この秋の「サントリーホール フェスティバル」のメインを飾る「サントリーホール スペシャルステージ」に、ギドン・クレーメルが登場! 同世代の演奏家のなかでもきわめて独創性に富み、その際立った音楽性と楽曲の解釈で、トップ・ヴァイオリニストとして活躍するクレーメル。 彼が熱望した共演者たちとともに、クレーメルの世界をお届けする。
クレーメルは現代を生きるカリスマティックな音楽家である。 クレーメルがヒットチャートのクラシック部門で上位を占める売れ筋だからではない。 経済規模からいえば慎ましいこの領域で、それを誇ることにはどこか虚しさがともなう。 クレーメルは、かつてカザルスやロストロポーヴィチが発していたオーラを継承したという意味でカリスマティックなのだ。
若き日のクレーメルは「東」の逸材だった。圧倒的なテクニックで、いくぶん奇妙なレパートリーを紹介する青年。 「西」の聴衆は、ある優越感をもってこの違和感を消費していたのかもしれない。 しかし、この違和感は、「東」や「西」という表現がセピア色を発するようになった今でも、クレーメルとともにある。
あまりに周囲にあふれているがゆえに、もはや誰も疑問にすら思わない芸術家のスターシステム。 これに否応なく巻き込まれながらも懸命に抗おうとするクレーメルの姿勢が、われわれの平穏な日常に刺を立てるからだ。 クレーメルの美しくもあり耳障りでもある音色に触れるとき、芸術とは何だったのか、いま何であり、何になりえるか、忘れかけていた問いがよみがえる。
今回の日本公演でも、クレーメルは彼の同志たちとともに、心地よさに終わらない、強烈な問いかけをもった作品を演奏する。 モーツァルト、ベートーヴェン、シューマン、フランク、チャイコフスキー。 これら18、19世紀の「メジャーな」作曲家が取り上げられる場合でも、プログラミングされるのは各々の晩年の作品が中心であることは印象的だ。 無垢ではなく痛みのある喜び、切実なる喜び。それは他の作曲家の作品でも同じこと。 バッハ、イザイ、バルトーク、ショスタコーヴィチそして、グバイドゥーリナ。 それらのメッセージは、誰もが気づかないふりをして眠らせている心の一部に強く訴えかけてくる。
藤田 茂(ふじた しげる・音楽学)
10月31日(水) 19:00開演
〈ギドン・クレーメル&クレメラータ・バルティカ〉
[プログラム]
シューマン:チェロ協奏曲 イ短調 op.129
(R.ケーリングによるヴァイオリン、弦楽合奏とティンパニ編曲版)
モーツァルト:ピアノ協奏曲 イ長調 K488
ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲ニ長調 op.61
11月3日(土・祝) 14:00開演
〈ギドン・クレーメル&クレメラータ・バルティカ〉
[プログラム]
「グレン・グールドへのオマージュ」—J.S.バッハの作品による現代作曲家作品集
ミェチスワフ・ヴァインベルク:交響曲第10番イ短調 op.98
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第14番 嬰ハ短調 op.131
(クレーメル&キーシンによる弦楽合奏編曲版)
※出演者の希望により、一部曲目・曲順の変更をしております。何卒ご了承下さい。
11月4日(日) 17:00開演
[プログラム]
フランク:協奏的ピアノ三重奏曲 嬰ヘ短調 Op.1-1
フランク:ヴァイオリン・ソナタ イ長調
チャイコフスキー:ピアノ三重奏曲イ短調op.50「ある偉大な芸術家の想い出のために」
© Sasha Gusov / ECM Records
ヴァイオリン:ギドン・クレーメルGidon Kremer, violin
7歳でリガの音楽学校に入学し、16歳で早くもソヴィエト連邦内の音楽コンクールで優勝。 のちにモスクワ音楽院では大ヴァイオリニスト、ダヴィッド・オイストラフに師事。 1967年、22歳でエリーザベト王妃国際音楽コンクール第3位。69年パガニーニ国際コンクール優勝。 70年にはチャイコフスキー国際コンクールでも優勝。 ソヴィエト連邦内のツアーを行った後、75年にドイツで初めてのコンサートを開き、西側ヨーロッパでの鮮烈なデビューを飾った。 以降西側での名声が一気に高まり、翌年ザルツブルク音楽祭に招かれた。77年にニューヨークへ進出、アメリカでも名声を博した。 97年にはバルト三国の若い演奏家20数名を集め、永年の夢であった室内アンサンブル『クレメラータ・バルティカ』を結成、ヨーロッパおよびアメリカ・ツアーを敢行する。 その功績により2001年ユネスコ国際音楽賞を受賞、02年にはグラミー賞最優秀室内楽演奏賞を受賞するなど、旺盛な活動は高い評価を得ている。 現在の使用楽器は、1641年製ニコロ・アマティ。
チェロ:ギードレ・ディルヴァナウスカイテGiedre Dirvanauskaite, cello
リトアニア音楽アカデミーで学び、数多くの国際コンクールに入賞。 ロストロポーヴィチ、ゲリンガス、クレーメル、ハーゲンなどのマスタークラスで学んだ後、ロッケンハウス音楽祭に招かれ、 主宰者であるクレーメルはもとよりゲリンガスやペルガメンシコフなどとアンサンブルを行う。 その後リトアニア国立交響楽団、リトアニア室内管弦楽団、クレメラータ・バルティカなどでソリストとして活躍した後、クレメラータ・バルティカに入団し現在に至る。 また、クレメラティーニ弦楽四重奏団(クレーメル主宰の四重奏団)のメンバー。
© Esther Haase
ピアノ:カティア・ブニアティシヴィリKhatia Buniatishvili, piano
トビリシ国立音楽院(グルジア)で学ぶ。6歳でリサイタル、オーケストラ共演、12歳から本格的な演奏活動を行い、各地の音楽祭に招かれる。 2003年ホロヴィッツ国際コンクールで特別賞受賞。2008年にはカーネギーホールにデビュー。 同年アルトゥール・ルービンシュタイン国際ピアノコンクール第3位ならびに最優秀ショパン演奏賞、聴衆賞を受賞。 ソニークラシカルよりオール・リスト・アルバムでCDデビュー。 P. ヤルヴィ指揮ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団と共演のショパンのピアノ協奏曲第2番および、ショパン作品集が今夏発売予定となっている。
© Christian Lutz
室内アンサンブル:クレメラータ・バルティカKremerata Baltica, chamber orchestra
1997年にギドン・クレーメル(バルト三国のひとつ、ラトビア生まれ)によって結成。
今では最も卓越したヨーロッパの室内アンサンブルのひとつとなっている。
クレーメルは、このアンサンブルとの仕事を通じ、自らの幅広い音楽経験をバルト三国の若手の演奏家たちに伝え、
それと同時にバルト諸国で新たに復興した独自の音楽の息吹をさらに促進し、鼓舞していくよう努力を続けている。
芸術監督ギドン・クレーメルのほか、ヨーヨー・マ、ウラディーミル・アシュケナージ、ザビーネ・マイヤー、
エフゲニー・キーシン、ミハイル・プレトニョフ、マリオ・ブルネロなどの一流アーティストと共演している。
www.kremerata-baltica.com/