「さいたまダービーは気持ちが自然に昂ぶってくる」
昨季、川崎から大宮へ移籍しシーズン途中には、そのリーダーシップからゲームキャプテンを務めるほど信頼が篤い菊地光将。空中戦の強さと体ごとボールへ向かうハードタックルを誇るDFは、さいたまダービーについて「気持ちが自然に昂ってくるし、モチベーションが自然と溢れ出てくる」と語る。大宮の背番号2はサポーターが醸し出す独特の熱気に感謝しつつ、負けられない戦いに臨む
- ──『さいたまダービー』と聞いて、菊地選手はまず何を連想しますか?
「負けられない戦い、です。同じさいたま市のチーム同士ですから、負けたくない気持ちはもちろん強いです」
──菊地選手自身は、前所属クラブの川崎フロンターレで『多摩川クラシコ』や『神奈川ダービー』も経験しています。それぞれに違いはありますか?
「どうですかねえ。僕はあまり、そういうところまで意識しないんです。目の前の1試合に集中していくので。『ダービー』とか『クラシコ』と呼ばれる試合はいつも以上に盛り上がるので、熱気に溢れた中でプレイできるのは選手として幸せを感じています」
──これまでの『さいたまダービー』を振り返って、レッズの柏木選手は『大宮の選手からすると、対レッズということを相当意識しているのかなあと感じる試合が多かった』と話しています。実際のところは?
「気持ちが自然に昂ってくると言うか、モチベーションが自然と溢れ出てくるものがある。そういったところは、確かにあるかもしれません。でも、34試合あるリーグ戦のひとつでもある。『さいたまダービー』だからといって、勝利したら勝ち点を「6」もらえるわけでもないですし。『勝つぞ』という気持ちはどのチームが相手でも同じで、そこに違いはないんですが、お客さんも入ってくれますし、周りの……」
──期待が大きいですね(笑)。
「選手だけじゃなく、ファン・サポーターを含めてチーム全体を巻き込んだ戦いが、ダービーだと思うので。周りの盛り上がりを感じつつ、僕自身は平常心を心がけています」
──菊地選手は昨年からアルディージャでプレイし、『さいたまダービー』には3度出場しています。結果は2勝1分け。ここまで無敗です。
「僕ひとりでプレイしているわけではないですから(苦笑)。チームとしていい結果が出ているのが、何よりも良いことです」
──最初の対戦は昨年4月、NACK5スタジアム大宮で2-0と快勝しました。
「早い時間帯に先制点が取れて、前半のうちに追加点も奪う展開でした。ボールを持たれる時間は長かったですが、チームとしてしっかり守備ができて、無失点で終われたのは良かったです」
──2度目の『さいたまダービー』では、逆に早い時間帯に先制を許しました。そのうえ、ノヴァコヴィッチが18分で退場に……。
「そうでしたね。10人対11人という数的不利の中で、70分以上の時間を戦うことになりました。追加点を与えるとゲームが難しくなってしまうので、2点目を絶対に許さないように心がけました。カウンターやセットプレーからチャンスは作れると思っていて、前半終了間際にうまくケイゴ(東慶悟・現FC東京)が取ってくれました」
──1-1でハーフタイムを迎えることができて、『さあ、ここからが勝負だ』という感じになりました。
「まさにそうでした。あのゴールで『もう一回いくぞ』という気持ちになれましたし、後半もチームとして戦うことができました」
──アウェイで引き分けたあの『さいたまダービー』は、昨シーズンのリーグ戦を語るうえで、ポイントになったゲームと言っていいでしょう。
「サッカーって不思議だなあと思うのは、11対11の状態ではこっちの守備網に相手をうまくハメられない感じだったんですが、10人になってから守備が機能するようになったと言うか。個々の運動量が増えて、1人少ない分を全員でカバーできた。球際も強くいけていましたし。そういう時のアルディージャは、ホントに強いと思います」
──今シーズンへまたいだ21戦不敗記録は、あの浦和戦からでした。そして、今年4月の浦和戦で、18試合連続不敗のJ1リーグ新記録を達成しています。
「そう、でしたね」
──記録は意識しない?
「僕ら選手は、まったく意識しません。言われるまで気づかないです。メディアの方々が教えてくれるので、『あ、そうなんだ』という感じで。チームのなかでも、話題に上がらないですから」
──試合は1-0で勝利しました。
「相手にボールを持たれる展開でしたけど、うまく守れたのではないでしょうか」
──試合後のズデンコ・ベルデニック監督(当時)は、「少しずつ自分たちを信じられるようになっている」と話していました。
「どうですかね……当時と今を比べて、そんなに大きな違いがあるわけでもないと思います」
──結果だけを見ると、ここまでは両極端のシーズンになっています。不敗記録を「21」まで伸ばしたあとに、チームワーストの8連敗を喫しました。
「センターバックの自分としては、コンパクトさを保とうという気持ちがいつもあります。ただ、負けている時期はその意識が強過ぎて、ディフェンスラインの背後にスペースが生まれて……いたのかなと思って映像を見返すと、ディフェンスラインの高さはそれほど極端に変わっていない。あえて言うなら、コンパクトさを意識し過ぎることで、自分たちで狭くしちゃっている感じがあったのかなあ、と」
──なるほど。
「連敗中のゲームも、内容はそれほど悪くなかったと思います。ただ、16節のF・マリノス戦は、自分の中で一番うまくいかなかった。1-2の1点差ゲームでしたけど、F・マリノスらしい試合運びでやられてしまいました」
──連敗中に気になったのは、早い時間帯の失点が多かったことです。
「僕ら選手も、当然気になっていました。しっかり集中してゲームに入ろうと、練習から話をしていました。相手がいるわけですし、思いどおりにいかないところはありますが、早い時間帯に先制されるのは、メンタル的に厳しい。僕はセンターバックですから、失点についてはいつも責任を感じます」
──連敗中にベルデニック監督から小倉勉監督に交代しました。
「プレイするのは選手ですから、もちろん責任は感じました」
──チームは変わりましたか?
「変わったとは思います」
──具体的には?
「うーん……それを言うのは難しいですね。ズデンコにも、オグさん(小倉勉監督)にも、良いところがあると思います。ひとつ言えるのは、チームは前進しているということです」
──シーズン当初の目標である勝点「53」は、まだ十分に射程圏内ですからね。
「25試合を終えて勝点『39』で、まだ9試合残っています。勝点を積み重ねていけば、もちろん達成は可能だと思っています」
──勝点53の先も、見据えている?
「それはもちろん。もっともっと上を目指していいと思います。でも、目の前の1試合をしっかり戦っていくのがアルディージャのスタンスです。そこはブレないですね」
──センターバックのパートナーが、24節のF・マリノス戦からルーカス・ニールに変わりました。
「コンビを組んだのはまだ2試合ですが、彼の特徴はわかってきましたし、彼も僕の特徴をわかってきてくれていると思う。これからもっと良くなりますよ。ルーカスは練習中からすごく声を出す。的確な指示で周りの選手を動かせるし、ポジショニングがいい。ボールに行くところと行かないところがはっきりしているので、カバーもしやすいんです。ワールドカップに出場して、プレミアリーグで長くプレイした選手ですから、もちろん経験は豊富です。ヘディングや1対1に強い印象があると思いますが、技術も高いですよ」
──対浦和のリーグ戦の成績は、アルディージャが7勝5分5敗と勝ち越しています。相性の良さを感じるところはありますか?
「浦和は技術の高い選手が多いですし、経験のある選手も多い。勝負どころを知っているチームですので、やはり怖さはあります。相性は、どうですかね……。前所属チームの川崎Fは、ビッグスワンでアルビレックス新潟に勝てないというジンクスがありました。去年は久しぶりに勝ったはずですが。『さいたまダービー』について言えば、大差がつくゲームはほぼありません。どちらが勝つのかわからない試合が続いていますので、自分たちは100%の気持ちを出して戦うだけです」
──試合のポイントは?
「どのチームが相手でも同じですが、自分たちのサッカーができるかどうか。相手より走る。球際で負けない。そういうところが僕らの強みで、連敗を脱出したF・マリノス戦も気持ちが見えた試合でした。ああいう試合をどんどんやっていかないといけない。そうなれば、もっともっと上を目指せると思います。自信を持ってみんなでやっていきたい」
──昨シーズンのこの時期は、J1残留を意識せざるを得ませんでした。しかし、今シーズンは違います。『さいたまダービー』をきっかけに、上昇気流に乗っていきたいですね。
「上へ行くのも、下に行くのも自分たち次第。ひとつの試合の結果で、自分たちの立場は変わっていく。オグさんもいつも話していますが、どちらを見るのか。選手としてはもちろん、上を見ていきます」
TEXT●戸塚啓
PHOTO●スエイシナオヨシ
(プロフィール)
きくちこうすけ●1985年12月16日、埼玉県生まれ。浦和東高を経て、駒澤大学へ。3年時には『全日本大学選手権』V3に貢献する。2008年に川崎フロンターレ入り。2009年にはセンターバックのレギュラーに定着。2012年に大宮アルディージャへ移籍。高校・大学の同期であり、大病のために引退し大宮のアンバサダーに就任した塚本泰史の背番号2を引き継ぐ。ゴール前の制空権を支配する高さ、ハードタックル、リーダーシップを兼ね備えた頼れるゲームキャプテンである。