完璧なる執事・鎌塚アカシの奮闘と、淡い恋心を描き出した舞台『鎌塚氏、放り投げる』。作・演出家の倉持裕が初めて"コメディ"と銘打った作品で、その続編の上演が、前作から約1年という短期間で決定した。そこで倉持と、新ヒロイン役となる満島ひかりに話を訊く。
前作の上演は、震災2か月後の昨年5月。そこでは沈みがちだった観客の表情に再び笑顔が戻り、劇場全体が幸福感で満たされた。そんな観客の一人だったという満島は、「本当におもしろかったです! 周りのお客さんも心から楽しそうな、嬉しそうな、満足げな顔をしている。目の前のお客さんをこんな顔にできるなんて、やっぱり舞台ってすごいなと思いました」と振り返る。
満島は'09年の舞台『ネジと紙幣』で、倉持作品は経験済み。だが『ネジ~』では内に秘めるタイプの役柄だっただけに、倉持は「その反対を行きたい」と今回の起用を決めた。さらに「今回のひかりちゃんの役柄は、とにかくわがままなお嬢様。だからガンガンわがままを言って、発散してもらえれば。ほかの共演者も喜劇ということで、『どうやったらおもしろくなるのか?』ってことを、ただただ追求していく稽古になるはず。だからそれに乗って、一緒に楽しんで欲しいですね」と再タッグへの思いを明かした。
共演者には、前作に引き続きアカシを演じる三宅弘城ほか、田中圭、市川実和子、今野浩喜(キングオブコメディ)、六角精児。さらに広岡由里子、玉置孝匡も三宅と同じく続投となる。そんな個性豊かなキャスト陣のことを、満島は期待感と憧れを込め、「ちょっとアレな人たち(笑)」と表現。「お芝居を作るなかで、一番難しいのが笑いだと思います。だからそこは倉持さんと、ちょっとアレな共演者の皆さんにお任せしちゃおうかなと。きっとイマジネーション豊かな方たちばかりだと思うので、それだけですごいことになると思っています」と目を輝かせた。
満島演じるセンリと、市川演じる女中のミカゲとは主従関係。この2人のやり取りも、作品の大きな見どころになると倉持は話す。「わがままを言う方とそれを抑える方。このやり取りはかなりおもしろく見せられるんじゃないかと思います。かけ合い漫才みたいな感じで(笑)」。さらにこのセンリだが、ミカゲと入れ替わることで女中としての顔――もちろん中身はお嬢様のまま――も見せる。結果、モトキ(田中)の執事であるアカシとの絡みも増えるとのことで、「センリとアカシが意外と仲良しな、力を合わせる感じになる(笑)。だからこちらのコンビ感も、ぜひ楽しんでいただきたいですね」と倉持。満島も「執事のことを何にも知らない人と、執事に命をかけている人ですからね(笑)。それは絶対におもしろくなるはずです」と期待を膨らませた。
『ネジ~』への出演以降、ほとんどの倉持作品を観劇し、自ら"倉持ファン"を豪語する満島。それだけに「倉持さんの舞台はいつも100パーセント楽しんで帰るので、行くか行かないかで言ったら、私は常に行く方を選びます。だから私の好みを押しつけるようで申し訳ないですが(笑)、今回も絶対に、行かないよりは行った方がいいと思いますよ、皆さんっ!」と語気を強める。それを受け倉持は、「前作を観ていなくても十分楽しめますので…」と前置きをした上で、「今、ひかりちゃんを舞台で観られるっていうのは、最大の売りだと思います。なのでぜひ多くの方に、劇場へ足を運んでいただきたいですね」と続けた。
再びの倉持演出のもと、満島がどんな新しい一面を見せてくれるのか。さらに前回の"放り投げる"同様、今回アカシはいったい何を"すくい上げる"のか。今夏の開幕を楽しみに待つこととしよう。
取材・文:野上瑠美子 撮影:柴田和彦
▼M&O Plays プロデュース「鎌塚氏、すくい上げる」
8月9日(木) ~ 26日(日) 本多劇場(東京都)
9月1日(土)・2日(日) サンケイホールブリーゼ(大阪府)
8月29日(水)・30日(木) 名鉄ホール(愛知県)
9月4日(火) 島根県民会館 大ホール(島根県)
[劇作・脚本・演出]倉持裕
[出演]三宅弘城/満島ひかり/田中圭/市川実和子/広岡由里子/玉置孝匡/今野浩喜/六角精児
■一般発売:
東京・大阪・島根=6月9日(土) 10:00
愛知=発売中