Column

連載コラム『寄り道アート』2月

アートとして楽しむスイーツ
~観る、食べる、想う~

2月14日はバレンタイン・デー。ショップには色とりどりに着飾ったチョコレートが、おいしさや美しさ、ユニークさを競い合うように並んでいます。甘い物が苦手な人でも、その美しさやアート・センスには目を奪われるのではないでしょうか。スイーツの鑑賞、そんな楽しみ方もいいでしょう。それでは、スイーツの世界にちょっと寄り道!
■季節を感じさせる和菓子

自然の素材を大切にした味、見惚れるほどきれいな色や形、表現の豊かさや巧みさなどの点で、和菓子は今や海外でも注目される人気のスイーツだと聞きます。洋菓子にも、動物や花や様々な事物を象ったものはありますが、そうした「見立て」において和菓子はもっと繊細。四季折々の風物、花鳥風月をモチーフに、花びらの一枚一枚、そこに光るしずくの一滴まで、色も形も本物そっくりに作られています。
そんな美術品のような和菓子の最大の魅力は、季節の移ろいを感じさせてくれること。まだ寒の残る頃、桜の便りより一足先に店頭に並ぶ桜餅。その桜色の菓子と、それを包む桜葉のほのかな香りが春の訪れを感じさせ、心をウキウキとさせてくれます。

■和菓子とアート

手のひらに乗るほどの小さな和菓子。桜の花そっくりに造形された菓子もあれば、桜色の薄皮で餡を包んだだけの菓子もある。それは花を精密に描いた写実画と、色や形の遊びで花を象徴的に描いた抽象画の違いでしょうか。とはいえ、それぞれ柔らかな餡や餅の感触、甘い味と桜の香りに誘われて、春の夢の世界に想いを馳せる幸せは同じ。その感覚は、美術や音楽や文学作品を味わうときの幸せに通じているような気がします。
東京の山種美術館では、日本画をモチーフにした和菓子が販売されています。横山大観の雲海に包まれた富士を描いた「心神」や、「山桜」「寒椿」などが、「雲の海」「花の色」「冬のはな」といった、画題とは別の「菓銘」を冠した色鮮やかな和菓子に生まれ変わって、絵画とは別の形で視覚と味覚を楽しませてくれます。日本画の名作をそのまま菓子に写し取るのではなく、和菓子職人が絵から感じ取ったものをみずからの美意識で形にしているのです。大観の「山桜」は、江戸時代の国学者、本居宣長の和歌を念頭に描かれたそうですが、和歌から絵画、そして和菓子に至るインスピレーションの連鎖に心がときめきます。時代やジャンルを超えて共鳴する美意識と、個々の“アーティスト”の感性と表現力が交差して生まれるアート!奥深く、夢がありますね。

以前このコラムでも採り上げた、奈良県竜田川の紅葉。江戸時代の陶工・絵師、尾形乾山による色絵竜田川文透彫反鉢のように、水流と紅葉の文様で竜田川を表した作品が、日本の様々な芸術文化の中に息づいています。紅葉の一葉を象った練切(ねりきり)菓子に「竜田」という菓銘を付けるだけで、あの「ちはやふる・・・」の紅葉で真っ赤に染まった竜田川の光景を思い浮かばせる。そんな仕掛けは「竜田」の他にもいろいろありそうです。探してみるのも楽しいですね。

特別展「名作誕生-つながる日本美術」
色絵竜田川文透彫反鉢は、特別展「名作誕生-つながる日本美術」でご覧いただけます。
■スイーツを表現した音楽

今度は逆に、お菓子・スイーツをテーマに表現した芸術・文化に注目してみましょう。
音楽でスイーツを表現するとどうなるか?湯山昭のピアノ曲集『お菓子の世界』(1973年)は、まさにそのカタログのようなもの。「シュー・クリーム」「ホット・ケーキ」「チョコ・バー」「クッキー」「柿の種」「鬼あられ」など20種類以上の和洋様々なお菓子が、クラシックやジャズ、和風の曲調などバラエティ豊かな音楽スタイルで表現されています。それぞれの曲の特徴的なリズムやメロディー、ハーモニーに、また細やかな音の表情に、個性豊かなお菓子の味わいがちゃんと感じ取れるのが不思議です。耳で味わうスイーツもいいものですね。終曲の「お菓子の行進曲」は、それらすべてのお菓子のフレーズが顔を出す、とても楽しい曲ですよ。
チャイコフスキー『くるみ割り人形』の「金平糖の踊り」は、その名も“天国のような”音色の楽器、チェレスタが奏でるメロディーが印象的な曲。その鐘の音のような響きが、角がツンツン出た小さな砂糖菓子「金平糖」がたくさん集まって踊っているところをイメージさせる…といったら、それはちょっと違うようです。原題は「ドラジェの精の踊り」。アーモンドにカラフルな砂糖でコーティングしたお菓子ドラジェは、日本ではあまりなじみがなかったため、「金平糖」にして紹介したのが定着してしまったとのこと。でも、なぜか金平糖のほうがチェレスタの音色に合っているような気もしませんか?ちなみに、湯山昭の『お菓子の世界』にも「金平糖」の曲があります。聴き比べてみるのもいいでしょう。

■広がるスイーツ・アートの世界

和菓子職人や洋菓子のパティシエやショコラティエが、練切やケーキ、チョコレートなどを一つ一つ心をこめて丹念に作り上げるアートの世界がある一方で、スイーツをマスで捉え、その圧倒的な色彩と造形の集合体をCGやプロジェクションマッピングを駆使して自在に操って魅せる「スイーツ・アート」と呼ばれるイベントなども、最近よく見かけるようになりました。光線で着色されたスイーツは、いつもとはちょっと違った味がするのでしょうか?スイーツの世界はまだまだ広がっていきそうです。

日本初の参加・体感・劇場型プロジェクションマッピング
白い恋人パーク 参加・体感・劇場型プロジェクションマッピング SWEETS Projection Mapping Theater
サッカーフィールドを巨大スクリーンにプロジェクションマッピング。絵本のストーリーを映像に合わせてスモークやレーザー、香りで華やかに演出。更に、観客が持つキャンディスティックアイテムでストーリーにも参加。

大橋悦子(おおはし えつこ)
東京生まれ。翻訳家・ライター。東京芸術大学音楽学部楽理科卒業。同大学院音楽研究科修了。音楽を中心に、ジャンルを超えた様々な芸術文化に関する翻訳・執筆多数。

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