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トークイベント

「時代を越えて受け継がれる古典芸能の伝え方のヒミツ −落語の継承−」レポート

現役で活躍している落語家から「落語の受け継がれ方」について直接お話を伺うイベントを開催。落語を2席と、トークでは落語家になるまでの経緯や木久扇師匠の教えまで、今までになかった気づきや落語の愉しみ方を感じていただきました。大いに盛り上がった当日の様子をレポートします。
開催日:2017年12月8日(金)19:30~21:30
会場:神谷町光明寺
モデレーター:三浦祥敬

ゲストプロフィール:
落語家 林家けい木(はやしや けいき)
埼玉県小川町出身、1991年4月25日生まれ。幼い頃からお笑いや映画に興味を持ち、高校卒業時に林家木久扇に入門。古典落語をはじめ新作、創作、怪談など高座で鍛えた話術をベースに執筆、レポーター、モデル、ラップなど幅広い活動を展開。

イベント幕開けは、星空の下で、屋台のおでん達がざわめく、この時期にぴったりの噺「ぐつぐつ」を披露。会場が笑いに包まれた一体感の中、トークがスタートです。

幼き日の師匠との出会いで、落語界の門を叩くことに

「ぐつぐつ」で会場を笑わせるけい木さん

――落語家になった経緯は?

けい木 小学校3年の時に、地元であった「木久蔵・小遊三二人会」に訪れました。そこでウチの師匠、当時の木久蔵に「おじさん、弟子にしてよ」と言ったところ、その後師匠から「面白いことをいっぱい勉強してください」というコメントとともに、自伝本が送られてきました。

高校生になり、再び師匠が地元を訪れた際に再会。小学生の時の話をしたところ、その話に興味を持ってくれて、師匠と文通のようなやり取りをする仲になりました。高校2年の時、師匠から電話で「噺家になる気ある?」と直接誘って頂いたのをきっかけに、弟子入り志願をしました。

前座と二ツ目の立場は雲泥の違い

――入門してからは、どのようなことをするのですか?

けい木 入門してから半年くらいは「見習い」となります。
落語家の世界は「見習い」「前座」「二ツ目」「真打」という階級に分かれています。
前座見習いは、前座として働くための礼儀作法を学びます。例えば、太鼓の叩き方、着物のたたみ方、着付けの仕方を兄弟子から教わります。
ウチの師匠のルーティンでいくと、朝8時に師匠のところへ行き、掃除や身の回りのお手伝いをします。10時半くらいに朝食を戴いて、用がなければ解散です。見習いのうちは早く解散となります。これが「前座」になると、寄席に行くことになります。

前座になる時、芸名を頂きます。
先輩方からの扱われ方は、見習いも前座も基本的には同じです。前座は24時間365日、師匠のための時間です。修行の身ですから、その間は師匠の時間なのです。

前座になると「楽屋働き」をすることになりますが、これは寄席の運営全般が仕事です。
例えば、お茶出したり、座布団をひっくりかえしたり、めくりをめくったり。奇術師の道具を用意したり、出囃子の太鼓を叩いたりします。前座の楽屋働きは、大体1日4、5時間。太鼓の叩き方や、風呂敷の包み方、着物のたたみ方など、人によって作法が全然違います。例えば、1日3回出すお茶の出し方一つとっても、1杯目お茶、2杯目白湯、3杯目冷たい麦茶が良い、という方もいます。

また、前座の中にも階級があり、古株は「立前座」という全体の監督役。そして「太鼓判」という太鼓を叩く役。一番大変なのは「入りたての前座」です。

そんな前座修行を5年半やり、今は「二ツ目」という階級にいます。
人権が与えられまして(笑)一応独り立ちしている身分、ということになります。365日師匠のための時間だったものが、自分のために使うことが許されます。
見栄えも全然違っていて、紋付羽織袴をつけられるのが二ツ目以上です。ですから、前座と二ツ目には雲泥の違いがあります。

――今までに師匠から教わったというエピソードが全然でてきていないのですが?

けい木 全然でないですね(笑)。僕は古典落語を44席持ってますが、師匠から教わったのは2席だけです。
柳家三三師匠は、師匠の小三治師匠から、1席も教わっていないそうです。他の兄弟子や、よその先輩から教わったって聞いたことがあります。

落語の世界では、他の一門の師匠から教わったりすることがありますね。
ウチの師匠からは、「生き方」を教えてもらっているなと感じています。例えば、二ツ目になってからは拘束時間も減り、自分の時間になるので「いろいろな人のところへ顔を出しなさい。顔を出すことで、人とのつながりが生まれて、仕事に結びつくことがあるから」ということを教えてもらったことが印象的でした。さらに「行くなら食事をすると、仲がより深まる」など具体的なことまで教えて頂きましたね。

前座修行で落語を覚えた

トーク中のけい木さんとモデレーターの三浦さん

――富山の鍛冶職人の修行は、音を聞くだけで3年。それから10年くらいは叩き方を教えられるわけでもなく、見よう見まねで作るそうです。10年目から13年目くらいで師匠に認められるそうですが、「教えているようで教えていない」というような修行のようです。

けい木 落語もそれに近いものがあると思います。 前座修行では、高座返しがあるので、出演者が変わる時に舞台袖にいないといけないのですが、そこで僕は落語を覚えました。働いている最中にも、高座からの声が聞こえてくるのですが、それを「捨て耳」と僕らは呼んでいます。「間」であったり「緩急」であったり「リズム」がわかってくるんです。 その上、先輩のやっているネタは何だろうと、知ることができたりもします。

また、僕らの継承のスタイルは1対1です。例えば教えてもらう際、先輩が1対1で本気でやってくださるんです。それをICレコーダーで録って、自分でシナリオを書き起こして、覚えて、先輩に見てもらいます。そこでOKが出れば、お客様の前で話すことができます。「こういうところがダメだからもう一回来なさい」なんてこともあるわけです。

――「やっていいよ」というスタンスも、教えてくれる人次第なんですね?

けい木 中にはセリフが入っていれば良いという方もいれば、重箱の隅を突くように細かく見る先輩もいます。

――本日披露していただいた演目「ぐつぐつ」では、共感を呼ぶ情景がありました。

けい木 「ぐつぐつ」は柳家小ゑん師匠が、30年くらい前に作った新作落語です。
ぐつぐつに関して言うと、誕生から僕が教わるまでの間に様々試行錯誤が繰り返され、完璧に出来上がっている作品なんです。今日演じた噺は、ほとんどが最初から入っているセリフで、自分の言葉を入れたのは3つほどです。共感性については、落語全体に言えることだと思います。古典も新作も、根幹は人間の感情だったり、人のおかしさだったり、人間らしさ。そこなんじゃないかと思いますね。

~参加されたお客様からの質問~

Q この先輩の教え方がうまい、という方がいたら教えてください。

けい木 まず、めちゃめちゃ売れている人はカラーが強すぎて教わりに行けないんです。割とプレーンな状態の話を教わって、自分で脚色したほうが良いので、「稽古台」と言われる先輩方がいます。若手の方も重鎮の方も、みなさん丁寧に教えてくれますね。入ったばかりの人間でも師匠方が直接教えてくれるのが、落語界の面白いところだと思います。

イベントの最後には「幾世餅」。一途な思いにほろり。
Q 修行についての質問ですが、噺さえできれば落語家になれるのですか? 修行の中に意味があると思うのですが、いかがですか?

けい木 自称素人落語家の方もいますけど、我々から言わせれば素人は落語家ではありません。修行していない者は落語家を名乗れないと思います。稽古の中には「呼吸」であったりとか、本とかCDなどでは読み取れない「深み」があるのだと思います。

それと、ある意味「取材」だと思います。前座時代の失敗談も含めて、経験が糧になっています。それが土台になると思うのです。土台がしっかりしていないと、落語家としてはダメだと思いますね。その違いだと思いますね。

また、楽屋働きが大切だと思います。お客様の前に出て、その日の男女比だったり、年齢層を見て、どういう噺がいいのかなとか、そういうことを瞬時に芸人が判断するわけです。 それを判断できるようになるには、楽屋での師匠や先輩など、身内に対しての「気働き」と呼ばれる、おもてなしの仕事が大切だと思います。師匠が鼻をかんだらゴミ箱をスッと出すとか、お茶が飲みたそうなタイミングでお茶を差し出す。相手をよく見て、行動することが気働きです。

このような、おもてなし精神のようなものを磨くこと、これが修行の意味なんだと思います。芸人500人いたら500通りの答えがあるとは思いますが(笑)


トークの内容をグラフィックレコーディングで記録

トーク中には、ポイントになりそうな発言をライブで記録にとっていきました。話している内容がリアルタイムでイラストや図によってわかりやすく表現されていくと、話の流れがつかみやすくなったと参加者の皆様から好評でした。

トークの後、もう一席「幾世餅」を披露。今では存在しない吉原の世界。「自分は知らないのに、あたかも知っているように噺をする。この矛盾が継承の1つのパーツなのかもしれない」と、今回この噺を選んでいただきました。けい木さんご自身は見たことの無い世界ですが、本や映画などの資料から勉強をしているのだそう。そんなお噺を楽しんでイベントは終了となりました。

今回、落語家に直にお話を伺うことで、継承についてのリアルなお話を聞く事ができました。このようなトークショー型のイベントは今後も開催していきますのでART MEETS YOU!のページをチェックしてみてくださいね。

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