――ニュー・アルバム、ついにリリースとなりました。1年半ぶりのアルバムですね。
「1年半……そんなに経つんですね。ついこの前くらいの感覚だったんですが、1年半って長いですよね。自分もファンの立場で考えると、シングルを短いスパンで出して、アルバムを1年以内に出すというペースだったら嬉しいですから。でも作る側に立つと1年半って本当にあっという間なんですよ。だいぶ待たせすぎちゃったかなという感じですが、その分中身には期待してほしいですね」
――少しこれまでのことを振り返っていただいて……そもそもニコニコ動画に投稿されたのはどういうきっかけで?
「ボカロを使いはじめる前から曲は作っていたんですよ。最初はインストトラックを作っていて、歌ものも作りたいなと思ったときに、気軽に頼めるボーカリストがいなかったんです。そこでボカロを使ってみようと。ニコ動は初期から見ていたし、ボカロ曲も聴いていました。でも自分が使うということについてはそれほど熱烈に思っていたわけではなくて、いつかやってみたいな、くらいでしたね」
――そして最初に投稿された『エレクトリック・ラブ』がいきなり大ヒットしましたね。
「最初からヒットするなんて思ってなかったんですよ。再生数が伸びなくても、1年間は定期的にアップしていこうと決めていました。そうしたら、1作目から運良くたくさんの人に聞いてもらえて……嬉しい反面、ついていけませんでしたね」
――ついていけなかったというと?
「それまでMySpaceとかでも曲はアップしていたんです。でもせいぜい1000再生とか、1万再生なんていったらかなりすごいというレベルでした。それがいきなり何十倍という規模感で聴いてもらえて、いろんな人の目に止まるきっかけにもなって」
――ご自身の環境的にも大きな変化だったと。
「ちょうど『エレクトリック・ラブ』をアップしたときが、就職活動のタイミングだったんです。それで、しばらくは就活もしながら曲もアップしていました。もとは趣味だったけど、これはチャンスだと。しっかり音楽に向き合ってみて、音楽一本でいけなければ普通に就職しようと考えて、目標と期間を決めてやることにしたんです」
――期間というと、大学卒業まで?
「ええ。2010年が大学の最後の年だったので、その間に音楽をしっかりやって、どんなに家賃の安いアパートでもいいから、とりあえずバイトとかはなしで、音楽だけで暮らしていけるところまでいこうというのが目標でした。それを1年間で達成することができたので、やるしかないなと」
――そこからメジャーデビューにつながっていったわけですね。
「そうですね。そこから仕事の依頼を受けたり、同人や自費制作CDを出して生活できるところまではいきました。ただ、メジャーデビューを目標に活動していたわけではないんですよ。レコード会社にデモテープを持ち込んだりってこともなかったし、とにかく目の前の小さな目標をこなしていこうという感じでした」
――目の前の小さな目標というと?
「たとえば新しいジャンルに挑戦したりとか、クラブイベントでDJをやることもあるんですが、そのパフォーマンスを強化しないといけないなとか。一方で定期的にニコ動へのアップもしていた中で、運良くレコード会社からメジャーデビューの話をいただいたんです」
――お話がきたときはどんな気持ちでしたか?
「実はこれも運が良かったのですが、メジャーデビューのお話は何社かにいただいて、そのタイミングがたまたま同時期にかぶったんですよ。たぶん、1社だけだと舞い上がっちゃって、お願いしますって即答したと思うんです。でも同時期にいくつかいただいたので、じっくり考えることができたんですね」
――メジャーデビューしたことで環境は変わりましたか?
「個人でやっていて、メジャーアーティストの方と一緒にお仕事をする機会はなかなかないですよね。なので、そういう経験ができているのはメジャーデビューしたからこそかなと思いますし、昨年1年間でいろいろな方をプロデュースさせていただいた経験や培った技術が、今回のアルバムにも生かされていると思います」
――精神的な面ではいかがでしょう。
「メジャーアーティストの方とお話する機会が増えたことで、そうした方々のすごさが見えたというのは大きいですね。表では見せないストイックさを持っていたり、見ているところが違うんですよ。たとえばm-floさんなんて、ずっとメジャーシーンの第一線で活躍されていて、10年とかそういうスパンで活動されているわけですよね。自分なんて10年後どころか3年後ですら見えないので、本当にすごいことだと思います。だから自分ももっとがんばらないといけないと思うし、尊敬する先輩が多いのは本当に恵まれていると思いますね」
――同世代のボカロPについてはどう捉えていますか?
「そうですね、近い人だと、いろいろ仕事で一緒になる機会の多いゆよゆっぺとかは自分にないものをたくさん持っていて、DJとしてのパフォーマンスもすごいんです。切磋琢磨できて、一緒にがんばれる感覚がある仲間がいるのはありがたいですね」
――めまぐるしく環境が変わっている最中だと思いますが、そんな中で八王子Pさんがアーティストとして大切にしていることはありますか?
「自分の名義で出すものについては、ファンを第一に考えて作るということでしょうか。自分のやりたいことだけを貫くのではなく、ファンが期待するものを第一にしながら作っていきたいです。普段作らない曲調であっても、あまりかけ離れ過ぎないようにするとか、そういったバランスを大切にしていきたいですね」
――最後に再び話をアルバムに戻して、どんな作品に仕上がったか、改めて教えて下さい。
「アルバムを作るときに、この1枚でストーリーを伝えようとか、全体を通した大きなテーマを設定するという作り方は自分はしないんです。曲自体はバラバラで、いろんなテーマの曲があり、ジャンルもバラバラ。その意味でとてもカラフルな曲たちだなと思うんですね。そこで今回のアルバムタイトルは『ViViD WAVE』にしました。曲についても自分らしいサウンドを継承したものはもちろんですが、たとえば『Little Summer of Love feat.GUMI』や『IZAYOI feat.IA』は昨年のプロデュースワークがなければ生まれなかった曲だなと思います。歌詞もアレンジも今までの自分にはなかったような新しいものがつまっていて、それでいて"ザ・八王子Pサウンド"と呼べるような一枚に仕上がりました。初めての方にもそうでない方にも楽しんでもらえると思います」
――この夏は8月4日のROCK IN JAPAN、そして8月16日のボカニコナイトとイベント出演も目白押しです。
「自分はボカロから知ってくれた人が大半で、クラブイベントにはきたことがないって人も多いんですよ。だからそういう人にも楽しんでもらえるスタイルでDJをやろうと思っています。今のクラブイベントは型にはまってなくて、面白いイベントがすごく増えています。きっと楽しめる場所だと思うので、気軽にきてもらえたら嬉しいですね」
メジャーデビューしたことでよりパワーを増した八王子Pサウンド。ボカロの魅力と彼らしさがたっぷり詰まったニュー・アルバム『ViViD WAVE』をぜひチェックしてみてほしい。
取材・文・写真: 山田井 ユウキ
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<公演情報>
「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2013」に出演
※予定枚数終了
<INFORMATION>
New Album『ViViD WAVE』 2013.7.17 Release
初回盤 CD+DVD ※豪華三方背BOX 仕様:TFCC-86441 ¥3,000(tax in)
通常盤 CD:TFCC-86442 ¥2,300(tax in)
New Album『ViViD WAVE』
2013.7.17 Release
今ニコニコ動画で最も熱い注目を集めているボカロ界の貴公子。これまで動画サイトにアップされた関連動画総再生数は800万回を超える。MMDのプロデューサーわかむらPとタッグを組んでアップされた八王子Pの代表作「Sweet Devil」と「エレクトリック・ラブ」はダンスミュージックをベースにしたエレクトリックなサウンドとクオリティーの高い動画が話題になり、瞬く間に殿堂入りを果たす。2012年2月1日にリリースされたメジャーファーストアルバム「electric love」はオリコン初登場11位を記録。
2012年8月29日には、Google ChromeのTVCMで話題のkz(livetune)とのコラボレーションで制作されたPlayStationVita用ソフト「初音ミク -Project DIVA- f」のタイアップソング『Weekender Girl』をMiku Creator's Project on Google+のフィーチャリングソング『fake doll』と共にスプリットシングルとしてリリースした。また最近では中川翔子や椎名ぴかりん等、リアルボーカリストのプロデュースワークや、吉川友や渡辺麻友のアレンジワークも行っている。
八王子PはDJとしての活動も積極的に行っており、そのDJプレイにも非常に定評がある。そしてDJ活動を通して培ったダンスミュージックをベースにした、グルーヴィーでエレクトリックなサウンドはボーカロイドと融合することで、八王子Pの唯一無二のサウンドを生み出している。
※MMDとは「MikuMikuDance」の略称→MikuMikuDance(ミクミクダンス)はキャラクター3Dモデルを操作し、アニメーションを作成することのできるフリーウェア。