もっと知りたい!という気持ちを後押しするプログラム「ART MEETS YOU!」の11月のプログラムは、演劇の世界などで試みられているコンテンポラリーダンサーによる「演出」に着目。実際に演劇作品の振付経験のある振付家・コンテンポラリーダンサーと一緒に、舞台の作り手側の視点で「表現」がうまれる場に立ち会うプログラムを行いました。
今回のプログラムを担当するのは、古家優里氏率いるコンテンポラリーダンスカンパニー「プロジェクト大山」のみなさん。プログラムは古家氏の挨拶と共に、ダンサーに振付をしてゆくデモンストレーションの見学から始まりました。
まずは以前、古家氏が振付を手がけた作品の一部を見学。振付の狙いなども伺いました。プログラム参加者の大半が、あまりコンテンポラリーダンスに触れたことがなかったようで、目の前で行なわれている前衛的な身体表現をどう受け止めて良いものかモヤモヤされている方も。
続いてのデモンストレーションは、誰もがイメージできるシーンを題材にと、「ロミオとジュリエットのバルコニーのシーン」に振りを付ける様子を見学。ロミオ役とジュリエット役がお互いを想う気持ちを語り合う中で、複数のダンサーが二人の恋心を代弁するかのように動き、これから待ち受ける悲劇を予兆するかのような不穏な空気感を、身体を使って生み出します。セリフだけでは伝わりきらない、2人の心情や場の空気が、身体表現が加わったことで、浮き上がってきたと感じることができました。
2つのデモンストレーションをじっくり見学した後は、参加者のみなさんからプロジェクト大山への質問タイム。古家氏やダンサーの方へ、疑問や思ったことをフリートーク的にぶつけてみました。「デモンストレーションではどういう意図で振付をしたのか?」「振付の際、ダンサーさんへ具体的にどのような指示をしているのか?」「ダンサーさんは振付を受けた時、どういう解釈をして身体表現につなげたのか?」といった、今見たデモンストレーションについての疑問から、「そもそもどうしてコンテンポラリーダンサーになったのか?」など、沢山の質問が出てきました。
古家氏によると、デモンストレーションでは「空気をつくる」ことを念頭に振付をしていたとのことでした。ロミオとジュリエットのシーンでは、ロミオの溢れる気持ちを空間を通して表現しようと思っていたそうです。
また、ダンサーへどのような振付の指示がなされているかについては、例えば「重たい壁のように」といった抽象的な表現で伝えているとのこと。ダンサーは感性と経験によってそれぞれの「重たい壁らしさ」を表現しているのだそう。ただし複数のダンサーで構成する場合は、「重たい壁」と指示を受けても人によって受け取り方は異なるため、ダンサー同士でチャンネルを合わせていくことが大切で、合わせ方次第でダンスそのものも変わってくるのだとも話していました。
フリートークを通し振付やダンスの意図を直接聞き出すことが出来て、みなさんのコンテンポラリーダンスに対する理解や見方が深まったようです。
質問タイムの後は、参加者の皆さんに『ダンサー』として、先ほどデモンストレーションで観た「ロミオとジュリエットのバルコニーシーン」にチャレンジいただきました。
まず手始めにダンサー間でチャンネルを合わせるとはどのようなことなのかを、ぶつからないように歩くことや、一列に並んで壁をつくって歩くことなどで体験いただきました。次に、「黒板を爪で引っ掻いた時」と「ホイップクリームを指ですくい上げた時」の2つの動きを試すことで、「体の動きで空気を演出できる」ことを実感いただけたようです。
いよいよ「ロミオとジュリエットのバルコニーのシーン」の振付を踊ります。ダンサーとなった参加者は、スピードの遅い動きで不穏な空気を醸し出し、ロミオの心から花を摘み取って次のダンサーに受け渡し、複数のダンサーを介してジュリエットに届けます。花が届いたところでその場で倒れ込み幕が閉まります。
デモンストレーションの見学や質問タイムによって、ダンスへの理解の深化がなされたようで、みなさんすんなりと表現されていました。
2つのグループに分けての実演だったのですが、それぞれに異なる「空気」を作り出していました。1つ目のグループでは、ゆっくりとした小さな動きで、ロミオの繊細で若々しい恋心が表現されていました。2つ目のグループでは、スピード感のある大きな動きで、ロミオの燃えるような情熱的な恋心が表現されていました。2つのグループの表現の違いにプロジェクト大山のメンバーも大変な驚きで、会場は大盛り上がりでした。
参加者からは「とても良い刺激になりました。全く知らない所からどこまで楽しめるだろうと思っていたけど楽しかったです!」や、「座談会で少しでもコンテンポラリーダンスのことやお互いを感じることができたので体験も思ったより入り込んで身体を合わせて動かすことができました。」や、「コンテンポラリーダンスをつくる過程の一部を見ることができて今後の観方が変わる気がしました。」といった感想が寄せられました。今までよく分からなかったり、故に触れてこなかった分野だったようですが、間近で見て、表現者の考えを直接聞き、また自分が表現してみることで、コンテンポラリーダンスの楽しみ方を大いに深めていただけたようです。
チケットぴあでは、これからもプレミアム会員に向けた「ART MEETS YOU!」のイベントを開催していきますので、ぜひ今後のイベントに参加してみてください。会員同士の交流も含め、新しい感性の扉が開かれることと思います!