1991年の初演以降、今回で4度目の上演となる『ブリザード・ミュージック』。クリスマス×宮沢賢治×キャラメルボックスという、劇団の信念と愛情がたっぷり詰まった一作は、いまだ多くのファンを魅了してやまない。物語の中心人物・梅原清吉(90歳!)は、初演から一貫して西川浩幸が演じる。その西川と、ヒロインのミハル役に初挑戦する渡邊安理が、今作への期待と本音を真摯に語る―。
――おふたりの共演は過去に何度かありますが、俳優として「相性の良さ」を感じることはありますか?
西川浩幸: どうなんだろう?
渡邊安理: わからないですね(笑)。
西川: 共演する時は親子役が多いかな。でも、実はそんなに絡んでないんですよ。シーンにふたりで出ることはあるけれど、安理ちゃんと緻密に作るとかは、あんまりなかったかも。
渡邊: 西川さんと共演する度に思い出すことがあって、西川さんって、毎年劇団に入ってくる新人を凄く可愛がってくださるんですよ。勿論私も可愛がって頂いて、当時「君と僕は歳が20違うんだ。だから、君と僕の間には大きな幅、世代差がきっとある」って、とっても真剣な顔でおっしゃって。
西川: それ、何が言いたいんだろうね。よくわかんない(笑)。
渡邊: 西川さんとは20年の差があって、そういう尊敬は絶対捨てられないし、でも、そこに受け身だったり甘え過ぎたりせず「20年分の差がありますけど、私はこうしてきました!」という関係でいたいなぁと。そこは頑張りどころだと思っています。20年前の西川さんが今の私の歳ってことですよね?
――2度目の『ブリザード~』上演が1994年ですから、その時の西川さんと同い年。
渡邊: そっか~!
西川: でも、30歳の頃なんて、僕は2回位しか客演やったことなかったよ。
渡邊: 客演の数ですか(笑)。
西川: でも、今思い出したけど安理ちゃんの初舞台(※『ブラック・フラッグ・ブルーズ』2004年)ではコンビだったよね。
渡邊: そう、コンビでした!
西川: その頃からやり易いと思っていたんだよ。
渡邊: やったー!嬉しい!実はわたしもそう思ってたんですよ~!!
西川: (笑)。僕はね、とにかく下らないことばっかりしていたので。
渡邊: (笑)。
西川: 新人に向かってそんなことを投げかける先輩はいないだろうという程、すごく自分勝手にやったから大変だったと思う。でも安理ちゃんなら受け止めてくれるような気がして「こんな芝居もあるんだよ」というつもりでやっていましたね。
――『ブリザード・ミュージック』ですが、おふたりにとってどんな作品と言えるでしょうか?
渡邊: 私、2001年の上演を客席で観ているので、そこに出られること自体、不思議な感じがするんですよ。すごく大好きな作品ですし。
西川: 僕にとっては、劇団の基本に『ブリザード・ミュージック』の世界観があって、そこから色んなものが派生している印象なんです。この作品は全編を通してお芝居への愛が描かれているんですけど、お芝居への愛はイコール、芝居を通じて何かを伝えたいという切実な思いなんですよね。だから、原点じゃないですけど、こういうお芝居をやるのは分かり易い形の名刺みたいなものだと思います。「我々はこうやるんです、こういう想いでお芝居を作っているんです」というのが伝わりやすい。もちろん、作る過程において相当苦しむと思いますけど、苦しめば苦しむほど大きなものが返ってくる作品。簡単に言うと、魂なんです。心なんです。それがないものは何でもダメですけれど、例え身体が動かなくても、心が伝われば共感出来る、互いに気持ちを共有出来る。それがお芝居全編に入っている、非常に希有な本だと思っています。
――配役の話を少し。今回で4度目の上演となりますが、西川さんは過去3回演じた「清吉」役での出演です。
西川: 去年の6月頃に成井(豊)さんと面談したんですけど、その時は『ブリザード~』が上演候補の段階だったこともあり、「『太陽の棘~』に出て欲しい」と言われたんです。で、逆に僕から質問したんですよ。「もし『ブリザード・ミュージック』をやるのであれば、僕はそっちに出た方がいいんじゃないですか?」と。それは自分がやりたいというよりも、もっと別の想いがあって、なんですけど。
――その想い、詳しく伺ってもよろしいですか?
西川: まず「おそらく出来ないだろう」という配慮だと思いました。僕、最近はさほど出番が多くない役をやっていて、それは成井さんの気遣いなんですが、その気遣いを受けてさえ、僕の中では苦しいこともあった。けれども、例えどんなに辛い思いをしたとしても、挑んだ方が良い時期があって、それが今なんじゃないかと。これは自分がやらないと一生悔いが残ると思ったんです。それは『容疑者χの献身』の再演(2009年初演、2012年再演)に出るのを止めた時、自分にとって決してマイナスの判断ではなかったのですが、それでもチャレンジしなかったという勇気のなさは残って、「あの時、どう転んでもやるべきだったのでは?」という後悔が消えないんです。で、これは絶対にやるべきだと。
――『容疑者χの献身』といえば、西川さんがご病気(※2011年春に軽度の脳梗塞を患い、半年程度の休養期間を経て復帰)をされた後の再演でした。
西川: でも、正直あの時は出来なかったと思います。今はちょっとだけ自信がついてきて、出来るんじゃないかという気持ちがあるからこそ踏み切れた。今だからこそですね。
――そして、渡邊さんは『ブリザード~』初出演で「ミハル」役になります。
渡邊: 『ブリザード~』というとおじいちゃんとミハルさんが並んでいるイメージが強いんですけど、そこに渡邊安理がいて良いのかと。全然実感が湧かないです。
西川: 最初にやった時は僕が27歳で、そこから23年経っているけど、安理ちゃんが観たのは……。
渡邊: 13年前。
西川: 13年でしょ。安理ちゃんは「私がそこに」と言うけれど、13年も経てば新作を作るようなものだし、もっと気楽にやっていいと思う。内容に関して言えば、各々の想いがちゃんと描かれている幸せな作品だから、その中のひとりを自分が担当すると思うだけでいい。それと、安理ちゃんはミハル役にピッタリだよ。当て書きだと思われてもおかしくない。
渡邊: そんなことないですよ~。
西川: むしろ、そう思われないとダメだと思う。
渡邊: はい!
西川: うん、そういう役だよ。とにかく渡邊安理でやるのはしっくりきました。ああ、そうだよなぁって。
――今年のクリスマスツアーは『ブリザード・ミュージック』と新作『太陽の棘~』(脚本:ほさかよう、演出:成井豊)の同時上演。宮沢賢治という共通項もありますし、せっかくなので2作品共楽しみたいですよね。
西川: 成井さんと(ほさか)ようくんの大きな違いは、ファンタジーという世界観を、成井さんはサニーサイドで描いていて、ようくんはダークサイドで描いている点。でもそれは地球が回っているかの如くで、同じことなんです。『ブリザード~』は明るい光が当たっている作品ですけれども、そうじゃない全く裏側のファンタジーだって存在する。それあってこその明るい面だから、もう片方をようくんに書いてもらいたくなるのは、とても自然なことだと思います。
渡邊: なるほどー。
西川: だから、僕らが『太陽の棘~』を観た時には「もっと深く『ブリザード~』を感じないといけない」と考えるはずなんだ。
渡邊: わかります。
――宮沢賢治をモチーフにした公演に出演される際、俳優として、または一個人として、考えることはありますか?
渡邊: 私、キャラメルボックスが好きだから宮沢賢治を読み始めた、みたいなところがあったので、最初はとにかく読みづらくて(笑)。でも、いざ自分が作品に出ることになって読み返してみたら「こんなに面白かったんだ!」と思えた。だから、私みたいな人は絶対いると思うんですよ。そういう人達に「楽しいんだよ!面白いんだよ!」という気持ちを届けたいです。
西川: 成井さんは宮沢賢治をモチーフにした台本を幾つか書いているけれど、賢治のこういう所を表現したいとか、こういう風にやってくれとか、そういうことは一切言わないんです。ただ、賢治の言葉が出てくると、これは本当に不思議なことなんですが、それは賢治の世界になるんですよね。それから、役者が宮沢賢治についてどんどん知っていくと、その取り組み方も変わってくると思います。僕は『春と修羅』を読んで自分の人生が変わったので、それ以前とそれ以降の、世界に対する在り方、生き方が全く異なる。それ位インパクトのある作家であることは間違いないです。だから……、何だろうなぁ。賢治の言葉って、空気の中にあるちょっとしたいい匂い、みたいな。それこそ匂い袋みたいにして、大事に持っている。もし誰かに聞かれたら「こんな素敵なものがあるんですよ」って見せたくなる、宝物みたいな感じかな。
――それでは、この記事を読んでいる方へ一言メッセージをお願いします。
渡邊: すごく好きな作品だし、私自身、とても楽しみにしています。それを自分達の中だけではなく、お客様にも楽しんで頂けるよう、今回キャスティングされた劇団員と一緒に、大切に作っていきたいです。
西川: キャラメルボックスの為に、あなたの1日をください。必ず楽しい1日にします。是非僕達に会いに来て欲しいです。
――年末ですし、キャラメルボックスに元気を貰いに行く感じで。
西川: ……僕ね、ほんと正直に言うと、自分がこれをやった時にどうなるのか全く想像がつかないんですよ。適切な言葉が浮かばないんですけど、お客さんが観に来てくれたその日が最後のつもりでやろうと思っていて。あなたの決めた予定日が……、ダメだ、まとまらない(笑)。
渡邊: 最近西川さんが出ているお芝居とは、やっぱり全然違うんですか?出ている時間とか台詞量とかだけじゃないと思うんですけど、その、おじいちゃんのポジションというか。
西川:
最近は舞台上で走ったりしていないし、大きな声でやることも少ない。でも何より、誰かに訴えるように心を動かすことが、この3年間、実はそんなにないんですよ。でも『涙を数える』(2014年8月)でそういうシーンがあって、正直もう俺には出来ないと思っていたんですけど、ちょっとだけ光明が見えたので、その方向へ進んでいきたいなと。これはもう、自分の脳みそとの闘いなんですよ。新しいシナプスがどう繋がるかに賭けている。だから、本当に死ぬ気でやるしかないし、何かもう、自分が無茶苦茶になっちゃいそうな予感もあります。でも、それでもいいかと思っていて。やるのは4度目なんですけど、ものすごく恐ろしいです。でも同時に、楽しみなことも沢山あります。暗闇の中へひとりで歩いて行くのではなく、みんなと手を繋いで歩いて行けるので、そういう姿を観に来て欲しいと思っています。この『ブリザード・ミュージック』、そして『太陽の棘~』で、キャラメルボックスの底力をお見せします。
取材・文:園田喬し
撮影:源 賀津己
