- 昨年は20周年のアニバーサリーイヤーだった怪談ナイトですが、大きく今年のコンセプトについてお話いただいても良いでしょうか?
稲川 「私、そういう風に見られないんだけど、やさしい怪談とか、笑える怪談も好きなんですよ。で、そういう話をすると、凄いいっぱいお手紙もらうんです。おかしな話で、若い頃5年間働きづめで、私のような安いタレントでも番付に載るくらい稼がせて頂いたことがあったんですね」
- (笑)。
稲川 「ホントですよ(笑)でも、不思議なもんで、その時は貰えなかったファンレターが、怪談始めてからたくさんいただけるんですよ。身の上相談から感想、励まし…ありがたいですよね。そのファンレターでいただく感想で多いのが、「泣いて帰りました」「感動しました」っていうの。一般的なイメージで考えるとおかしいでしょ?怪談で感動するなんて。でもあるんですよ。これはいわゆる「ホラー」と呼ばれるものにはないんだな」
-そこが怪談とホラーの違いなんですね。
稲川 「そうそう。で、コンセプトのお話をすると、今年はそういう感動する話は一つもないんですよ・・・。今年はね、座ったっきり立てないかもしれない。あまりの怖さに」
- おーっ!いいですね!
稲川 「今年は例年より多く話をやろうと思ってましてね、なので話も多く用意しているので、同じ会場でやる時とかは話を差し替えようかなとも思ってるんですよ。…でもね、そういう事やると、呼び寄せちゃうのか、不思議な事起こったりするんですよね(笑)それが楽しみだったりもするんですけど(笑)」
- (笑)。
稲川 「話をまとめている時だって、妙な事たくさんあったもんなー、変な幻覚見たり。あまりの怖さに何度ちびった事か、パンツなんてもうグショグショ(笑)」
- あはははは!それは期待できますね。昨年はアンコールメニューだったので、稲川さんにとって2年ぶりの新作ですもんね。
稲川 「そうですね、昨年がそういうメニューだったので、今年は時間に余裕があって。だから怖いですよ、期待してください(笑)」
- 昨年のお話が出た所でお聞きしたいんですが、昨年稲川さん自体が大病を患われた事で、怪談との向き合い方は変わりましたでしょうか?
稲川 「病気で怪談が変わったということはなくて、むしろ怪談を常日頃やっていたから、病気に対して余裕があったというか。怖くなかったですね。むしろ周りのスタッフとかの方が慌てふためいていたな(笑)。あとね、一つ言える事は「自分の体は自分が良く分かってる」という事。私、先生に自分から「ガンですよね?」って聞いたんです」
- えっ、そうなんですか!?
稲川 「そしたら「そうだ」って。それで先生に「怪談ナイト20周年とか、あと色々片付けたいことがあるから、あと2~3年、時間いただけないでしょうか」って聞いたら「あんたほっといてもあと5年は生きるよ」って言われて、「なんだ、じゃあ5年経ったら手術しようかな」って言ったら先生ズッコケちゃって(笑)、「悪いこと言わないから今手術しなさい!」って(笑)」
- 凄いですね(笑)。そして無事20周年を昨年迎えられた訳ですが、20年前と今で稲川さん自身怪談に対し変わった所などはありますでしょうか?
稲川 「ひげの形が変わったかな」
- (笑)。
稲川 「あとね、朝起きたらここにあった筈の毛がないんだよ! (おでこを指しながら) あれはびっくりしたな~」
- 見た目ですね(笑)。
稲川 「あ、でもね、よく言われるのは、最初の頃に比べたら声が低くなったかな。よく年取ったら声が高くなるっていうけど、私は逆なんだね。怪談っぽい声になってるなあ」
- バラエティに出てらっしゃった頃とは違いますものね。
稲川 「あれはね、バラエティの声を出す努力をしていたんだな。前の日酢を飲んだりして(笑)」
- (笑) 涙ぐましい努力をされていたんですね。
稲川 「それは冗談としても、でもバラエティと怪談も根本は同じですよ。人を楽しませようとする努力。未だによくあるパターンで、最後に「それは・・・お前だ!」っていうオチのやつあるじゃないですか」
- よくあるパターンですね(笑)。
稲川 「あんなの全然面白くないでしょ?そうじゃなくて、きちんと積み重ねがあって、「怖い怖い・・・」っていうリアクションがあって、話の核心があって、最後に「あー怖かった・・・もうちょっと聴こうか」って余韻があるのが良い怪談なんですよ」
- なるほど。
稲川 「会場でやってると、話の途中で怖すぎて、お互いの肩を持って「怖い!怖い!」ってやってらっしゃる方いますけど、ああいう人の顔を見るのがたまらなく好きですね(笑)。聴いてくれている方が楽しんでくださると、やってるこちらもとても嬉しいなあ」
- ぜひお聞きしたいのが、セットへのこだわり。昨年は参道の団子屋でしたが、毎年打合せはされているんですか?
稲川 「前はプロデューサーから「どういう話をします?」って聴かれて、その年の傾向を話していたんだけど、怪談話って生き物みたいなもので、当日予定していた話を、直前でまるっきり替えちゃうってことがあるんですよ、それも一度や二度じゃないんです、しょっちゅうあって(笑)」
- (笑)。
稲川 「だからセットも、せっかく話のイメージに合わせてもらったのに、直前で替えちゃうと、全然イメージと合わないって事になりかねないんで、最近は「ふるさと」っていう大きなイメージだけ伝えて、あとはお任せしてますね。」
- じゃあ、ツアー初日に初めて見るという感じなんですね。
稲川 「そうです、しかも私、それは第一回目からそうなんだけど、リハーサルをほとんどしないの。簡単なマイクチェックだけ。だから、プロデューサーにはどんな話があるか事前に伝えてあるけど、それ以外の人は当日僕が話し出すまで、どんな話するか知らない。だからお互いに僕はステージを本番で初めて見るし、スタッフは本番で初めて話を聞く、どちらもお客さんと同じ立場でそれと向き合うんですよね」
- 稲川さんとスタッフさんの勝負みたいな感じですね。
稲川 「そう、だから音響さんとか大変だと思うよ。プロデューサーのキューで音とか照明とかぶっつけ本番で変えていく訳だから。でもね、前に感動したのが、私の話でお札をはがしてクシャクシャにする描写があるんですね。「ペリッ、クシャクシャ」って言う音。その音がずっと鳴り続けるっていう描写なんだけど、当然私はずっとその「ペリッ、クシャクシャ」って音を出せる訳無いから、話の続きに移ったら、音響から「くしゃくしゃ」音が流れてきたんですよ。ほんの少しの間で準備して、それを流してくれたわけ。あれは感動したなー」
― スタッフさんとの阿吽の呼吸、信頼関係がなせる技ですね。
稲川 「あと信頼関係で言うと、怪談の場合はお客さんもそこに加わっていると思いますね。話す側、聞く側って別れてるんじゃなくて、お客さんも参加者みたいな。皆さんが「怖い!怖い!」っていう雰囲気を出してくれるから、「怪談を話す」っていう空気になるんです。だから私もお客さんには毎回信頼を寄せているし、感動させてもらってますよ。私の怪談ナイトの場合、セット、お客さん、スタッフが良いのであって、私は4番目以降です(笑)」
- いえいえ(笑)。では語りつくせないと思いますが、2013年の怪談ツアーを一言で表すとしたらどんな言葉になるでしょうか?
稲川 「今年は「怖い」ですかね。あと、「不思議」。会場に不思議な風が吹くんじゃないかと思いますよ。深い谷あいにいるような風が。耳を澄ましたら何か聴こえるかもしれない、もしかするとステージに現れるかもしれない(笑)」
- (笑) それは俄然楽しみですね。では最後に、このページを見ている方にメッセージをお願いいたします。
稲川 「昨年20周年を迎えて一つ区切りがついたので、今年は新たなスタートだという気持ちでいるので、ぜひ来て欲しいですね。あと、ちょっと定番っぽくなっちゃうけど、今年の夏は暑そうなので、私の怪談でちょっと涼んでみませんか?会場でお待ちしています。」
取材・文:佐久間隆 (ぴあ)
★「稲川淳二の怪談ナイト」ツアースケジュール★
7月20日(土) ~ 10月18日(金)
※詳しくはチケットページにてご確認ください。 ⇒こちら
photo h.kano