──はじめに、南里さんがこの仕事を始めたきっかけを伺ってよいでしょうか?
「はい、小学校に入った頃に合唱団に入って、そこで歌が好きになったんですね。その合唱団でできた友達と家族ぐるみでお芝居やミュージカルに行くようになって、そこで衝撃を受けまして……」
──どういったところに衝撃を受けたんですか?
「ファミリーミュージカルだと演じているのが自分と変わらない年齢の子なんです。なので、“あんな小さい子がステージの上で歌ったり踊ったりしている”ということが、凄く素敵に映ったんです」
──小さい南里さんには衝撃だったんですね。
「はい。そこで自分もやりたいと思って、劇団に入ったのが10歳ぐらいの時ですね。そこからずっとしばらくお芝居をやっていたのですが、2001年に『パワーパフガールズ』の吹き替えのオーディションのお話があって、それをやらせていただいてから、アニメのアフレコのお話をいただけるようになりました。あとはコンポーザーの梶浦由記さんに出会って、梶浦さんが『暁の車』という曲を歌う人を探していて、それで私が歌わせていただいてから、歌手のお仕事もさせていただけるようになりました」
──色々な縁が繋がっているわけですね。
「本当にそうですね。それで今は、4年前からソロとして活動しているんですが、歌手活動も、声優のお仕事も、幅を持って活動していければ良いなと思っています」
──歌手活動で言えば、昨年リリースされた『ロンド・・・月の記憶をたどって。』。こちらはソロとして初の作品ですが。
「そうですね、これまでもFictionJunction YUUKAや他のユニットでも歌わせていただいたことはあったのですが、そういった活動とソロで大きく違うのは、“自分がどうしたいか”ということがいつも問われるんです。『曲はどういうのがいい?』『ジャケットはどういうのがよい?』と訊ねられるたびに、不思議な気持ちになってしまって……」
──不思議な気持ちというのは?
「私はずっと舞台をやってきていて、何か役を演じるという事には慣れていたんですけど、自分を表現するということは今までやったことがなくて」
──なるほど。
「なので、そこから大きく色々変わっていきました。アルバムの話が出たのが一昨年の夏ぐらいだと思うんですが、もしソロになって間もない頃にアルバムを出そうといわれたら戸惑っていたと思うんです。けれどソロになってきちんと1曲1曲、積み重ねてきた後だったので、自分の中ですんなり受け入れられたというか、今まで歌ったこと無い歌や、ずっと歌いたかった歌にチャレンジできると思って出したのがこのアルバムですね」
──初めてのソロアルバムですが、きちんとこういう作品にしたいという信念があったんですね。
「といっても、やはり初めての体験だったので、不安もありました」
──責任もこれまでとは少し違う責任というか。
「そうですね。でも、これからも楽しく怖がらずに音楽を続けていこう、という気持ちを込めた作品です」
──アニメのキャラソンで歌う時と、シンガー南里侑香として歌うのはやはり違いますか?
「そうですね、ぜんぜん違いますね。キャラソンだと、アニメでその役を演じているような気持ちで歌っています。ソロで歌わせていただいてる時は、自然と自分の意思だったり感情だったりが曲に出てくるので、同じ音楽でも入口やアプローチは全く違うなと思います」
──作詞などはどういうタイミングで書かれているのでしょうか?
「好きなフレーズがあると書き留めるようにしていて、それを歌詞を書く時は参考にしたりしています。アニメの曲を歌わせていただく時は、アニメの設定にあった幻想的な言葉や表現が出てくることが多いのですが、私自身も歌詞を書くことに慣れているわけではないので、自分に合った言葉というか、自分の見える景色とか思っていることを書こうと思っています。なので、本当に普通のカフェでその曲を聴きながら、ボーっとして、思いついたら書いて、またボーっとして……を繰り返して書いていますね(笑)」
──(笑)想像できる気がします。個人的にアルバムを聴かせていただいて感じたのは、収録されているシングルなどはそれぞれリリースされた時期も、タイアップの作品なども異なるので、それぞれ曲の持つ表情は当然違うのですが、それでもアルバムとしてきちんと1枚の作品に仕上がっているのが素晴らしいなと思いました。
「そう思っていただけるとありがたいですね。シングルのカップリングは自分でこういう歌を歌いたいとリクエストして作っていただいているので、いざアルバムを作るときに楽曲を並べたら凄く振り幅があって、こっちの曲は凄く幻想的なのに、こっちの曲は凄く日常だったりで、これは本当に1枚の作品としてまとまるのかな?って(笑)」
──(笑)
「そう思っていたのですが、やっぱりソロとして初の作品ですし、これがシンガー南里侑香だと言える作品にしたいと思っていたので、ならばこのままで行こうと決断して。アルバムとしてでき上がった時に『色々な色があって面白いね』と言っていただける作品になったかなと思っています」
──南里さんの魅力が詰まっている作品だと思います。ちなみに、南里さんが歌手として目標としているかたはいますか?
「好きなアーティストさんはたくさんいるんですが、私にとって、ワクワクさせてくれるという面で、風味堂さんがそうですね」
──風味堂の渡さんがアルバムでも楽曲(『サヨナラ』)を提供されてますよね。
「はい、大学生ぐらいの時に色々気になるアーティストさんのライブに行っていた時期があって、その中で特に『ライブって楽しいな』って思わせてくれたのが風味堂さんです。CDを聴いてもワクワクするし、ライブではライブのまた違ったワクワク感があって、目指すというとおこがましいかもしれませんが、あんな風なライブができたら素敵だなと思いますね」
──確かに風味堂さんも振り幅があって、それぞれ楽曲によって異なる表情を見せますもんね。南里さんが素敵だなと思うのも凄く分かる気がします。先程ライブのお話も出ましたが、ライブで言えば今年の大きなトピックとして、2月に初の海外ソロライブを香港で開催されましたが、その時のお話を伺いたいのですが。
「まず、お話をいただいた時に、ソロで香港でライブをやるというのが理解できなくて、最初は『多分できないと思う』と渋っていたのですが、バンドメンバーさんもサポートで来ていただけるということで少し安心できて、“やってみよう!”と思い、チャレンジしました。でも、やはりまずお客さんが来てくれるのかというのが凄く不安でしたね」
──異国の地ですものね。
「日本のライブでもその心配をするのに、香港で自分のためにライブにきてくれる方がいるというのがどうしても想像できなくて……。でも本番の前に年末に香港に行く機会があって、そこで凄く歓迎してもらったので、ちょっと大丈夫かな、って思えました」
──香港でソロライブをやる自信になりました?
「でもまだやっぱり不安です(笑)なので本番の幕が上がった瞬間に、沢山の方がペンライトを振っているのが見えた時に、本当に嬉しくて……。沢山思い出はありますが、その光景は忘れられないですね」
──感動的な場面ですね。海外で南里さんのファンが大勢いらっしゃるのは、アニメの声優を数多くされてきていることも要因としてあると思うのですが、これまで担当されてきた中で、印象に残っている役などありますか?選びきれないとは思いますが……。
「うーん、本当に選びきれないんですが(笑)」
──(笑)ですよね、すみません。
「ただやはり一番最初に声優をやらせていただいた、『パワーパフガールズ』のバブルスは印象に残っていますね。何もかもが初めての体験で、アフレコって何?という段階だったので(笑)」
──(笑)
「ただ、『パワーパフガールズ』は海外のアニメで、英語の声が元々入っていましたし、絵もあったので、やりやすかったですね。あと、主人公が私を含めて3人なのですが、残りのふたりも声優が本職じゃないミュージカル俳優さんで、周りの方々が私たちに色々教えながら進んでいく感じだったので、少し気が楽だったかな。いきなり初めてでプロの声優さんばかりのところに放りこまれたら、もしかしたらスタートで緊張してくじけていたかもしれないです(笑)」
──(笑)それ以外で転機になった作品はありますか?
「『舞-HiME』ですね。私は結城奈緒という役を演らせてもらったのですが、かなり不良少女で。それまでは可愛らしい声の役や幼い声の役が多くて、初めて台本をいただいて絵を見た時にビックリしました」
──(笑)
「結城奈緒って名前の文字だけ見ると可愛らしい感じだったので、台本いただいた時にびっくりして。あーこれは本番の時に監督さんが『ごめんね~南里ちゃん、間違ってたよ~』って言ってくるだろうなって思ってて(笑)けど当日テストになってもそのまま普通に進んでいくので『あ、これはこのまま行くんだわ』と」
──あははは!
「でも演じてみて気づいたのは、結城奈緒ってクールで、言葉遣いも悪くて、というキャラなのですが、それは私が舞台ではできない役なので、それが声優だとできるんだ!っていう発見というか、衝撃でしたね」
──声優の本質ですね。
「毎回手に汗握りながら、スタッフの方にも教えてもらいながらという感じでご迷惑もかけたと思うのですが、でも勉強になりました」
──そこに南里さんの転機があったんですね。そして6月14日(金)、15日(土)に新宿BLAZEで行われる3rdライブ『STELLAR』。初の2Daysとなりますが。
「前回は大阪と東京でやらせていただいたんですが、今回は同じ会場で2Daysなので、2日間来た方にも楽しんでもらいたいなと思っています。初日はファンの方からカバーして欲しい楽曲のリクエストを募って選曲して歌うカバーコーナーを、2日目はライブでは初めての楽曲を披露するコーナーを設けたんです」
──それは南里さんのアイデアだったんですか?
「はい、前回のライブが終わった打ち上げで、スタッフの方とお話していて、やってみたいなと思っていたんです。1stライブの時はもうあたって砕けろ!じゃないですが、『ライブをする』という事で精一杯になって、ライブならではの楽しみを自分自身は感じる余裕がなくて……。2ndの時も1stのときよりはお客さんを身近に感じることができたんですが、でもまだまだだなと思っていたんです」
──まだまだだと。
「はい、ソロライブは半年に一回とかなので、一回一回リセットされてるような気がして、打ち上げの時に『早くライブに慣れたいな』って話をしたら、2日間やってみようかという話になって」
──(笑)
「それで2Daysやってみようと。チャレンジしたいという気持ちも私の中では常にあって、次は何のチャレンジをしようかと思っていたので、今回のライブを企画しました。自分の中で“ライブを楽しむ”ということは必ず忘れないでおこうと思っています。それでセットリストを考えたり、コーナーもガラッと変えたりして、1日だけ来た人も2日間来た人もどちらも楽しめるように、色々仕掛けも用意して、スタッフの皆さんとホントに作戦練るみたいにやっています」
──楽しそうなのがブログからも伝わってきます。
「(笑)ソロライブは前回も前々回も楽しかったんですが、でも自分自身がいっぱいいっぱいになってしまったので、今回はお客さんと楽しい時間を共有する、そういうライブになればいいなと思っています」
──初めてのお客さんも楽しめるライブになりそうですね。
「そうですね、前回のライブの反省点で『初めて来た方にも分かりやすくしたほうが良いね』ってアドバイスいただいて、なるほどと思って。今回はカバーもそうですし、自分が歌わせていただいた曲の中でも、多くの方が知っていただいている曲とか、とにかく初めて来た人にも楽しめるようにしようと思っています。3rdライブだけど、そういうところは1stライブのような気持ちでいくつもりです」
──楽しみですね。ちなみに、南里さんのこれからの野望とかありますか?
「フルオーケストラでホールでライブをやってみたいという気持ちはありますね」
──良いですね!
「はい、でももしそれができる様になっても、ライブハウスでもライブはずっと続けていきたくて」
──それは理由などはあるんですか?
「やはり、実際の距離も気持ちの面でもライブハウスはお客さんと近いじゃないですか。ライブハウスの熱気が私は凄く好きで、それを大事にしていきたいなと思っています」
──ありがとうございます! 最後にこのページを見ている方に一言お願いいたします。
「思い出ってそれぞれの頭の中とか心の中とか、自分の中にしかに残らないものだけど、だからこそ、その時間を共有できるって特別だなって思うし、興味を持ってくださったみなさんとその空間を共有できたら本当に嬉しいなって思うので、お時間があるかたは是非遊びにいらしてください!」
取材・文: 佐久間 隆(ぴあ)
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1stソロアルバム 『ロンド ・・・月の記憶をたどって。』
南里侑香“LIVE ON!”赤坂BLITZ 2012.10.13 Full Collection
南里侑香“LIVE ON!”赤坂BLITZ 2012.10.13 Select 8 Songs
舞台女優をめざし10歳で劇団に所属。子役として数々の作品に出演。
1997年、南青山少女歌劇団に入団し、多数の舞台に出演。
2001年、TVアニメ「パワーパフガールズ」バブルス役で声優デビュー。その後『GUNSLINGER GIRL』ヘンリエッタ役、『舞―HiME』結城奈緒役、『放浪息子』千葉さおり役、『坂道のアポロン』迎 律子役など多数の人気作品に出演。
2003年、梶浦由記のソロ・プロジェクト"FictionJunction"のボーカルに抜擢され、テレビアニメ『機動戦士ガンダムSEED』の挿入歌「暁の車」を歌い、その歌唱力と透明感のある歌声が高く評価され、FictionJunction YUUKAとしてシングル7枚、アルバム2枚をリリース。
2009年から南里侑香としてソロ活動を開始。TVアニメ『おおかみかくし』EDテーマ「月導-Tsukishirube-」、TVアニメ『セイクリッドセブン』EDテーマ「輝跡-kiseki-」などシングル4枚、アルバム1枚をリリース。2013年7月から放送予定のTVアニメ『ブラッドラッド』EDテーマも決定している。
2012年からソロライブを開始、海外のイベントやライブなどにも積極的に参加している。