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チケットぴあインタビュー

大貫憲章

大貫憲章
<ロックで踊る>をテーマに掲げ、日本における<ロックDJイベント>のさきがけとして多くのミュージシャン、音楽ファンに愛され続けている“ロンドン・ナイト”が、今年でめでたく30周年を迎えることとなった。そのオーガナイザーである音楽評論家・大貫憲章氏は、イベント立ち上げ以来、日本のリアルな音楽シーンを見続け、ロックに愛情を注ぎ続けてきた人物。12月18日・CLUB CITTA’ にて豪華ゲスト陣を迎えて開催する30周年アニバーサリー・イベントへの意気込み、そして、この<ロンドン・ナイト>をとおして日本の音楽ファンに届けたいメッセージを熱く語ってもらった。

──20周年のときはミッシェル・ガン・エレファントなどそうそうたる面々が出演されましたが、今回の30周年記念イベントも素晴らしいゲストが集まりましたね。


「はい。この<ロンドン・ナイト>というのはDJイベントなので、DJ以外のかたはバンドの人も含めてゲストという形で、我々をサポートしていただくのが基本になっていまして。なので、お客さんのほうは、バンドを観に来られるのが目当てでっていうのはもちろん問題ないんですが、ゲスト陣はあくまでもDJイベントとしての一環ということを分かっていただきたいなと。で、今回のメンバーに関しては、(取材日の時点では)これからさらなる発表をしていくことになると思うんですが、現時点ではギターウルフ、MASTER LOW、BLAHMAN、ZOOT 16、それにKEN YOKOYAMAが出てくれることになってます。どのバンドもみんな、僕らの今までの長い歴史の中で、友人関係としてお付き合いさせていただいた人ばかりですね。お付き合いは長いんですがイベントに出ていただくのは初めてになるかたもいらっしゃるんで、ぜひご期待いただきたいなと思ってます」


──今年はアニバーサリー・イヤーということで、夏もイベントが開催されまして。氣志團がゲストなのはビックリしました!


「そうですね。氣志團とは今までやったことなかったんですが、團長(綾小路翔)と話をしている中に、向こうも<ぜひやりたい!>と。で、こちらも<ぜひ!>ということで上手くいきまして。それともうひとつは、<ロックンロール・パーティー>にしたいということでTHE MACK SHOWにも出ていただいて、“夏祭り”ということでやらせてもらってありがたいことに大成功したんですけども」


──20周年のときもそうでしたが、本当に豪華なゲスト陣が集まるのは、このロンドンナイトというイベント自体が日本のロックシーンを支える素晴らしいイベントだからだと思うんです。日本初の<ロックDJイベント>として<ロンドン・ナイト>を立ち上げた当時の状況は、どんな感じだったんでしょう?


「立ち上げて、もう30年にもなりますけど……。1980年の春に始めたときはですね、まだそのころはクラブもないし、<ロックDJ>というものも日本にはなかったですし。で、僕の気持ちとしては、今もそうですけどロック評論家というものをやる関係上、<ロックで踊る>というのをテーマに掲げて。あとはある意味なんでもあり(笑)、ボーダレスな感じに、イベントを重ねていくうちにどんどんなっていったというか。<ロックで踊る>というのは最初のキャッチフレーズにしましたけど、そこからはロックに限らず、ディスコであったりね……。以前やっていた<ツバキハウス>というディスコでは普段流れそうもないような曲、例えば日本のロックだとか、ポップス、歌謡曲含めてなんでもありという感じでしたね。イベント立ち上げ当時は」


──ロンドンナイトというと、ロックとかパンクとか、もっと言えばハードコアみたいな激しい音楽で盛り上がるイメージを持っている人も結構いるんじゃないかと思うんですが、実際はそればかりではないんですよね。


「そうですね。そのパンク、ハードコアなイメージっていうのはおそらく、画的に面白かったのでカメラマンのかたがやたらそういう写真ばっかり撮ってたからだと思うんですよね(笑)。当時だったら、例えば鋲ジャンを着たヤツらとか、いわゆる“サイコ刈り”といって、横が坊主であとは全部緑色に染めたパイナップルみたいなヤツとか。見た目的にもインパクトがあるのでそういう写真が色んなところに載ってイメージを持ったかたもいると思うんですけど、それは全体でいうと2~3割ぐらいだったんじゃないですかね。それよりもむしろ、デュラン・デュランが好きな人だったりとか、カルチャー・クラブが好きでボーイ・ジョージと同じ格好してきたりとか、そういう人たちがたくさんいましたからね。そういう意味では、ニューウェイブ、それともちろんパンク、そういう音楽がちょうど当時70年代の終わりから80年代にかけてのロンドンでムーブメントとしてあったでしょ? それが大きな柱となっての<ロンドン・ナイト>ではあるんですけど、じゃあ、かと言って例えば<ロンドン・パンク>だけをやるっていうことではないし、ジャンルとかは関係ないですよね。基本的には、<ロックなマインド>とか、<ロックなスピリット>だとか、<インスピレーションがロックだ>とか、理屈はなんでもいいんですけど……。
逆に言えば、ウチでかからないものがあるとすれば、それは例えばいわゆるクラブ系と言われているサウンドとかですよね。今で言うエレクトロ、ハウス、あとは純粋なヒップホップとかっていうのは他にイベントは多いですから、ウチがやる必要はないんじゃないかなと。<ロンドン・ナイト>で流れる音楽は基本DJ任せなんですけども、例えばレゲエ、ロックステディ、それから……。オールディーズだったり、ガレージ、ロカビリー、パンク、ニューウェイブ、あとは最近のUKものとかUSインディーとか、そういった僕らが感じる<ロック的>なものがかかる場と分かっていただければいいんじゃないかと思うんですけどね。例えば、ファットボーイ・スリムみたいなものも中には入ってくるんですけども、それは、ファットボーイ・スリムが僕に言わせれば<ロック>だからなんです。彼は元々ロックバンドやっていたことももちろん関係はあると思うんですけど、彼のあのブレイクビーツを使った新しい音楽を聴けば……。エレキギターとドラムとかを使って作るいわゆるエイトビートのロックではないですけれども、使ってるネタといいますかね、音源の処理の仕方は明らかにロックなテイストが感じられるので、大きな意味で言う<ロック>として敬意を込めて僕らも流したりしてましたけどね」


──その<ロックで踊る>っていうひとつのテーマを掲げて30年続けてこられたことは、本当にすごいことだと思うんです。流行り廃りというか、浮き沈みがすごく激しい日本の音楽の世界で<ロンドン・ナイト>を続けてきた大貫さんの中では、このイベントに対して今はどんな思いがありますか?


「そうですね……。今は、お客さんがね、クラブに遊びに来る人が年々減ってますから。それは、クラブシーン全体として。だから最近は、<アニバーサリー>ってうたうイベントがやたら多いんですけど……。1年目から<アニバーサリー>ってうたってやるイベントもありますからね。1周年って、始めてまだ1年しか経ってないからだろってことじゃないですか(笑)。でも、そういうことでイベントとして特化しないと、ただ毎週週替わりでやってますっていうだけじゃお客さんは来ないんっていうね。ただ、僕に言わせれば、10年やって初めて<アニバーサリー>かなと。だから、そういう現状も含めてクラブシーンの厳しい現状はうかがい知れるし……」


──自分の好きなバンドのライブにピンポイントで行く人は多いでしょうけど、クラブに音楽を楽しみに行くっていう人は少なくなっているかもしれないですね……。


「そうですね。ライヴとかフェスには行ったりしても、クラブに日常的に行くっていう習慣はそのぶん薄れてきているというか。そういう現状だからこそ、<ロックで踊る>というのがロンドンナイトの存在意義であるということと、<ロックで踊る>ということはイコール、ロックを色々な人たちに知ってもらうということでもありますから。基本的には、洋楽のロックを周知徹底するというのが、僕は元々音楽評論家でもありますし、自分の使命だというふうに感じてますので。それはイベントでなくても、例えばラジオとかであってもこういう取材にしても、言うべきこと、やるべきことはそれにつきるんですよね。洋楽ロックの周知徹底とともに、底上げをすると。最近は、“ロックの低迷”とかともよく言われますけど……。なにをもって低迷と言うかは非常に微妙なんですけど、CDのセールスとか言うとたしかに低迷なのかもしれないですよね。でも、それイコール、ロックシーン全体が低迷しているということの証拠にはならないと思うんです。実際、良い曲はたくさんあるし良いバンドもたくさんいるんで、それを僕らは折に触れて紹介していきたいんですよね。いわゆるJ-POP、最近なら例えばK-POPですか、色々な音楽が今はもてはやされていますよね。それにすぐ取って代わるなんていうことは絶対にないですけど、でも、ロックにも良いものがたくさんあるんだっていうことを伝えていくのが僕の使命のひとつだと思ってますし。僕らが思う良い曲、良いバンドは新しいものも紹介しますし、古いものも紹介します、そういうスタンスは<ロンドン・ナイト>はずっと貫いてます」


──<ロックで踊る場所>、イコール<良い音楽とたくさん出会える場所>というか……。<ロンドン・ナイト>を通して今まで知らなかった音楽に触れて、その一人ひとりの輪が広がって、音楽の世界が盛り上がっていけば素晴らしいなと思います。


「頑張ります。たしかに、CDの売り上げ自体は下がってるかもしれないですけど、そんなに極端に洋楽を聴いてる人が減ったかと言えばそうではないと僕は思うんですよね。さっきも言ったJ-POP、K-POPとかのほうに多くのメディアの目が行っていて、洋楽、ロックはただ目立たなくなっているっていうだけの話で。そういうことって、例えば、かつてニューミュージックが出てきたころからよく言われていたんですけれども……。ニューミュージックがこれまでの洋楽が果たしてきた役割に取って代わるだろうなんて言う人はたくさんいましたし、僕もたしかにそういう部分もあるかなとは思いました。しかも、あのころのニューミュージックって、基本的に<洋楽オリエンテッド>な面が非常に強くて。ユーミンを筆頭に、オフコースの小田和正さんにしてもね、みなさんビートルズが好きだったりしたところから音楽のヒントを得て、それを自分たちのフィルターを通していたり。桑田佳祐君なんかも、リトル・リチャードが大好きっていうことでああいう音楽を作っていたり。でも、それがだんだん、日本のバンド、日本のアーティストを次の世代がコピーしてっていう流れになってきて……。洋楽じゃなく邦楽のコピーにっていう流れになってきたりしているのが、僕としてはちょっと物足りないというか。それもまぁ時代の流れとしては自然なことなのかなとは思いつつ、でも、メディアが洋楽のほうを向いてくれないという現状に対しては僕はこれからまだまだやらなきゃいけないことがあると思っていますし、洋楽ってもっと面白いものなんだよというのは伝えていきたいですし。洋楽は英語だから分からないとかっていう問題ではなくて、英語っていうのは英語圏の人たちだけの問題で、もっと広い視点で見ればラテン語で歌っている洋楽もあるし、フランス語、ドイツ語もあるんだよ、と。そういう意味での洋楽って、ものすごく広い、グローバルなカルチャーじゃないですか。例えば、ラテン系の音楽、中南米、アフリカの音楽とかは<ワールドミュージック>っていうキャッチフレーズで取り扱われることが多いですよね。
でも、そういう言葉を使わなくてもいい状況になるような、本当の意味での音楽のグローバリゼーションが広がって、日本にも今以上に世界中の色々な音楽が入ってくることが理想かなと僕は思うんですよね。大きいことを言うようですけど、そういうところも見据えて僕は音楽を伝えていければいいなと思っているので、<ロンドン・ナイト>もその中のひとつの場として続けていきたいなと思ってます」


取材・文: 道明 利友