――本作『イリアス』は、ギリシア最古の英雄叙事詩にして、世界初の舞台化になります。
「すごいことですよね! 元々は演劇という形態が出来るよりもうんと前に、言葉で語り継がれてきた神話。それが生身の人間で、今回初めて劇化される。これってかなりの事件なのではないかと思っています。」
――約三千年前に生まれた異国の神話を、今やる意義はどこにあると思いますか?
「今この世に争いがなければ、これはファンタジーですよね。でも争いは三千年前から続いているし、そこで置いていかれた家族の気持ちも変わらない。それは国が違っても、三千年の隔たりがあっても、まったく同じことを感じているわけで。その積み重ねがあるのに、なぜ人は争いをやめられないのか? この舞台は、そういうことの問題提起になっているんだと思いますね」
――争いを軸にした男性の物語の中で、女性はどんな見え方をしてくると思いますか?
「この作品には2人の女性が出て来ますが、アンドロマケは母性の象徴として。もう1人のカサンドラは、女性を飛び越え人類の代表として存在しているように感じます。更に、コロスという非常に重要な役割を担う5人の女性も登場しますし、男性の物語ではありますが、それを俯瞰して語っているのは、女性たちです」
――新妻さんが演じるカサンドラについて、もう少し詳しく教えてください。
「カサンドラには、大きく2つの役割があります。トロイア王の娘という役割と、時空を飛び越え、三千年前と現代を繋ぐ役割。これがまた、一筋縄ではいかない役で……。私がいただく役って、いつも課題が多いんです(苦笑)」
――その課題の中で最たるものとは?
「ストレートプレイなのに、なぜか私だけ歌があるんです(笑)。でも音楽劇ではないですし、ましてやミュージカルとはまったくの別物。今はその落とし所を探っているところです」
――豪華過ぎるキャストがそろいましたが、その中で新妻さんが掲げる目標は?
「萎縮して自分らしさを見失わないこと。先輩方からもらうばかりじゃなく、新妻聖子がやる意味も提示しながら、舞台に存在できたらと思います」
取材・文:野上瑠美子 撮影:本房哲治
▼「イリアス」
9月4日(土) ~ 23日(木・祝) ル テアトル銀座 by PARCO(東京都)
9月25日(土) 新潟市民芸術文化会館 劇場(新潟県)
9月28日(火) ~ 10月3日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール(兵庫県)
[出演]内野聖陽 / 池内博之 / 高橋和也 / 馬渕英俚可 / 新妻聖子 / チョウソンハ / 木場勝己 / 平幹二朗 / 他
□発売中