Column
芸術の「夏」は、どこを見る?

「ヨコハマトリエンナーレ」は、2001年にスタートした国際色豊かな展覧会ですが、その4回目となる2011年に初めて、真夏の8月にスタートするトリエンナーレへとイメージ・チェンジを図りました。2014年に第一回目を迎え、今回が2回目となる「札幌国際芸術祭」もまた、北海道の夏に開催されます。そして、今年、栄えある初回を迎える「Reborn-Art Festival」も真夏のフェスとして華々しくオープンしたばかりです。このコラムでは、芸術の「夏」をキーワードに今、注目のイベントのみどころをご紹介します。
3年に一度のトリエンナーレや数年に一度の芸術祭は、期間限定で多くの人に見てもらうことができるからこそ、アーティストたちもチャレンジングな作品で真剣勝負をかけてきます。そのため、こうした芸術祭の醍醐味の一つは、何と言っても、アーティストの「新作」が見られること。新作を見るということは、世に出て間もない鮮度の良い作品の、最初の目撃者になることです。わたしたちは、アーティストがいま何に関心があって、どのように地域の歴史や展示空間の特徴を読み取り、作品に展開していったのかに考えを巡らせることで、いくつもの新しい発見をすることができます。もちろん、新作でなくても、「なんだこれはー!」という大いなる疑問符やモヤモヤが自分の中に生まれれば、アートを楽しむ扉のドアノブをみつけたようなもの。スタート地点に立った後は、その頭や身体にこびりついた「なんだこれ感」が何なのかを味わい、ひとつではない答えを見つける旅にでかけましょう。
- ■札幌国際芸術祭2017
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第2回目となる今回は、音楽家の大友良英をゲスト・ディレクターに迎え、「芸術祭ってなんだ?」というテーマのもと、美術、音楽、パフォーマンス、演劇とさまざまな表現方法をもつアーティストやグループが総勢100名以上参加します。
彫刻家のイサム・ノグチの遺作であるモエレ沼公園を芸術祭の中心的な場所とし、札幌市を中心に35カ所以上がその会場となります。モエレ沼公園では、中古のポータブル・レコードプレイヤーを加工して展示空間に配置する、大友良英+青山泰和+伊藤隆之による新作が展示されます。レコードプレイヤーの周りを鑑賞者が行き来すると、そこには二度と同じ組み合わせのない音が立ち現れるという作品です。
また札幌市内を走る市電でのプロジェクトがいくつか企画されていますが、特に指輪ホテル(芸術監督:羊屋白玉)による、市電の車内や、車窓から見える景色が舞台となる新作演劇にも注目です。街で見慣れた要素が演劇化するとき、私たちが日常生活で区別している現実と空想の世界が重なったり、入れ替わったりするような、世界の見え方が一辺する面白さが体験できそうです。
また、札幌から北に足をのばせば、アーティストの阿児つばさがリサーチした音威子府村を本人とともに一泊二日で巡るツアーも。 - ■ヨコハマトリエンナーレ2017
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2000年前後以降、全国各地で大型の展覧会がトリエンナーレやビエンナーレ、フェスティバルなどの名前で次々と誕生していますが、なかでも「ヨコハマトリエンナーレ」はその先駆けとして、日本において国際的な現代アートの先端を紹介する、最も有名な展覧会の一つです。
「島と星座とガラパゴス」というタイトルを掲げ、「孤立」と「接続」というキーワードをもとに、私たちの世界がおかれている複雑で流動的な状況について、アートを通じて考えようとするものです。テーマを象徴的に表す作品を会場の正面に展示するというキュレーションの作法がありますが、今回は中国の北京出身で現在はベルリンに住むアイ・ウェイウェイが救命ボートと救命胴衣を用いて、世界の難民問題を意識せざるを得ない大型インスタレーションを展開します。
さらに、この時期に合わせて隣接する黄金町で「黄金町バザール2017」が行われたり、馬車道にあるBankArt 1929やYCC横浜創造都市センターでも渾身の企画が予定されているので、足を伸ばしてみるのがいいでしょう。9月16日(土)からは第3回目となる「日産アートアワード2017」展がBankArt 1929で開催され、過去2年間の活躍を評価された日本人アーティストによる新作展が行われます。地方の芸術祭が一日では回りきれない傾向にありますが、都心型の横浜トリエンナーレは各会場もそれほど離れておらず、互いが無料バスで結ばれるため利便性も抜群です。 - ■Reborn-Art Festival 2017
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宮城県の石巻地域と牡鹿半島を舞台に、アートと音楽、食をかけあわせ、それを全面的に打ち出した新しいタイプのフェスティバルが7月22日に開幕しました。東日本大震災で被災した地域に、アーティストやミュージシャン、シェフが集い、それぞれのプロフェッショナリズムを尽くした展示や演奏、料理がふるまわれます。アートのディレクションには、東京・青山にあるワタリウム美術館の和多利恵津子館長と同館の和多利浩一代表が担当し、草間彌生、宮島達男、チン ↑ ポム、コンタクト・ゴンゾ、斎藤陽道など多様なアーティストのラインナップでイベントを盛り上げます。
市街地の展示は歩いて回れますが、牡鹿半島の作品は、バスや車で回る必要があり、場合によっては駐車場がなくてバスに乗り換えたり、徒歩で坂を下って作品やレストランに行くという必要があり、運動靴必須の情報も。アーティストの一人、宮永愛子さんは、牡鹿半島を視察した際に入り江からみた牡蠣養殖の景色に動かされ、作品を構想したと言います。開催1ヶ月前から現地入りし、今も滞在してるアーティストもいるようです。こうした大型展は、実は第1回目に行くのがポイントです。というのも、随所に実験精神が溢れていることが多く、数年たって振り返ったときに、「あの作品は初回だから実現したよね」という「幻展示」の体験者にもなれるから。期間限定の欲張りな夏祭りに注目です。 -
他にも注目の芸術祭が多数。今年の「芸術の夏」を満喫してみてくださいね!
塩見有子
アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]ディレクター。学習院大学法学部政治学科卒業後、イギリスのサザビーズインスティテュートオブアーツにて現代美術ディプロマコースを修了。2001年、現代アートと視覚文化を考えるための場作りを目的としてNPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]を仲間とともに立ち上げる(2002年法人化)。AITでは、アーティストやキュレーター、ライターのためのレジデンス・プログラムや現代アートの学校「MAD」を始動させたほか、メルセデス・ベンツやマネックス証券、ドイツ銀行、日産自動車などの企業とのプロジェクトを統括。
http://www.a-i-t.net/ja/
http://mad.a-i-t.net