──中西さん以外にヴァイオリニストが8人。すごく変わった編成です。
「8人という人数に特別こだわりがあったわけではありませんが、それだけの奏者がズラリと揃ったら、まず単純に見た目が面白いでしょ? ただ、弦楽奏者をバックに従えてゴージャスな雰囲気を狙うような「弦楽器ゴージャス」なライブにはしたくないかなと思う。」
──ジャズに「誰々・ウィズ・ストリングス」っていうタイトルのアルバム、たくさんありますよね。すごくスウィートな味付けで、弦楽器は裏方の伴奏に徹している音楽。
「そういう音楽ではないです。常々日本の弦楽器奏者を見ていて思うのは、みんなすごく楽譜で音楽しているな、ということ。とりあえず楽譜通りに音を出して、演奏にミスがなければ完成。あとはアレンジャーやミキサーに作ってもらう意識。ギターやドラム、ベースなどのプレイヤーは、もっと自分で考えて音楽を作ってますよ。今回やりたいのは、ヴァイオリンのプレイヤー 一人ひとりがバンドの意識を持っているような音楽。ヴァイオリンがグルーヴの中心となって、ヴァイオリンで引っ張っていくような音楽なんです。」
──シロウト目には、同じ楽器が9人だと、音色が均一になってむずかしいだろうな、なんて思ってしまいます。
「むずかしいです!(笑) ヴァイオリンより下の音域を受け持つ楽器、チェロやヴィオラがなくてサウンドが成立するんだろうか?って、ぼく自身思ってしまったりもする。高音が厚すぎて、アンサンブルが未完成になってしまうかもしれない。確かにそういうハンデはあるけど、未完成のおもしろさを見せちゃえばいい。もともとぼくは、一曲の中で、極端に音数が少ない静寂な部分を作ったり、たくさんの音がつまったスケールの大きな部分を作ったり、メリハリをつけるのが大好きなんですよ。今回も同じ発想。ある部分は変わったサウンドだけど、そこからパッと綺麗なハーモニーに替わったり。未完成な部分と充実した部分のかけひき。それがうまく演出できればおもしろいですよ。」
──8人のヴァイオリニストの人選は、当然中西さんが。
「以前は『教える時間はないよ』って言ってたんだけど、ちょっと心境が変わって、2~3年前からヴァイオリンを教えることを始めました。その教え子たちの中から、今、8人だったら優秀なプレイヤーを集められるなと思ったのもきっかけのひとつなんです。ぼくの教え方は変わっていて、最初はヴァイオリン抜きで、まずステップ、次にクラップ(手拍子)を教えて、その次は歌って、その後でやっとヴァイオリンに触らせる(笑)。出来なければ次には行かせない。1小節に2週間かかった人もいる。今回参加する人は全員その洗礼を受けているんですよ。ヴァイオリンは本来メロディ楽器なんだけれど、メロディを弾くときにとても大切な要素、グルーヴやノリを知っている8人です。」
──中西俊博とその弟子たち、ということですね。8人全員がプロの方?
「プロも音大生もいます。テクニックのある人とはデュオをやってみようかな、アドリブがうまい人もいるから、その人とはバトルをやってみたいな、とか。基本的には全曲の楽譜をきっちり作りますが、空気を読んで、一人ひとりが自分のグルーヴで、自分の音で弾いてほしい。」
──8人のヴァイオリニストの他に、秘密兵器はありますか?
「今回は、ドラマー(KAGE)とギター(円山天使)がすごく変わっているんです。このふたりが生み出すテイストに弦楽器を重ねてみたい。センスがよくてかっこいいことをやろうとしている人たちで、すごく刺激になってます。」
──決まっている曲目があったら教えてください。
「ハービー・ハンコックの『バタフライ』、マイルス・デイヴィスの『マイルストーンズ』に、ウェス・モンゴメリーの『フォー・オン・シックス』、あとはブレッカー・ブラザースの曲とか。ジャズ系ばかりじゃなくて、アイリッシュもののロックもやるし、アコースティックに『ニューシネマ・パラダイス』もやります。」
──ジャンルはさまざまですね。
「バンドの編成もそうですよね。ピアノとベースはジャズ畑の人だけど、全体を見渡せば、いろいろなジャンルが集まってる。違うジャンルの人を集めるのが好きで、サジ加減を間違えるとやばいんだけど、おもしろいことができそうです。」
──演出面でも、意欲的な試みはありそうですか。
「演出の吉澤耕一さんはすごく好きな人。ぼくの持論は『音楽を体感してもらいたい』ということ。音だけでは成立しない曲があってもいい。例えばそこに映像や照明が加わって、オーディエンスがアクティブに想像するような構成を考えているところなんです。」
取材・文:戸塚 成(ぴあ)
中西俊博(vl)(写真1)
中西俊博(vl)(写真2)
56年生まれ。東京芸術大学在学中より、ジャズ、ポップスヴァイオリン奏者として活動。フランク・シナトラ、ライザ・ミネリ、サミー・デービスJr.らのコンサート、坂本龍一、ユーミンらのレコーディングなどでコンサートマスターを務める。現在までに22枚のアルバムを発表。作・編曲家としても多彩なキャリアを誇り、杏里、桑田圭祐、Mr.Childrenほかに楽曲・編曲を提供している他、映画、TV、CMも作曲も多い。舞台にも積極的で、青山円形劇場のロングヒット「ア・ラ・カルト」では初演から18年にわたって音楽監督を務める。