Report

トークイベント

「東京かわら版編集長が見た、十人十色の落語の愉しみ」
レポート

演芸専門誌の編集長から直接お話を伺うトークイベントを開催しました。今までになかった気づきや落語の愉しみ方を感じていただき大いに盛り上がった当日の様子を詳細レポート。
開催日:2017年7月5日(水)19:30~21:30
場所:3rd_PAGE ISETAN MITSUKOSHI青山サロン
講師:東京かわら版編集長 佐藤友美
モデレーター:浅野裕子(ぴあ株式会社)

講師プロフィール:
佐藤友美(さとうともみ)
東京生まれ。浅草の国際劇場の隣で旅館を営んでいた祖母の影響で、幼少時より歌舞伎、相撲、日本舞踊、邦楽などの古典芸能に親しむ。明治大学文学部仏文学専攻を卒業後、愛読していた日本で唯一の落語専門誌『東京かわら版』編集部にアルバイト入社。後に社員になり、'04年より編集長。趣味は現代美術とコンテンポラリーダンス鑑賞。得意分野は落語と歌舞伎と現代美術。

落語って今、流行っているの?

――本日のトークセッションでは、日本で唯一の演芸専門誌「東京かわら版」の編集長、佐藤友美さんをお迎えして、様々な角度から落語の楽しみ方をお話し頂けたらと思います。今、落語ブームといわれていますが実際のところはいかがでしょうか?

佐藤 落語家の方へ「最近流行っていますね。」と話を振ると、「これはブームなんかじゃない!」と否定されます。確かに東京かわら版の売り上げが伸びているわけでもなく、横ばいです。ただ、テレビ局や雑誌から落語特集を組みたいから「若手のイケメン落語家を紹介してください」と連絡が来ることが多くなりました(笑)。
取材をよく受けると「二ツ目ブーム」という言葉が結構出ています。真打になるまでの応援する楽しみもありますし、二ツ目の方は小さい会場でやることも多いので、その後居酒屋で打ち上げなどで一緒になったりもするので、近い距離に演者さんがいるので芸談などが間近で聴けて楽しいところがあるのかもしれません。

そもそも落語家は何人くらいいる?

佐藤 東西寄席演芸家名鑑には「プロ」と呼ばれている東西の落語家が掲載されています。名鑑によりますと1,086名載っていますが、このうち東京だけだと545人の落語家がいらっしゃいます。(※2015年時点)

――東京だけでそんなにいらっしゃるんですね!ちなみにみなさん生活していけているのですか?

佐藤 入門して、前座、二ツ目は師匠の家に行けばご飯は食べさせてもらえます。また、バンドや演劇界から落語会へ転身した人から「チケットノルマ」というものが無いことに驚きの声を聞くことがあります。今は入門者が多いので、前座の前に「見習い」という期間があります。入門してから1年くらいは、落語協会などに登録ができず、寄席の楽屋入りもできません。師匠のかばん持ちみたいな立ち回りをして、そこで着物のたたみ方やお茶の入れ方などを学びます。楽屋入りをしてからは毎日寄席に出て、開口一番を務めたり、メクリをめくったり、その日のネタ帳をつけたりします。

昔と比べ落語会も多様化

佐藤 聞く方も、なりたい方も、比例して増えていていますね。私が落語を見始めた四半世紀前は、高齢の男性客がほとんどでしたが、最近は若年層や女性客が増えています。若い人しかいない会だったり、女性だけの会だったりと、落語会自体も細分化されてきていると感じます。
「いいな」と思う落語家を見つけて見に行くと、ゲストで他の落語家が出てきたり、寄席に行くと色々な落語家が出てきたりするので、好きな落語家がどんどん増えていきました。私も東京かわら版に蛍光ペンでねちねちチェックしていました(笑)。

古典落語と新作落語の違いって?

――次は、映像で落語を幾つか見ていきたいと思います。まずは新作落語を見ていただくのですが、新作と古典の違いはなんでしょうか?

佐藤 「古典落語も昔はすべて新作落語だった」とはよく言われることで、定義も難しいのですが、作った新作落語を複数の演者がやっていくと、落語という定義で残っていくのだと思います。その人が亡くなってしまっても誰かがやり継いでいくことが必要だと思います。明治時代から昭和30年代頃に作られた新作も、今では古典と呼ばれるようになってきているものもあります。もちろん今生きている人が作ってやっているものはすべて新作落語です。

新作落語をいくつか映像で見比べてみた

――まずは春風亭昇太師匠の「花粉寿司」をご覧いただきます。

佐藤 映像では昇太師匠が動き回っていますが、落語中に動き回るようになったのは、三遊亭円丈師匠以降かもしれません。 古典も新作も人間の感情とか喜怒哀楽が共通してあって、それは普遍的なものだと思いますが、それに現代のテーマが加味されることが新作落語の楽しみだと思います。 昇太師匠は、ぴあの落語ムック本「落語ワンダーランド」でインタビューをさせて頂きましたが、つくづく笑いのプロだなと感じました。「笑点」でのお姿は一端でしかありませんでした。
ちなみに、この本で柳家小三治師匠もインタビューを受けてくださり、その際「たまたま出会った人だけが迷い込み、この落語という桃源郷にぶつかる」「人を落語好きにさせようだなんて、考えちゃいけない」と、迷い込んだ人だけがこっそり楽しむ趣味なんだと仰っていて、とても印象深い取材でした。

――続いては、春風亭百栄師匠の「キッス研究会」です。これはモテない男子が集って、女性の唇を奪うことを練習するサークルを描いた作品です。

佐藤 このように新作は無限で森羅万象様々な題材があります。ちなみに百栄師匠は古典も改作もやりますが「リアクションの家元」「最後のジュゲム」などもオススメです。

昭和の名人芸!

――次は古典落語で昭和の名人をご覧いただきます。私自身、昭和の名人の落語を聞いた時に、今の語り口のテンポが合わずにつまづいてしまった経験があるのですが、どういう感覚で聞いたらいいのでしょうか?

佐藤 私も最初はピンとはこなかったものもありました。ただ、たくさん見ていく中で、良さが実感できるものなのかもしれないと思います。色々聞いたり、何回も聞いてみるとわかることがあると思います。 特に録音されて販売されている故人の落語家に関しては、支持されているだけの理由があると思います。

――ご覧いただく古典落語は、古今亭志ん朝師匠の「愛宕山」です。

佐藤 志ん朝師匠は華やかさとテンポで酔わせてくれる落語家です。60歳で亡くなってしまいましたが、生きていたらその後どのように芸が変わっていったのか見たかったです。

落語は自由。題材は幅広い!

――有名なマンガ「ガラスの仮面」を落語に置き換えた三遊亭白鳥師匠を紹介します。ガラスの仮面は長編マンガですが、「落語の仮面」もシリーズ展開されています。

佐藤 白鳥師匠はもともと、栗本薫さんなどの長編ストーリーが好きで、「任侠流山動物園」など作る作品はみんなシリーズ化すると言っていいほど、長編好きです。すごくしっかり物語を作っていて、次の古典落語になるものを作っている師匠だと思います。

――映画を落語化している落語家もいますよね。

佐藤 立川志らく師匠のシネマ落語は、必ず古典落語をベースにしていて、「E.T」だと「子別れ」が下敷きとなっています。シーンも再現されていています。「天国から来たチャンピオン」は「たがや」、「タクシードライバー」が「反対俥」だったり。普通に見ても楽しいのですが、両方好きだと面白さは倍増です。

異ジャンルとのコラボも盛ん

――他にはミュージカルが落語になったものもありますね。

佐藤 元劇団四季にいた三遊亭究斗師匠ですね。レミゼラブルやオペラ座の怪人などを落語の世界で展開します。落語って歌舞伎になったり、宝塚で演劇になったりとか、割と何にでも移植しやすい芸能なのかもしれません。

――また柳家喬太郎師匠などは、映画にご出演されていたり、その映画が舞台化され、舞台でも主演されたりと、演劇界からのラブコールが多いですよね。ちなみに異ジャンルコラボのような動きは昔からあったのですか?

佐藤 あまりなかったと思います。推測ですが昔は「そんなことやってけしからん。」という人たちがたくさんいたのではないでしょうか。落語とはこういうものだ、という守っていくべきものが厳格にあったのですが、上の世代がいなくなっていくなかで枷が外れたのだと思います。今は若手も伸び伸びやっているように思います。

落語とジャズ

――みなさまのお手元に、東京かわら版の巻頭エセーをコピーしたものを、いくつかご用意いたしました。巻頭エセーは落語好きの著名人に、落語について自由に語っていただくコーナーです。
日野皓正さんや渡辺香津美さんといったジャズミュージシャンが寄稿されていますが、ジャズと落語がセットで語られることは多いのでしょうか?

佐藤 ジャズミュージシャンと落語家、お互いが好きってことはありますね。代表的なのは林家正蔵師匠がジャズに精通されています。

――お互いに惹かれる理由はなんでしょう?

佐藤 やっぱりリズムと間かな、と思います。いい落語は大体リズムがいいですよね。

――日野皓正さんはジャズと落語の共通点として、イントロを弾く時は落語の枕のようなもので、弾きながらその時のお客さんの空気を感じて、お客さんとの対話の中でアレンジとかを決めていくということを仰っていますね。 また、落語家と共演するような機会があったようですね。

佐藤 昔はキャバレーなどでの仕事は落語家にとって貴重な収入の一部でした。司会をやったり小噺をしたりと、そういう中でジャズミュージシャンと交流が増えていったところもあるのでしょうね。

落語家に一席お願いしたい!

――最近では様々な落語の楽しみ方があるようで、普通に聞きに行く以外で、自宅に落語家を招いて話をしてもらうという方法もあるそうですね。自宅で落語会を行いたい場合、どういう手順を踏めばいいのでしょうか?

佐藤 自宅でやりたい場合は、ちゃんとご自身で気に入った落語家に直接交渉するのが一番いいと思います。謝礼は落語家によると思いますが、はっきりと一席十万円からと言っている方もいらっしゃいますし、間に芸能プロダクションなどが入って高くなっている方もいらっしゃいますし、様々です。ただ、落語家も人間、情で動くところもありますので、いつも見に来ているお客さんから頼まれたら引き受けてくれると思います。また、最初に予算を伝えること。入場料とキャパでどれくらいの収入があるかは、落語家は聞いたらすぐにわかるので、そんなにふっかけるようなことはしないと思います。 演者さんと信頼関係をある程度築けたら頼みやすいと思います。

――自宅で招くまではしなくてもよいけれど、落語家と交流したい方は、食事会がセットされた落語会に行くようですね。 また、落語を自分でやってみたい人向けの講座、新作落語を作る会などもあるようです。

直近のオススメイベント

――東京かわら版には寄席の割引券がついているんですね。

佐藤 はい。2か所に持っていくと元が取れます(笑)!どうぞご利用ください。
そして、秋の落語会は盛り上がりますよ!
まず、9月3日(日)に落語協会の感謝祭である「謝楽祭」が湯島天満宮で開催されます。芸人さんが湯島天満宮の境内で出店したり、いろいろな落語家がサインをしてくれたりして、ファン感謝デーみたいで楽しい祭りになります。
そして9月24日(日)には「芸協らくごまつり」があります。新宿からすぐの芸能花伝舎で行われ、これは桂歌丸会長の落語芸術協会という団体のお祭りです。
9月~11月には新真打の昇進披露や襲名公演が続きます。披露公演は、お祝いムードが漂って、素敵な雰囲気で楽しいです。
東京かわら版を持って、様々な落語会に出かけてみてくださいね。

この後も佐藤さんとの交流の時間を設けて、ご参加頂いた方は佐藤さんとの落語トークを楽しまれていました。 今回、落語についての専門家に詳しくお話を伺うことで、幅広い愉しみ方を探ってきました。このようなトークショー型のイベントは今後も開催していきますのでART MEETS YOU!のページをチェックしてみてくださいね。

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