『太陽の棘』特別インタビュ－ 鍛治本大樹×多田直人×岡内美喜子

キャラメルボックスの主演像って？

――この「キャラメルボックス・アラカルト」ですが、劇団外の作家に新作の脚本を書き下ろしてもらう企画ということで、キャラメルボックスにとって、また新しいチャレンジと言えますね。

多田直人： 外部の作家さんが書き下ろした本を成井(豊)が演出すること自体、大きなチャレンジだと思っています。ほさか(よう)さんの作品を成井がどう扱うのか、僕らをどう動かしてくれるのか、その辺はあまり想像がつかないんですよ。

岡内美喜子： そうだよね、確かに。

鍛治本大樹： 空想組曲(※ほさかよう氏が主宰する劇団)なら多少は予想がつくんですけど、今回はキャラメルボックスの公演で、しかもほとんどの俳優は劇団員だし、本当にどうなるか分からない。

岡内： このふたりはほさかさんの作品に出演したことがあるんですけど、私はご一緒したことがないので「私もいつか……」と思っていました。でも今回、キャラメルボックスにいながらにしてほさかさんの作品と出会うことが出来て、信じられないというか、不思議な感覚です。

――『太陽の棘～』は新作ですし、ネタバレしない範囲で皆さんの役どころについて教えてください。

鍛治本： 僕は永沢亮二という役です。兄を亡くし、そのことで深く傷ついた兄の恋人がいて、生前の兄はどんな存在だったのか？ について悩み続けるというか……、すみません、上手く説明できない。

多田： でもさ、鍛治本は「ザ・主演」みたいな役だと思うよ。周りの状況が目まぐるしく変わっていって、その中でどうしたらいいかを考える役回りだから。

鍛治本： そうなんですよね。自ら進んで行動するのではなく、状況に一番飲まれている人なんですよ。でも、キャラメルボックスにおける主演像って、ガンガン喋ってガンガン引っ張って……。

岡内： 汗かいてね。

鍛治本： そういうタイプとはちょっと違うなと。

多田： 確かに。完全に受ける側だもんね。

――その亮二の兄・永沢恭一役が多田さん。

多田： タイトルになっている『彼はなぜ彼女を残して旅立ったのだろう』の「彼」が僕なので、要は恭一が一番の謎だったりするんですよ。あまり詳しいことは言えないんですけど、その謎の部分を楽しみにしていただければ。

――そして、恭一に先立たれてしまう恋人・星宮明音が岡内さん。

岡内： お客さんの中には似た境遇の方もいらっしゃるでしょうし、女性のお客さんは私に感情移入しながらこの物語を見守っていくであろう役なので、プレッシャーをものすごく感じています。でも、初主演の鍛治本くんが輝けるよう素敵に演じられればと思っていますし、作品全体のためにも頑張らないといけないですね。

最終的に大丈夫なことは分かっているんですけど(笑)

――余談ですが、先日鍛治本さんが主演された公演(※ミナモザ『WILCO』2014年6月＠座・高円寺1)を拝見しました。鍛治本さんの骨太な存在感が印象的でした。

鍛治本： ありがとうございます！

多田： やれば出来るんですよ、鍛治本は。

鍛治本： (笑)｡ミナモザの時はあまり考え過ぎずに出来たんですよ。周りの方々に助けてもらって、とてもフラットにいられた作品だったので、今回もそれでいければ……。勝手な思いですけど。

多田： この座組、結構イイよね。

岡内： すごく穏やかな感じ。かつ賑やかな人もいて。

鍛治本： 稽古場もすごく賑やかでしょうねぇ。

多田： キャラメルボックス的には『ブリザード・ミュージック』の本番もあって、位置づけとしてはそっちが本公演でこっちが番外公演だから、良い意味で肩の力を抜いてチャレンジ出来るチャンスなんですよ。そういう部分を活かして、主演だから！ と片意地を張らないで出来ればね。とは言っても主演は主演だから。

鍛治本： 今のところ、全然実感がなくて。

岡内： 座長って呼ぶよ？

鍛治本： お弁当とか差し入れしなきゃ。

多田： そういう気遣いはいらない(笑)｡

鍛治本： 僕の勝手なイメージなんですけど。叙々苑の焼肉弁当とか。

岡内： すごいね～(笑)｡

鍛治本： 稽古場へ入ったら、多分ガッチガチになると思う。

――普段の稽古場ではどんなご様子なんですか？

岡内： 鍛治本くんはスタートダッシュが出来ない人なんですよ。じわじわ、じわじわ、と進んで行って、いざ本番になると「最初からそれやりなよー！」みたいなお芝居をする人。

鍛治本： え？そうですか？自分としては稽古に臨む時、スタートラインの10メートル位後ろからダッシュして……。

多田： 助走をつけて？

岡内： そうなんだ？

鍛治本： はい。そのつもりでした。

岡内： なんだかんだで最終的に大丈夫なことは分かっているんですけど(笑)｡

「今まで」と「これから」を体感する同時上演

――先程のお話にも出ましたが、今年のクリスマスツアーは『ブリザード・ミュージック』と『太陽の棘～』の同時上演。宮沢賢治という共通項もありますし、せっかくなので2作品共楽しみたいですよね。

多田： 『ブリザード・ミュージック』は13年振りの上演ということで、色々と新しくなる部分もあるでしょうけど、キャラメルボックスの代表作のひとつですし、我らが西川浩幸久しぶりの主演作ということで、キャラメルボックスを知ってもらう意味ではこれ以上ない作品だと思います。それに対して『太陽の棘～』は鍛治本大樹が初主演で、これからのキャラメルボックスを知ってもらうのに最適な一作。「今まで」と「これから」を同時に知ってもらえるような、良い感じに対になっていると思います。そして今、すごく良いことを言ったと思っています(笑)｡

一同： (笑)。

鍛治本： いやー、僕も聞いてて「先輩上手いこと言うな～」って。

岡内： 「対」というのはちょっと分かる。確かに『ブリザード～』を観ると「『ペンネンノルデの伝記』(※『ブリザード～』、『太陽の棘～』、その両作品に登場する、宮沢賢治の未発表童話。実在するのは、構想のメモ書きのみ)ってどういうものだったんだろう？」と思うよね。

鍛治本： あっちは「『ペンネンノルデの伝記』は大切なキーワードだけれども、メインテーマは別のところにある」という感じ。

岡内： だから『太陽の棘～』を観ると「ああ、こういう感じのお話だったんだ」というのがちょっと伝わるかもしれない。

鍛治本： 僕は『ペンネンノルデ～』の内容を補完しているのが『太陽の棘～』だと思っていて。

岡内： そうそう。

――宮沢賢治をモチーフにした公演に出演される際、俳優として、又は一個人として、考えることはありますか？

岡内： 成井は宮沢賢治を心から尊敬していて、私達はそういう劇団で育ってきたんですけれども、正直言って私、この劇団に入るまで宮沢賢治の魅力について、よく分からなかったんです。いつも「私の受け取り方はこれで合っているのかな？」と迷いながら読んできたんですが、今回ほさかさんが書いた脚本は、そういう人に是非観ていただきたくなる作品。私が演じる明音という役も「宮沢賢治って？」と思っている役ですし、「宮沢賢治って本当にいいの？」と感じている人にこそオススメしたいと思っています。私は好きです。成井とはまた別の切り口で、ほさかさん流の捉え方が垣間見える気がして。

鍛治本： 宮沢賢治さんって色んな側面があると思うんですけど、今回のお話は、賢治さんが朝は畑を耕し、夜は執筆をして暮らしていた、その生活の核の部分が活かされていると感じていて。だから、今までキャラメルボックスが創ってきた作品とはまたひと味違う一面が見えるんじゃないかと思っています。

多田： 宮沢賢治の未発表童話ということで、こういう風に演劇として立体化するとまた違った解釈が出来るようになると思います。それから、あまり人が掘り下げていないような題材を扱うことになるので、新たな宮沢賢治の魅力に触れられる作品にしたいですし、そのためには僕らがよりデリケートにやらないといけないなぁと感じています。

「野心を持った鍛治本はこうだ！」という姿をお見せしたい

――それでは、最後に読者の方へメッセージをお願いします。

岡内： 今年1年間を振り返っても、時代劇あり映画原作あり2本立てありで、とにかくお客さんを飽きさせないように新しい挑戦を！ とやってきたキャラメルボックスですが、今回の作品は最大級の新しい風を運んできてくれるんじゃないかと思っています。「こんなキャラメルボックスもあるんだよ！」ということを体験しに、劇場へお越しいただけたらと思います。ステージ数は少ないんですけど、是非都合をつけて。

多田： 12月10日から24日までやっているんですけど、今のところ8ステージしかないので。

岡内： 少ないんですよ～。

多田： 手帳とにらめっこをして、観にきていただきたいと思っています。ほさかようさんのお力をお借りすることで、劇団員の新たな一面も発掘出来ると思いますし、それプラス、真ん中に立つ鍛治本大樹も、個人的にはすごく楽しみにしているので、幾重にもトピックスがある公演になると思います。

岡内： はい、座長の番だよ。

鍛治本： ……全然まとめられる気がしない。

岡内： 座長、頑張って！

鍛治本： キャラメルボックスはフィクションの世界を舞台上でやる訳ですけれども、劇団員一人ひとりのノンフィクションをドキュメンタリーとして楽しんでいただくことも、劇団の大きな魅力だと思っていて、そういった意味で今回初めて劇団で主演をやらせていただくということは、僕自身の山場のひとつになると思っています。去年、成井と一対一で面談をした時に「君はもっと野心を持った方がいい」と言われたんです。だから、今後はもっと野心を持っていこうと。

岡内： 素直だなぁ(笑)。反論しなかったの？

鍛治本： いやいや、僕はそろそろ野心を持たないとダメなんですよ。

岡内： おー!!

鍛治本： そして、今日話していて思ったんですけど、やっぱりスタートダッシュは決められてなかったんだと……。

多田： それは、何に対して？

岡内： 役者人生？

鍛治本： (笑)｡ありがたいことに「早く主演が観たい」と激励してくださるお客さんもいましたし、作品自体を面白くしていくことは勿論ですが、野心を持った鍛治本はこうだ！ という姿を、きちんとお見せ出来るといいなと思っています。それを目撃しに、ぜひ劇場へ来ていただきたいです。

――鍛治本大樹ファンが増える、そんな公演になりそうですか？

岡内： 増えるといいねー。

鍛治本： そういう野心を持っていきます。はい、増やします!!

取材・文：園田喬し
撮影：源 賀津己