チケットのことならチケットぴあチケットぴあ

こんにちは、ゲストさん。会員登録はこちら

チケットぴあインタビュー

Dragon Ash

Dragon Ash
Dragon Ash最新作『MIXTURE』は、おそらく、原点回帰との言葉で語られることの多いアルバムである。ディストーションの効いたギターにラウドなドラム。『INTRO』から全編を貫くスクラッチ。なにより、Kjのリリックが前作までの「音を楽しむ」ものから「音で闘う」ものとなり、久しぶりのガチなラップも耳と心に突き刺さる。だが、それでもなお、原点回帰などというベタな言葉でくくってよいのかとの違和感があるのだ。安易な四文字の言葉ではなく、その先、その奥のなにかにインタビューでたどり着きたい……。メンバー7人揃っての取材は、よく言えばミクスチャーなインタビューとなり、悪く言えば雑多なものとなった。

――まず、お聞きしたかったのが、メンバーそれぞれの最新作『MIXTURE』のイメージについて。もしも、漢字一文字で現すなら、どんなアルバムなのでしょうか?


Kj 「一発目の質問がそれ?……くだらねぇ(笑)」


――え? くだらないですか?


Kj 「いや、おもしろい質問です(笑)」
桜井「じゃ、僕から。『混』で」
Kj 「俺は『固』で」
BOTS 「俺は『轍』」
ATSUSHI 「『誇』」
HIOKI 「『勢』」
IKUZONE 「『夢』」
DRI-V 「………………『轍』」
BOTS 「俺が言ったじゃん!」
6人 「はははははは!」
Kj 「『千葉』でいいじゃん。二文字だけど」


――(笑)。最新作には、音楽的な意味でのミクスチャーだけでなく、メンバーそれぞれの感情や生き様も混在しているような気がしました。


Kj 「そうですね。でも、俺が思うのは感情というよりも生き様、ライフスタイルやWAYのほうが詰め込まれていると思う。今回、『次世代へのメッセージを強く感じる』という感想を数多くもらうんだけど、俺自身はメッセージ性が強いというより、自分自身が思ったり感じていることを、かなりハッキリと歌ってるから伝わりやすかったのかなって。たとえば、"百の敵を作ることを恐れていては千の味方も作れない"。これは、男の子としての俺の思想なんだけど、別にそれが絶対的に正しいと思っているわけじゃなくて、あくまでも俺の意見であり、体現してきたことでもあるからね」


――なるほど。逆に言えば、次世代ではなく40代が『MIXTURE』を聞いて感動しても嬉しいことですか?


Kj 「全然嬉しい。そもそもさ、聴き手の感情や感触をコントロールしようなんていうのは、表現者にとってエゴでしかないわけで。とくに今回は、自分の思想やバンドへの信頼感・・・・・・ベースなりスクラッチなりギターなりドラムの音なりを全面に打ち出して作ったアルバムで、どこでなにを言われようがすべてを受け入れる覚悟があるってことだから。賛否両論を甘んじて受け入れる。その代り自由に表現する。それが表現者に課せられた十字架であり対価であると俺は思っているから」


――最新作には「音楽を楽しむ」という前作までの流れよりも「音楽で闘う」という姿勢が感じられます。


Kj 「うんうん。それはある」


――それは、今の時代ともリンクしていますか?


Kj 「すごくしてる。まず、今の時代は、ロックバンドに限らずクリエイターに対してあまり寛容ではないっていうのがひとつ。あとひとつは、『FREEDOM』までの音楽と戯れる時期がすごく楽しくて達成感があって、でも、もう一度収穫を祝うために今は剣を握る季節だというか。今の時代は、音楽業界が疲弊して摩耗している。たとえば、チャートを見てもアイドルばっかだとかね。別にアイドルが悪いと言っているわけじゃないですよ?」


――わかります。


Kj 「ただ、20歳も年の離れたさ、職業として作詞をしている人たちの言葉をまったく意味もわからず歌うのと、自分が傷ついて涙して喜んで笑って紡いだ言葉をバンドのみんなで曲にして演奏するというのは、まったく違うモノだから。で、俺はだけど、疲弊した業界に対して『アイドルばっかだな』とか、酒を飲んでクダをまいてるぐらいだったら、ロックバンドが、いかに断固たる決意で生き様として音楽を鳴らしているかというのを、ミクスチャーという音楽をまったく知らない人にも一聴してわかるものにして作って発表したかった」


――なるほど。『MIXTURE』は、Dragon Ashにとっての原点回帰のアルバムであると語られる機会が多いと思います。でも、個人的には、そんな簡単な言葉でくくることに、ものすごく違和感があって。


桜井 「どういうことですか?」


――ある救命病棟で働いている看護師の方に取材をする機会があったんですね。その人は10年間、同じようなことで悩んでいると。「ひとりでも多くの人を救いたい。でも救命病棟に運ばれて来る人の多くは救うことができない。しかも時として、患者さんを機械の部品のように感じてしまうこともある。いつから私はこうなってしまったのか。でも、救えた時は嬉しい。でもでも……」と。


Kj 「その人の気持ち、すげぇわかりますよ」


――その時、思ったんです。その逡巡は螺旋階段ではないかと。要は視点の置き方の違い。視線を上に置くならば、同じようなことで悩んでいるように感じるけれど、その視線を横にするなら、少しずつかもしれないけど上昇しているんじゃないか、まるで螺旋階段を昇るようにって。


桜井 「なるほど!」


――だから、『MIXTURE』も原点回帰じゃなくて、7人で螺旋階段を昇ってきたジャスト今の大切な果実なのではと。


桜井 「螺旋階段という表現は、かなり的を射ていると思います。たしかに今回は、“原点回帰のアルバムですね”と評価してもらうことが多いんですけど、ぴあの視点が一番しっくりきたし嬉しいですよ」
Kj 「うん。ロックンロールのイズムで言えば、Rollingstone gathers no moss.ですよね。転がっている石だからこそ苔は生えない。でも、俺らのユリの旗は闘いの度に7人で縫い合わせてきたから。そのままの旗を振ってきたわけじゃない。だからこそ、螺旋階段と感じてもらえたんだろうし、自分たちの轍を振り返るならループではなくスパイラルだったとも思う。ただ、ぴあには申し訳ないけど、以後の取材では、まるで自分たちの言葉のように螺旋階段の話をするけどね(笑)」
6人 「ははははははは!」
IKUZONE 「俺、そういう人に命を救われたことがある」
Kj 「マジで?」
IKUZONE 「うん。心肺停止したことがあるんだけど、その時に救急車で来た人が、自分の判断で適切な処置をしてくれて。その処置って、本来は医師免許を持っていないとしてはいけないことだったのね」
Kj 「じゃあ、その人は仕事をクビになる覚悟でやってくれたんだ?」
IKUZONE 「そうそう。だって、救急車が来た瞬間に心肺停止して2分ぐらい止まったままだったから。その人が咄嗟の判断で『資格がどうのなんて言ってらんねぇ! やるしかねぇ!』って処置してくれたから、今、俺はここにいるわけでさ。だから、救えなかった命もあるだろうけど救えた命も現実にある。……ってことを、今の話を聞いてて、すごく言ってあげたいと思った、その看護師の人に」
Kj 「そうだよね。救われた人が『あなたのおかげで俺は今も生きてるんだ』と言葉にして他人に言えるぐらい感謝しているわけだから」


――アルバムの話から脱線してしまって、なんかすみません。でもまぁ、これもまたミクスチャーということで。


Kj 「雑多、とも言うけどね(笑)」


――ほんと、すんません。それでもなお、螺旋階段つながりでもうひとつ質問を。個人的に井上雄彦さんの『バガボンド』が大好きで。


Kj 「俺も好き。『バガボンド』はやばい!」


――『バガボンド』の中で「殺し合いの螺旋」という言葉が登場します。主人公である宮本武蔵が、鎖ガマの使い手である穴戸梅軒と対峙し勝利する。けれども、勝ったはずの武蔵に対して梅軒は「これで殺し合いの螺旋から降りられる」と命ごいをする。結果、武蔵は勝ったはずなのにそうでないような複雑な思いに囚われて。


Kj 「その場面は俺もすごく印象に残ってる。あと、武蔵が吉岡一門70人と果たし合いをする場面。圧倒的に不利な戦いのなかで武蔵は、70対1で勝負するんじゃなくて、1対1の勝負を何十回と続けることに集中するじゃん? 先を見ずに常に今だと。俺はあの場面にインスパイアされて、前のアルバムの『La Bamba』って曲で“先にも後にもすがらずに 今ど真ん中踊っていよう”と歌にしたほどだから。今ど真ん中の繰り返しと思うことで、明日もそう思う。明後日もそう思うっていうさ。今ど真ん中をくり返すことで、限界を見いださなくなっていけると思うんだ」


――最新作収録の『FIRE SONG』でも「過去や未来 寄り掛りたいけど 今だってど真ん中」とのリリックがグッときます。


Kj 「うん。でもさ、やっぱり、毎日毎日を、今がどまん中だって続けてると『なんで俺はこんなに苦しいことを毎日繰り返しているんだろう?』とは思うわけ。たぶん、武蔵もそうで、“建蔵”もそうなんだよね」


――いちおうツッコミます。Kjさんの下の名前は、建蔵ではなく建志です。


7人 「ははははははは!」
Kj 「でも、その苦悩を充実と感じたり、苦悩の先にミュージシャンで良かったなという“生きた心地”みたいなものを実感しちゃうと、そこからは逃れられないし、忘れられない。それこそ、ミュージシャンという螺旋から志半ばで降りた人もいるけど、俺はまだこの螺旋から全然、逃れられない。だって、10代の頃からの夢の職業だから」


――なるほど。では、ミクスチャーなインタビューも、いよいよ最後の質問なのでみなさんへ。小説にも映画にもない、音楽だけが持つ魅力とはなんだと考えますか?


桜井 「じゃ、またしても僕から(笑)。ことライブに関して言えば、音楽は瞬間的な一体感があると思います。ライブハウスや野外フェス。その時々の会場で、聴覚と視覚だけなく、たとえば匂いといった体感もある。それって、ほかの表現にまったくないとは言えないけど、音楽が圧倒的に強いと思いますね」
ATSUSHI 「俺もさっくんの感覚に近いですね。俺はダンサーだからとくにそう感じるんだろうけど、音楽はやっぱりライブが魅力的だと思う。体感できるってことですよね。あとひとつ思ったのは、音楽って無意識でも感じられるということ。自主的に向き合わなくても、意図的に耳を閉ざさない限り、無意識だろうが音楽は届く。ほかの表現は『観る』とか『読む』とかの自主性が鍵を握ると思いますから。それって、音楽だけが持つ、すごく大きな魅力なんじゃないかなぁと」


――同じくダンサーのDRI-Vさんはどうですか?


DRI-V 「喜怒哀楽が全部詰まっているところ」


――短い言葉ですが、DRI-Vさんのつぶらな瞳で言われると抜群の説得力がありました。


6人 「はははははは!」


――では、BOTSさんは?


BOTS 「うん。俺が今、その質問をされて思ったのは……音楽というより音まで広げさせてもらうのなら、人間だけじゃなくて、すべてのものに影響力があるんだろうなぁって。おいしいフルーツを育てるために、音を聞かせるとかあるじゃないですか?」
桜井 「養豚場でクラッシックをかけたりだとかね」
BOTS 「そうそう。だから、なんつうの。……音楽が与える影響だとかを頭で考えるのは人間なだけで、その範疇に収まらない無限なものが、おそらく音にはあるんだろうなぁって」
IKUZONE 「俺も先に言われちゃった部分もあるんだけど、たとえば母親の体内にいる時って視力が、まだ宿っていないと。でも、聴覚はある。じゃあ、なにを聞いているかっていうと、それって、まるで工事現場のような、ものすげぇ雑音らしいんですよ。で、俺だけじゃないと思うんだけど、重低音の爆音の音楽を聞いていると、すげぇ眠くなるのね。つまり、落ち着く。だから、本当に乱暴なたとえだけど、今、俺が突然視力を奪われてしまったとする。でも、音は聞こえる。さらに、聴覚も奪われたとする。でも、聞こえなくても、骨を伝わって音は"感じられる"と思うんだ。まるで、モールス信号のように。だから、生きているからこそ音がある。それぐらい音楽はすごいと思いました」


――なるほど。HIROKIさんは、どうでしょう?


HIROKI 「俺が思ったのは……まぁ、合ってるかどうかわかりませんけど」


――いや、こんなミクスチャーなインタビューに、そもそも正解不正解なんて存在しないと思います。


HIROKI 「たとえば、俺みたいにギター以外にはなにもやることのないヤツがいる。天才もいるだろうし、文学的な人も、体育会系のヤツもいる。ただ、誰だって音楽の扉を開こうと思ったら、入ってこれるってとこが魅力なんじゃないかな。誰だって、明日からギターをやろうと思ったら始められる。それが、エンターテインメントになるか芸術になるのかはわかんないけど」


――ではラスト。最後のシメってヤツをKjさん、お願いします。


Kj 「俺が思ったのは……これ、マジメな話になちゃうけど、まず、音楽のいいところって、たとえば、『(HIROKIのように)俺にはほかに術がない』と言ってた人がいてさ、なにに抗っていいかもわからなかった男子に革命的ななにかをもたらしているわけですよね。ギターというね。もっと言えば、なにも持っていない弱者の人たちが、すすり泣きながら祈っているところにゴスペルという音楽が、そこに歓喜の声をもたらしているわけですよね?」


――すごくよくわかります。


Kj 「ボブ・マーリーは、いがみあって銃を構えていた政敵同士を、ギターとメロディひとつで握手に変えている。もちろん、音楽ですべてが変えられるわけじゃないけど、変えられる可能性は絶対にある。しかも、ボブ・マーリーのような偉大な人に限らず、たとえば刑務所に入ってた人だってさ、こいつと決めた女のために本当に美しいラブソングを書くことができる。どんな環境で、どんな性格な人でも、名曲を作れる可能性がある。全員が実際に作れるわけじゃないけど、全員に可能性があると思う。あと……でも、長くなんな、この話。文字数的に限界があるんでしょ?」


――いえ、ぴあは太っ腹なので「WEB版は文字数無制限でOK」との確約を取りつけております。


Kj 「……この世界にはさ、いろんな表現があるわけじゃん。心を揺さぶる表現もあるし体を揺さぶる表現もある。でも、心と体を同時に揺さぶる可能性があるのは音楽だけだよね。そのどちらも射抜く可能性を秘めているっていうのは、かなりすごいことだと思う。なぜ、俺がミュージシャンという職業に誇りを持てているかと言えば、そういう側面もめちゃめちゃあるから。音楽が好きだっていうのは、もちろんあるけど、劇的になにかをひっくり返す可能性がいつ何時でもある。それは、どこかの内戦中の国でもありうる可能性だし、この平和な国にもある。アイドル全盛のこの時代にロックがひっくり返す可能性はゼロではない。だからやれる」


――百の敵は作るかもしれないけれど?


Kj 「うん。心と体、どっちも揺さぶられるっていうのは、音楽だけが持つ、かなりすごいことだと俺は思いますね」



取材・文/唐澤和也