことがない曲で、僕がやりたいものにしたいということで、この曲になりました。


――下野さんと読響といえば、ブルックナーの第4番も記憶に新しいですね。40代前半の「若者」がブルックナーを取り上げると、風当たりも強いということを仰っていましたが…(笑)。


ブルックナーは特にそうですよね(笑)。巨匠がやって成果を得られる作品、というイメージがありますし、特にわが国ではそうなのかもしれません。しかし割とヨーロッパの方はフレキシビリティがあると思います。よくいえば「挑戦」なんでしょうけど。でも、どんな作品でも年をとったからいいというのではなく、若いうちから続けていったプロセスが、巨匠たちの名演につながっていると思うんです。もちろん熟成する時間も必要だと思うけど。


――逆に90歳近くのスクロヴァチェフスキさんが長い曲を振ると、私などは「ああ、大丈夫なのかな」と心配してしまうこともあります。


でも、ベテランの指揮者は俯瞰して曲を見られるので、息切れすることがないのだと思います。一方、僕らの場合は息切れをしてしまうこともありますね。ブルックナーの5番は80分かかりますが、この長さはオペラではざらですよね。この曲は交響曲ですので、それぞれの楽章の中にドラマがある。四つの山が並んで、大きな連峰になる。その中で、自分がどこにいるのかという位置関係を意識しながら振ることが大切だと思っています。


――なるほど。ブルックナーは「連峰」なのですね。ブルックナー5番は2006年に名古屋フィルハーモニー交響楽団でも振られています。当時から変化はありますか?


根本にある解釈は変わっていないと思います。ただ、譜面の上で見落としていることは、どの曲でもありますね。浅いキャリアだから、あって当然なんですけど。名古屋フィルのときのことも覚えているけど、あのとき悩んでいることを、今回も悩んでいるし…。でも当時悩んでいたことで、今歴然として悩まないことも出てきますね。そういう意味では、同じ演奏というのはないんです。


――読響とは6年やってきて、意思疎通の面で特別な関係が築けたのではないでしょうか?


6年間というのは、長くもあり、あっという間でもあり。この6年で、多くを語らずして、お互いにことを動かせる関係性が築きはじめられたかな、とは思っています。「築けた」と断言するような言葉は、まだ未成熟だから言えませんが「下野はこういうことがやりたいんだね」ということを、最初の頃より楽員さんも把握してくださっていると思います。その意味では、達成度は高くなっていますね。


――下野さんが正指揮者になってから、現代作品の名曲をたくさん聴けたのは、聴衆としても大きな宝物でした。コリリアーノの曲など、難しいというよりもとてもオーガニックで、聴いていて楽しかったですし。


現代音楽って、特に日本では突然変異のように出てきた印象があるけど、僕がウィーンに留学したときに感じたのは、とても歴史の必然を感じる音楽だということだったんです。やはり、音楽が生まれて…最初の音楽は足踏みでしょうね。手拍子かも知れないし。それから、ずっとずっとずーっとつながって、現代に至ってるんですよね。ジョン・ケージみたいなのも、突然出てきたわけではないんです。ただ、作品が変容していく様が、この100年はとてつもなく早かった。遡れば、ベートーヴェンがぐっと時間を早く進めたわけで、それからしばらくベートーヴェン・シンドロームみたいなのにみんな悩まされながら、伝統を踏まえた上で革命的なことを始める人たちが出てくる。ついに大事件として出てくるのが、調性の崩壊なわけですよね。


――現代音楽は太古とつながっている、と。


読響では、ジョン・アダムスの「ドクター・アトミック・シンフォニー」もやりましたし、コリリアーノの交響曲もとりあげましたが、難しいだけじゃなく「面白かったね」っていう反応も増えてきたんです。指揮者としては、現代音楽は若いうちにやっておくべきだと思います。パワーがいりますし、譜面も細かいので。読響とやったアリベルト・ライマンのオペラ「メデア」などは拡大コピーを食卓の上に置いて勉強してました。畳半畳の世界です。それくらい大きくないと音符が見えない(笑)。


――凄い…。楽譜が難解なことくらいで、音を上げてはいけないのですね。ところで、下野さんのいた6年間、読響ではアルブレヒト、スクロヴァチェフスキ、カンブルランの三人が常任指揮者でした。


どのマエストロからも多くのことを学びました。カンブルランさんの代で「顔のわかるオーケストラ」というのが浸透してきたと思うんですが、その一翼を担わせてもらえているなら嬉しいですね。客演ごとに七変化するのもいいけれど、オーケストラは同じ方向を向いているのが理想だと思うんです。カンブルラン先生のような素晴らしい上司に恵まれたのは幸運でしたし、大先輩のもとで勉強できたと思ってます。


――指揮者は、一生「勉強」なのですね。


指揮者というのは、傍目ほどカッコよくない職業なんですよ。自分がなってみて、勉強してみて思ったことです。指揮台の上で演奏会の指揮をしている時間も大事だけど、それがすべてじゃない。準備の段階が大切なんです。尊敬するプレイヤーが、こんなことを言ってました。「ぼくらは指揮者の背中の向こうを見て演奏している」と。手を見ているんじゃない。どんな人生、バックグラウンドの持ち主なのか、人柄ふくめて見られているんだと。なるほどな、と思いました。


――多勢に無勢で…そんなふうに見られるのは結構なプレッシャーですね。


付け焼刃の勉強でやったところで、すぐに見透かされてしまうんです。最低限の勉強をしないで指揮台に立つというのは、あってはいけないことだと思いますが。ウィーンの師匠が、「指揮者では誰にもなれるけど、指揮者の勉強を続けることが難しい」と言っていました。ずっとずっと続けることが難しい。譜面を何回も見直して、人の意見を聴く。お客さんの意見も、とても示唆に富んでいることがありますしね。


――4月からは首席客演指揮者として読響との新たなパートナーシップがスタートします。2013-2014年のプログラムももう決定していますね。ブラームス「交響曲第1番」、ドヴォルザーク「レクイエム」、バッハ編曲集、ムソルグスキー「展覧会の絵」など、名曲が並んでいます。


公演の回数でいうと、正指揮者の頃と比べて少なくなってしまうのですが、これまでのような現代作品とはまた違った、クラシックの王道レパートリーもやっていこうと思っています。去年の「メデア」に続いて、二期会・日生劇場と読響が共同で取り組んでいるアリベルト・ライマンのオペラ「リア」の日本初演も11月にありますし、全力投球で頑張りたいと思っています。



取材・文:小田島久恵


■読売日本交響楽団 正指揮者・下野竜也“卒業”公演
《有終のブルックナー》
2013年2月18日(月) 19:00開演 サントリーホール
2013年2月20日(水) 19:00開演 東京芸術劇場
ブルックナー:交響曲第5番 変ロ長調 WAB.105(原典版)

■読売日本交響楽団 2013-2014シーズン 下野竜也出演公演
[第4回読響カレッジ]
2013年9月20日(金) 20:00開演 文京シビックホール
《芳醇なるブラームスの世界》
ブラームス:大学祝典序曲 作品80
ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 作品68

[第162回東京芸術劇場マチネーシリーズ]
2014年1月18日(土) 14:00開演 東京芸術劇場
[第69回みなとみらいホリデー名曲シリーズ]
2014年1月19日(日) 14:00開演 横浜みなとみらいホール
バッハ(オネゲル編):前奏曲とフーガ BWV545
バッハ(レーガー編):「おお人よ、汝の罪の大いなるを嘆け」BWV622
バッハ(ホルスト編):ジーグ風フーガ BWV577
バッハ(ラフ編):「シャコンヌ」 BWV1004
ムソルグスキー(ウッド編):組曲「展覧会の絵」

[第535回定期演奏会]
2014年3月12日(水) 19:00開演 サントリーホール
ドヴォルザーク:レクイエム 作品89

[第569回サントリーホール名曲シリーズ]
2014年3月18日(火) 19:00開演 サントリーホール
ラロ:歌劇「イスの王」序曲
矢代秋雄:ピアノ協奏曲
フランク:交響曲 ニ短調
下野竜也

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プロフィール

■下野竜也 Shimono Tatsuya
2006年11月、読響の初代「正指揮者」に就任。ヒンデミットとドヴォルザークを軸としつつ、新作初演にまで取り組む意欲的な活動で、高い評価を得ている。
1969年、鹿児島生まれ。鹿児島大学教育学部音楽科を経て、桐朋学園大学音楽学部附属指揮教室で学ぶ。96年にはイタリア・シエナのキジアーナ音楽院でオーケストラ指揮のディプロマを取得。97年から99年まで大阪フィル指揮研究員として朝比奈隆氏を始め数多くの巨匠の下で研鑽を積む。99年、文化庁派遣芸術家在外研修員に選ばれウィーン国立演劇音楽大学に留学、01年6月まで在籍。
2000年第12回東京国際音楽コンクール〈指揮〉優勝と齋藤秀雄賞の受賞、01年第47回ブザンソン国際青年指揮者コンクール優勝で一躍脚光を浴び、国際的な活動を開始。チェコ・フィル、シュトゥットガルト放送響、ローマ・サンタチェチーリア管、ミラノ・ヴェルディ響、ストラスブール・フィル、ウィーン室内管など、各国のオーケストラに次々と客演を重ねている。10年のサイトウ・キネン・フェスティバル松本では、小澤征爾氏に託され、オーケストラコンサート4公演を指揮。同年12月にはサイトウ・キネン・オーケストラのニューヨーク公演に登場し、カーネギーホール・デビューを飾った。11年4月には南西ドイツ・フィルにデビューするなど、国際舞台での活躍が目覚ましい。また、アフィニス音楽祭、霧島国際音楽祭、宮崎国際音楽祭、別府アルゲリッチ音楽祭など、各地の音楽祭にも招かれている。
07年4月から上野学園大学教授。11年1月、広島ウインドオーケストラの音楽監督に就任。出光音楽賞、渡邉曉雄音楽基金音楽賞、新日鉄音楽賞・フレッシュアーティスト賞、齋藤秀雄メモリアル基金賞など、受賞も数多い。