ART MEETS YOU!

アートプロデューサーと鑑賞する、領域を超えたコラボレーション
塩田千春「鍵のかかった部屋」×平原慎太郎
アフターレポート

もっと知りたい!という気持ちを後押しするプログラム「ART MEETS YOU!」の10月のプログラムは、注目のアートとダンスのコラボレーション作品を、鑑賞前のレクチャーで見所を押さえ、鑑賞後の懇親会でお互いの感想を共有することで作品を深く味わっていただくプログラムです。ゲストはアートプロデューサーの住吉智恵さん。住吉さんの深く幅広い知見とわかりやすい解説が参加者の皆さん独自の「作品解釈」へとつながりました。

今回の作品の見所は?

今回の展覧会を企画した神奈川芸術文化財団の中野仁詞さんにもお越しいただき、住吉さんと中野さんのお二人から制作の背景や見所を伺いました。まずは中野さんから「現代アートもコンテンポラリーダンスもこれだという正解は無いので自由な解釈を楽しんでください」とのお話からはじまり、今回のコラボレーションがうまれた背景などご説明いただきました。住吉さんからは、演出やダンサーたちの動きで塩田さんの作品の見え方や意味が変わっていくことを目で楽しめるというお話や、塩田さんのインスタレーションで5人のダンサーの優れた身体表現が見られることも本作品の注目ポイントだという情報も。

いざ会場へ!

30分程の事前レクチャーを終えて公演会場へ。会場を包む熱気に緊張と「何が起こるのだろう」という期待感が高まります。
開演のアナウンスとともにスタートした約1時間の公演。目の前で繰り広げられた世界について、ゲストの住吉さんからレビューをいただきました。

住吉さんの観劇レビュー

2015年、ヴェネチアビエンナーレ国際美術展の日本館代表に選出されたアーティスト・塩田千春のインスタレーションを、帰国記念展として再構成したのが本展《鍵のかかった部屋》だ。世界中から集められた数千に及ぶ古い鍵が、蜘蛛の巣のようにびっしりと張りめぐらされた赤い糸の先に結ばれている。ポール・オースターの同名小説から着想を得て、ドイツから運ばれた5つの古いドアを新たに設えた新作は、ふだんリハーサルスタジオとして使われている会場の劇場設備を存分に生かし、構想の段階から舞台空間を意図してつくられている。KAAT神奈川芸術劇場・芸術監督の演出家・白井晃、神奈川芸術文化財団・芸術総監督の一柳慧、両名のプロデュースによるダンスと音楽の公演が、その展示空間で上演された。

撮影:加藤甫

私たちが鑑賞したのは、先頃「トヨタコレオグラフィーアワード2016・次代を担う振付家賞」を受賞したばかりの平原慎太郎が演出・振付を手がけるダンスパフォーマンス『のぞき/know the key』だった。当日開演前にミニレクチャーを担当するため、その数日前にリハーサルの様子を見学した。舞台空間は非常に特殊で、赤い糸に繭のように包まれたアクティングエリアは、いくつかの区画に分かれ、それぞれの境界には白いドアがある。いちばん奥のエリアには無数の鍵が吊り下げられ、突き当たりにリハーサル用の鏡が張られている。その中で展開されるシークエンスは複雑で、平原を含む5人のダンサーたちがめまぐるしく区画を出入りした。

照明や音響の演出も実験的だ。驚いたのは舞台照明ならではの多彩な表情だった。現代美術の展示ではおよそ考えつかない、美術館ならむしろ異常ともいえる、時に極端なライティングで、塩田の作品は剥き出しにされ、その顔色は刻々と変化していく。そこにダンサーたちの身体のシルエットが投げ込まれる。粗暴な足音、苛立つノック、ドアの開閉の音が、スペイン語の朗読と共に響く。この時、展示空間は眠りから覚めて、荒い息をしはじめた。

撮影:加藤甫

本展企画者の中野仁嗣氏によれば、平原慎太郎は9年前に神奈川県民ホールギャラリーで行われた塩田千春の個展に衝撃を受け、ずっと「この空間で踊りたい」と願い続けていたという。コンドルズなどでも活躍する彼はその間、文化庁在外研修員としてスペインで研鑽を積み、ダンスだけでなく異文化や社会についての見聞を広めたはずだ。今回の作品にはその成果が新たな「色」をもたらしたと思う。その具体的な色とは「白」である。これまで塩田千春の作品世界は「赤」と「黒」に象徴される強い感情や生理感覚に支配されてきたともいえる。平原の演出は、白いドアを狂言回しに、仄明るいランタンや白衣のようなコートが暗闇の中で呟くことによって「白」を効かせた。この色彩感はペドロ・アルモドバル監督の映画や、アラン・ロブ=グリエのアンチロマン文学を思わせた。

撮影:加藤甫

降り注ぐ赤い雨を浴び、ダンサーたちの身体は、「鍵のかかった部屋」から巧みにすりぬけ、小説の主人公たちが立ち尽くすしかなかった「不在」と「存在」のあいだを自在に行き来する。塩田千春という芸術家の思考や記憶を超えて、彼らの骨格や肉付きは、人と人との境界や隙間にある空間を表現していた。「瞬間の哲学」と塩田自身が呼ぶ作品世界がこれまで観るものに直に手渡してきた切実で不穏な感情を、ダンスによって抑制し、新しい血肉のある表現に換えたと思う。美術とダンスが蜜月関係を結ぶのは、そんなふうに強靭な身体性を双方がともに得たときだと思っている。

懇親会は大盛り上がり

塩田さんと平原さんのコラボレーションによる化学反応を目撃した参加者のみなさんは衝撃を徐々に受け入れながら、同時に「気になる部分」が次々と浮かんできたようです。
劇場併設のレストランへ移動し、お酒を片手に懇親会がスタート。「ラストはなぜあそこで終わってしまうのか?」「ダンサーのあの動きに目を奪われた」「作品を強く引っ張るなど想像していなかった塩田さんの作品の使い方があった」「毛糸と扉で区切られた空間は何を意味しているのか?」「全部振付なのか?アドリブはあるのか?」などなど、様々な疑問・感想が飛び出しました。
住吉さんからはリハーサルで見た平原さんの演出のこだわりや、練習風景について、特徴的な演出や動きについて教えていただき、それによってまたみなさん独自の作品解釈が深まったようです。他のコンテンポラリーダンス公演にも興味が出てきたようで、住吉さんにオススメの公演を教えてほしいという要望も。

今回のイベントを終えて

参加者からは「ゲストだけでなく参加者の感想などを聞くことができて面白かった。色々なダンスの話を聞いてもっと見たくなりました。」「とても新鮮で楽しい時間でした。作品は理解できない部分もあったのですが迫力やエネルギーを感じることはできました。参加された方たちの視点も色々違っていて、参考になりました。」といった感想をいただきました。自分が作品から感じた・考えたことを誰かと共有し、他者の視点を知ること、あるいは専門家の知見を取り入れることで、自分の考えが深まり作品を深く味わっていただけたようです。

チケットぴあでは、これからもプレミアム会員に向けた「ART MEETS YOU!」のイベントを開催していきますので、ぜひ今後のイベントに参加してみてください。会員同士の交流も含め、新しい感性の扉が開かれることと思います!

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