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チケットぴあインタビュー

『台湾の、灰色の牛が背伸びをしたとき』 維新派〈彼〉と旅する20世紀三部作 #3 松本雄吉

『台湾の、灰色の牛が背伸びをしたとき』 維新派〈彼〉と旅する20世紀三部作 #3 松本雄吉
変拍子のリズムに乗って放たれる大阪弁、ダンスには属さない独特の動きが、幻想空間をダイナミックに構築する。 "ヂャンヂャン☆オペラ"とも称される独自の表現スタイルで熱烈な支持を受ける劇団・維新派が、「〈彼〉と旅をする20世紀三部作」の最終章を埼玉公演で締め括る。瀬戸内海・犬島の野外劇場で展開したアジアの旅は、埼玉の地でどのようなフィナーレを見せるのだろうか。

――2007年から始まった「20世紀三部作」が、今年いよいよ第三部最終章を迎えました。あらためて、20世紀という時代を振り返ることにした"旅の動機"を教えてください。



「年齢的にいって、僕ら以降の世代の人は20世紀を振り返ろうなんてしないんじゃないかと思ったんですね。そういうことを主題的に扱うのは、僕らが最後の世代だろうと。20世紀は基本的に戦争の世紀と呼ばれるくらいで、うねるような世紀だったと感じている。維新派はずっと「人間が移動する」ことをテーマに作品を作ってきました。20世紀を「日本人にとって、民族が移動した世紀」という視座でとらえてやってみようと思ったんです。」



――三部作すべてに登場する身長4mの〈彼〉が気になりますが、歴史の証人のような役回りなのでしょうか。



「20世紀が生んだモンスターなのかな。19世紀までの戦争は、人間が刀と刀で、実際の距離でもって殺し合いをしていたのが、20世紀になると距離を置いて戦争をし出した。ボタンひとつで1キロ先の人間を殺せるようになるわけです。直接性から間接性へ。戦争における殺人にも責任感も持たず、逆に凶暴性が強くなっていく。心が傷つかず、恐怖心も抱かずに人間を殺せるということは、ひょっとしたら人間の手が伸びたのではないか。そんな人間の拡大性の意味をモンスターの〈彼〉に込めたところはありますね。それに巨人はビジュアル的にも楽しんでもらえるだろうし、客席からは、俳優を見る時は水平の目線になるけど、巨人を見るにはちょいと見上げないといけない。〈彼〉が参加してくれることでお客さんの目線が、芝居の空間が広がるという発想もありました。」



――第一部は南米、第二部は東欧、そして第三部ではアジアを旅します。7月、瀬戸内海の犬島には4千本!もの丸太を使った野外劇場が現れましたが、その壮大な舞台が今度は埼玉に移されます。埼玉公演での新たな構想は?



「島でしかやれないもの…、また島に似合うフォルムとなると、やはり鉄よりも木だった。アジアの感覚をとらえるにも、木のほうが接近しやすいんじゃないかということでね。  今回は"証言演劇"と言いますか。過去の人たちの「こういう旅をしました」と報告する形からアジアの旅を生むような舞台になればと考えて、芝居を組み立てています。埼玉では劇場での公演なので、その証言演劇がより正確にやれるかなとは思っていますね。やっぱり埼玉では犬島とは違うことをやりたいと思って、今、すごく悩んでいるところです。舞台は、劇場の中に丸太の野外劇場を展示するような形にしたい。巨大な漂流物が埼玉の劇場にガガッと流れ着いたような雰囲気を出したいんですね。木にはまだ犬島の潮の匂いが残っていると思うし、それ自体が夏からの漂流物みたいなものですから。 」



――松本さんの中で、これで「20世紀三部作」が完結したという思いはあるのでしょうか。



「いや?なかなかそうはいかないですねえ(笑)。地球は広いな、とあらためて感じるほどに知らない材料がいっぱい転がっている。それも一つの20世紀の姿で、まだまだ旅のテーマは出てくるだろうと思います。今後も演劇の未来、演劇の可能性が見えるような芝居をしていきたいですね。」




取材・文:上野紀子 撮影:源賀津己


▼「台湾の、灰色の牛が背伸びをしたとき」維新派〈彼〉と旅する20世紀三部作 #3
12月2日(木) ~ 5日(日) 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール(埼玉県)
[出演]岩村吉純/藤木太郎/坊野康之/石本由美/平野舞/他
□一般発売:10月2日(土) 10:00