アメリカのSF作家ダニエル・キイスが1959年に発表して以来、今も世界中で愛され続けるベストセラー『アルジャーノンに花束を』。パン屋で働く知的障害者のチャーリイ・ゴードンが脳の手術を受けて高い知能を持つようになるが、その現実が彼にもたらしたさまざまな出来事を、繊細かつリアリズム豊かに描き出した名作だ。今回、キャラメルボックスでは初めての舞台化となる本作で、チャーリイを演じるのはダブルキャストの多田直人と阿部丈二。共に2004年入団ながら持ち味が正反対ともいえる2人に、本作への意気込みを聞いた。
出演が決まった後に原作を読んだという多田は、「これは大変なことになった、と後から緊張しました」と話す。「ハンディキャップをもつ人物を演じるのも初めてなので、劇団員みんなで、知的障害の方が働くパン屋さんにも行ってお話をうかがってきました。高くなった知能と裏腹に、精神的な成長が追いつかないチャーリイという人間が理解できるような気がしました。今は初日を前に、チャーリイの精神のゆれを演じるのがやっと楽しくなってきたかな、というところです」
一方の阿部は、元々原作のファンだったそう。「だから出演が決まった時は嬉しかったです。それに、よくチャーリイを演じるのは難しいのでは?と言われるんですが、今はあまりそうは思っていなくて。自分の中の一部分は人より優れているけれど、他の一部分は著しく劣っているというアンバランスさは、誰でも覚えがあるはず。だからチャーリイという役も、その感覚を膨らませて、一瞬一瞬を大切に生きればいいんじゃないかと思っているんです」
原作の日本語版(小尾芙佐訳)は、チャーリイの知能が高まるにつれ、あるいは低下するに従って使用する単語や助詞の使い方が変化するのも印象的。脚本・演出の成井豊と真柴あずきは舞台化にあたり、"言葉"による効果にも心を配ったという。特に成井は元高校教師という経歴をもつだけに、「チャーリイに学習を勧める知的障害成人センターの教師アリスの感情は"教える喜び"に満ちているし、その描写は成井さんならではだと思う」と多田。阿部も「原作であまり描かれていない登場人物も、血肉をもった役者が演じることで違う印象を受けるのでは」と舞台化の意味を語ってくれた。インタビュー中、物静かなたたずまいで語る多田と、明るい笑顔でまっすぐにこちらを見つめる阿部。ダブルキャストならではの、異なるチャーリイ像に期待が高まる。
▼キャラメルボックス『アルジャーノンに花束を』
7月21日(土) ~ 8月12日(日) サンシャイン劇場(東京都)
8月16日(木) ~ 24日(金) 新神戸オリエンタル劇場(兵庫県)
[原案・原作]ダニエル・キイス [翻訳]小尾芙佐 [劇作・脚本・演出]成井豊+真柴あずき
[出演]阿部丈二・多田直人(Wキャスト) / 岡内美喜子 ・渡邊安理(Wキャスト) / 坂口理恵 / 大内厚雄 / 畑中智行 / 三浦剛 / 筒井俊作 / 左東広之 / 鍛治本大樹 / 林貴子 / 市川草太 / 小林春世 / 笹川亜矢奈 / 鈴木秀明
■チケット発売中
(左)多田直人・(右)阿部丈二
阿部丈二
多田直人