――大畑選手は、昨年のW杯直前の怪我から、ようやく本格的に練習を再開されたようですね(※1)
※1=2007年8月11日、W杯壮行試合で右アキレス腱断裂から奇跡の復活を成し遂げながら、その2週間後、W杯直前強化試合のポルトガル戦で今度は左アキレス腱を断裂するという悲劇に見舞われた
大畑「まだ感覚が戻っているわけではないのですが、痛みが出ないように慎重にやっています」
――小野澤選手は大畑選手の復帰をどう感じますか。
小野澤「僕はアキレス腱を切ったことがないから、よく分からないんですよ。でも、大畑さんがいなくなった後、大変だった。僕ら2人はW杯初戦のオーストラリア戦に出ることになっていた。若い選手が多い中で、年寄りの僕たちが潤滑油になって雰囲気を作っていこうとしていたのに、大介さんがいなくなるから、ほんと大変でしたよ」
大畑「迷惑かけたね」
――大畑選手が再びアキレス腱を切ったとき、どんな声をかけたのですか。
小野澤「W杯目前の最後の試合ですからね。気持ちを察することすらできない。何も言えませんでした」
大畑「みんな普段通り接しようとしてくれていましたね」
――小野澤選手は、その後のインタビューなどで、「大介さんに早く帰ってきてほしい」と話していました。
小野澤「僕は基本的にフワフワしているでしょう。2年上(1975年産まれ)のラグビー界ではゴールデンエイジと言われている年代の人たち(大畑選手、箕内拓郎選手ほか)がいてくれて、僕らはその下でチョロチョロしているのが楽だった」
大畑「ちょっと息抜きたいときに、いてほしいんでしょう」
小野澤「大介さんお願いしますよって言えば、(メディアに対して)広報的なコメントもしてくれるしね。今年も日本代表のバックスで最年長になっちゃって。リーダーシップを求められる。僕は本当はそういうキャラじゃない(笑)」
――大畑選手がいると、チーム全体の雰囲気も違うのですか。
小野澤「頼れる人ですから。大介さんが話すと、みんなの耳が大介さんのほうを向くんです」
――大畑選手は、小野澤選手が逆サイドのWTBにいると「やりやすい」と話していましたね。
大畑「代表の中でWTBコンビを組んだのは小野澤が一番長い。小野澤が前に出れば僕が下がってカバーするし、僕が前に出たら、小野澤が下がってくれる。距離感を保ってくれるからやりやすい。小野澤なら、ここで抜きに行くだろうということも分かるし、サポートにもつきやすいんですよね」
――大畑選手は1996年から、小野澤選手は2001年から代表です。2人が最初にコンビを組んだのは、02年春のロシア戦でした。
小野澤「僕は2001年から代表入りしたのですが、ちょうどその時、大介さんはオーストラリアに留学していた。他の選手が、『大畑さんはすっごい感じ悪いよ。挨拶だけはしっかりしたほうがいい』とか、冗談で悪いイメージばかり植え付ける。だからドキドキしてプレーしたのを憶えています。実際にはやんわりした人でしたけどね(笑)。ただし、やんわりとしていても、絶対自分が一番だと思ってる」
大畑「まあな(笑)」
小野澤「そういう人が右WTBにいると面白い。WTBって、みんな自分が一番だと思っている。だから、大介さんがトライすると、『よしっ、俺も絶対に獲ってやる』って思う。僕はそれが純粋に楽しい」
――お互いのプレーをどう思っているんですか。
小野澤「タイプがまったく違いますからね。綺麗に走るなぁ、いいなぁって思って見てますよ。僕のはぐちゃぐちゃしていて汚い(笑)。足も大介さんのほうが速い。だから、僕は僕のやり方で絶対に目立ってやると思ってる。WTBは簡単です。トライを獲るか獲らないか」
大畑「同じタイプの選手なら認められないけど、違う土俵で戦っているからお互いに認めあえるのかもしれないね。小野澤の間合いは独特。ディフェンス側が、あと一歩で届くと思った瞬間、すっとスピードが上がるから目の前から消える感覚になる。僕はボールを受ける前に抜けるコースを探して、ズバっとディフェンスの裏に出てしまうタイプ。簡単に言えば、僕はボールを受ける前に勝負する。小野澤は、ボールを受けてから勝負する」
――2人がトップリーグで直接対決するのは、来年の1月3日です。
大畑「僕はその試合が一番楽しみです。その時点でグラウンドに立っていれば、僕のコンディションは上がっているはずです。小野澤と対戦すれば自分がどこまでできるようになったのかが一番よく分かる」
小野澤「じゃあ、シャットアウトしてやりますよ(笑)。最近、ディフェンスが面白くなってきたから。面白いですよね?」
大畑「基本的にはディフェンスはシステムが大事なのですが、WTBはシステムではないところで相手を止めることが出来る」
小野澤「攻撃側にすれば、外に走るスペースを作るために内側から順にコミットしていきたい。内側からディフェンスラインに接近してくるんです。だから、外側にいるWTBというのは、一気にターンオーバーとかインターセプトを狙えるポジションなんです」
大畑「強い相手とやればやるほど、それが狙える。試合が静かだったとしても、この2人だけは熱いかも」
――今年のトップリーグは、どうなると思いますか。
大畑「外国人枠が2人から3人に増えたことで、この使い方がキーになるような気がします。ただし、いい選手が入ったからといって強くなるとは限らない。序盤の3試合くらいで見えてくるんじゃないですか。トップリーグのレベルは確実に上がっているので、どこか1チームが走りきるというイメージはしにくい。サントリー、三洋が軸になることは間違いない。そこに、僕らがどこまで食らいついていけるか」
小野澤「昨季はサントリーが優勝できましたけど、今年は試験的ルールも導入されるし、まだ、自分たちが本当に強いのかどうか自信は持てない。去年は組織で勝っていたところがありますが、今年は個の部分の強さが求められると思います」
――神戸製鋼は春から徹底的に身体を鍛えたようですね。
大畑「大きくなりました。去年は個々人の力の差で負けた試合ばかりだった。個が強くならないとチームとして強くなれないですから」
小野澤「そう考えると、三洋は個々が際立っていると思いますね」
――個の力と言えば、多くの選手がトヨタ自動車の潜在能力の高さを言いますね。
大畑「トヨタは昔からですよ」
小野澤「それはもう、ずるいくらいに凄い」
大畑「ただ、出来幅が大きい」
小野澤「思わぬところで負けるでしょう。NECもそういうところがあるけど」
――また日本代表で2人で一緒にプレーしたいですね。
大畑「僕の日本代表のプレーはああいう形(アキレス腱断裂)で終わってしまったので、また復帰したいし、桜のジャージーも着たい。トップリーグで活躍して、きちんとした形で戻りたい。目標は11月のアメリカ戦です」
小野澤「現役でやっている以上は、上を目指したいですよね」
大畑「アキレス腱を両方切ったことで、復帰はどうだろう?と言われがちですが、ただグラウンドに立てばいいという感じでラグビーを続けたくはない。そんな小さな視線で僕はラグビーをしていない。僕は日本代表でプレーすることにプライドを持っているし、日本でプレーする以上、桜を着るのが一番の目標です。桜へのアプローチは続けたいです」
小野澤「大介さんがそういう気持ちでいてくれて良かった。僕も日本代表に選ばれ続けたい」
――小野澤選手は、いまテストマッチのトライが「31」ですよね。
小野澤「トライの数って憶えていないですよね」
大畑「僕も記録がどうのこうのって言われ出してから分かった」
――大畑選手は現在、世界記録の「69」を持っています。
大畑「いろんなところで、そう言われるから分かっているだけで、50個くらいまでは気にしていなかったです。僕は1試合に1トライという考えでやっています」
――一つ一つのトライシーンは憶えていますか。
大畑「何個目かとかは分からないけど、全部憶えてます」
小野澤「僕も順番は分からないけど、記憶をその時の視界に戻せますよ」
――トップリーグには、最多トライゲッター賞があります。三洋の北川智規選手が2年連続で受賞中です。お二人はまだ獲得していません。
小野澤「トライ王、獲りたいですよ。毎年、狙ってるんですけど」
大畑「僕は怪我が多くて、シーズンを通して試合に出たことが少ないし、神戸製鋼ではCTBで出ることも多いから縁がないんです」
――過去の記録でいくと、だいたい1試合に1個トライすれば、トライ王に近づきますね。
大畑「1試合に1個というのが、意外に獲れないんですよ」
小野澤「獲れるときはたくさん獲れるんだけどね」
大畑「びっくりするほどボールがまわってこない日がある。逆サイドのWTBにばかりいいボールがまわったりね」
――そういう時も最後までトライを狙うんですか。
大畑「僕は最後まで諦めない」
小野澤「後半20分くらいになると、僕は諦める(笑)」
――それがテストマッチのトライ数に現れているのでは?(笑)。大畑選手がトライを執拗に狙うのは若い頃からですか。
大畑「トライって目立つ。それだけです。サッカーならゴール、野球ならホームランみたいなものだから。トライの後だけは試合が止まって、みんなの注目を集めるでしょう」
――ボールを持って走ってトライするのは気持ちいいですか。
小野澤「僕は目の前に誰もいなくなる瞬間がたまらない。だから、ごちゃごちゃしていてほしい。それを抜け出して視界が開けると最高に気持ちがいいんです。ときどき、ずっと並行して走ってくるやつがいるんですよ。あれ、気持ち悪い。早く、飛び込んで来いよって思います(笑)」
大畑「抜けた瞬間、歓声が聞こえるしね」
――トライするとき心がけていることありますか。
小野澤「しっかり両手で持っていることは心がけてますね。片手で置くと、高校の監督に怒られるんです」
大畑「俺みたいになるから?」
――2004年のイタリア戦でしたね。大畑選手がゴールに飛び込んだときにノックオンしたのは。
大畑「小野澤の奇跡的な素晴らしいキックを、僕が獲って走ったのに」
小野澤「あれね、元木さん(由記雄=神戸製鋼コベルコスティーラーズ)から僕にワンバウンドのパスが来た後だった。奇跡のプレー続きで、最後も奇跡のノックオン!」
――2人でプレーした試合で、他に印象的な出来事はありますか。
小野澤「2003年のW杯オーストラリア大会の初戦(対スコットランド)で、僕が最初にトライしたとき、直後に大介さんとハイタッチしたんですよ。おかしいでしょう?両翼にいるポジションなのに。サインプレーでそうなったんだけど、タッチした瞬間、あれ?これってこれまでないなって思った。その写真を新聞社の方にもらったので、珍しいから大事にとってあります」
大畑「僕は2005年のルーマニア戦かな。小野澤が抜け出して、僕のサポートが見事に決まったのがあった。小野澤の前に3人ディフェンスがいたんですよ。でも、コイツならここまで抜けてくるはずだって予測して、サポートのコースを変えて走り込んだら見事にそこまで来てくれた。やっぱり凄いヤツだと思いました」
――お二人が認める若い世代のWTBはいますか。
大畑「僕が社会人でプレーしてきた中で、今が一番WTBのレベルが高いのではないですか。北川智規もいるし、クリスチャン・ロアマヌ(東芝ブレイブルーパス)、遠藤幸佑(トヨタ自動車ヴェルブリッツ)もいる。それも各チームにいるでしょう? それぞれプレースタイルも違いますしね」
――北川選手は、どちらかというと大畑選手タイプですよね。
大畑「確かに似ていますね」
小野澤「綺麗に走る。羨ましい」
――後輩にアドバイスをすることはあるのですか。
大畑「聞かれればします」
小野澤「聞けないですよ。聞いた瞬間に負けを認めることになりますから。WTBは基本的に自分が一番だと思っているから」
――トライを獲る秘訣を教えてください。
大畑「匂いとしか、言いようがないですね。WTBはトライを獲るのが仕事だし。FWがスクラムを組まなきゃいけないのと同じで、特別なことではないんです」
小野澤「なんて言いながら、僕は1シーズンに2トライという時もありました」
――それは、チーム状況にもよりますよね。
大畑「大きく左右されます。神戸製鋼では、最近、いいボールが回ってこなかった」
小野澤「CTBが勝負して抜けなかったから、ダメだ! ポイ!みたいにWTBにパスするときがあるんですよ」
大畑「えっ!ここで? みたいなのあるよな」
小野澤「そのままタッチラインの外に押し出されて、僕がテレビでアップになったりする。なんか、僕が悪いみたい(笑)」
――そこで観客席からCTBのほうに野次が飛んだりすると嬉しいですね。
小野澤「そうそう、平(浩二=サントリー)!とか言ってほしい」
――2人がトライ王を獲得していないのは不思議です。
小野澤「僕は2位が多い」
大畑「僕は怪我が多いのと、ポジション的にCTBで出ることが多いですから」
――若い選手と2人が競争すれば盛り上がりますよ。
小野澤「ほんと獲りたい。三洋はWTBにボールを集めるでしょう。羨ましい」
大畑「ほんと羨ましいな。いいタイミングでボールを回していますよ。SOのトニー・ブラウンがいい。SOが上手いと、相手のカバーディフェンスを止めてくれるからWTBのところでのスペースが全然違うんですよ」
――復帰を待ち望んでいるファンの人がいるというのはモチベーションになっていますか。
大畑「W杯に行けなくて、応援してくれる人たちにすごく悲しい思いをさせてしまった。ずっとラグビーを続けてきて、多くの人が僕のプレーを見て喜んでくれるのが僕の喜びであって、悲しませて終わるのは納得できない。大畑大介、良かったなと思ってもらって終わりたい」
――小野澤選手は怪我が少ないですね。
小野澤「遅咲きなんで。高校時代、酷使していないのが良かったと思っています。高校時代、練習は週3回でしたから(笑)」
――小野澤選手は、お子さん(長男、3歳)が励みになっているとか。
小野澤「見に来てくれる試合では子供のために頑張ろうと思います。いつもインゴールの端で待っていてくれる。トライラインのところで、オーイ!と呼んでくれる。だから、そこまで走っていこうと思うんです」
――普段はラグビーを見ていない人に、ラグビーの魅力を伝えるとしたら、どこに注目してほしいですか。
小野澤「今年から少しルールも変わって、見ていてわかりやすくボールが動く試合になると思います。一回チャンスをください!見に来てもらって面白くなかったら僕らの責任です。でも、一回見に来てほしい」
大畑「ラグビーって、いろんなポジションの特性もあるし、球技だけではなく、格闘技の要素もある。自分の視点でいろんな見方ができるスポーツだと思います。ラグビーって、自分でやってて言うのもなんですが、見るスポーツだと思いますよ(笑)。」
取材・構成:村上晃一 撮影:スエイシナオヨシ
大畑大介
小野澤宏時
●大畑大介
'75年、大阪府生まれ。東海大仰星高、京都産業大を経て、'98年神戸製鋼入り。'01年オフシーズンに豪州のクラブでプレーし、'02年にはフランスのクラブに移籍し、翌年、神戸に復帰。'96年に代表初キャップ、通算69トライの世界記録を保持する。176㎝、82kg。ポジション・CTB/WTB。
●小野澤宏時
'78年、静岡県生まれ。聖光学院高、中央大を経て、'00年サントリー入り。ルーキーイヤーからサントリーの主軸として活躍し、昨年はトップリーグ、「マイクロソフト杯」のMVP2冠に輝く。'01年に代表初キャップをマークし、現在は47キャップ、日本歴代2位の通算32トライを誇る。