――デビュー曲『Only』の反響、かなりすごいことになってますね。
「はい、おかげさまで。ネットで記事にしていただいたり、動画サイトの再生回数も本当に増えていて。自分でも“これは良く出来たんじゃないかな”と思える曲だったし、たくさんの方に聴いてもらえるのはすごく嬉しいですね」
――「わたしにとって大切な人は誰がいますか?」というフレーズがすごく印象的でした。
「自分の曲の作り方というのは、まずテーマが先にあるんですよね。『Only』の場合はサビのワンフレーズがフッと出てきたんですが、ふだんは“こういうことを歌いたい”ということを決めて、そこからメロディを書いて、歌詞を乗せていくんです」
――テーマ、メロディ、歌詞という順番がおもしろいですね。テーマを決めたら、歌詞が書きたくなるような気もしますが。
「そうなのかな(笑)。歌詞を先に書くと、とりとめがなくちゃうんですよ。メロディを先に作れば“このパートにはこれだけの文字数しか使えない”という縛りができるので、そのほうがまとまりやすいというか。制限があることで、おもしろい表現が生まれることもあるんじゃないかな、と」
――なるほど。曲を書き始めたのはいつ頃なんですか?
「19歳くらいですね。中学生くらいのときから歌手になりたいって思ってたんですけど――宇多田ヒカルさんに憧れたのがきっかけですね――曲は作ったことなかったんです。でも、大学に入ったころに恋愛でつらいことがあって、思いのままに歌ってみたら、スッと曲が出来て。“曲作りは難しいもの”っていう思い込みがなくなったというか、思いのはけ口になったし、何よりも曲が出来たことが楽しかったんですよね。たぶん、それまでは曲にしたいほどの衝動がなかったのかもしれないですね。でも、1曲作ってみたら、“こういうテーマもある、あのことも歌ってみたい”って思うようになって」
――自分の心の動きに敏感になった?
「そうかもしれないですね。日々の生活のなかで、すぐに忘れてしまうような感情だったり、“別に人に話すようなことでもないな”って飲み込んでしまうような気持ちって、いろいろあると思うんです。そういうことを歌にして、聴いてくれる人に“わかる”って思ってもらえたらな、と」
――アルバムから先行配信された『100回泣くこと』も、日常のなかから生まれた曲なんですか?
「もともとは“愛する人を亡くしたら”というテーマで書き始めて、サビのフレーズだったり、“100回くらい~”のリフレインがもとになって出来た曲ですね。幸いなことにそういう経験をしたことはないんですが、死を暗示するような表現というより、たとえば重い失恋を連想してもらえる歌になったと思いますね。どういう別れ方であっても、いくら悲しんでもその人が消えるわけじゃない。最後は自分のなかで折り合いをつけて、思い出と向き合っていくものだと思ってるので」
――思い出を美化しすぎないというか、“きれいごとだけじゃ済まない”みたいな考え方もある?
「あ、それはずっとありましたね。映画でもそうですけど、完全なハッピーエンドで終わると“ホントなの?”って思っちゃったり(笑)。もうちょっと起伏が欲しいというか、上手くいかないことだってあるよねっていう部分がないと…。僕が作る曲も“底辺を這ってから、ちょっと上がる”くらいの内容が多いんですよね(笑)。実際、デビューするまでの間も不安なことがたくさんあったので。いまも別の仕事を続けているんですけど、その選択(仕事と音楽活動を両立させる)をするまでにも葛藤があったし」
――普通の仕事を続けることも、すごく意味があると思います。そのなかでしか見られないものもあるだろうし。
「うん、働いているということが、音楽の説得力につながっていけばいいなって。たぶん、近くに感じてもらえると思うんですよね。リスナーの方々の多くは、9時・5時で働いていたり、毎日のように残業してたりすると思うんですよ。さっきも言いましたけど、そういう人たちに「わかる」と思ってもらるような歌を作っていきたいし、“IsamUの曲だから、説得力がある”って言ってもらえると嬉しいな、と」
――その話は『I am the same as you』というタイトルにもつながってますね。
「このタイトルはアーティスト名の由来にもつながってるんです。まず、“IsamU”には“I”と“U(YOU)”が入ってる。僕も歌詞のなかで“わたし、あなた”“僕、君”といった一人称・二人称をよく使うんですよ。あとは“sam”から“same”という言葉につなげて、それをメッセージにしようと。人にあえて言わないような感情を歌にすることが多いので、“この歌、みんなにわかってもらえるかな?”と思うこともあって。だから、“みんなと同じだよ”と言いたいし、聴いている方に“同じだね”って言ってほしいという気持ちもあるんですよね」
Text●森朋之
《INFORMATION》
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IsamU
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