いまだ衰えぬイケメンブーム。演劇界でも、いわゆる若手イケメンたちを集めた舞台が毎日のように上演されているが、芸だけでなく、ときにはその人間性をもあらわになってしまう舞台は、彼らの本質を見抜く早道かも。ハンサムフェイスやキラキラしたオーラを生で楽しむのももちろんいいが、顔も良ければ頭もイイ(?)、生で観て損のないイケメンが知りたい!
私あまりイケメンに興味がなくて(苦笑)
【武田】 本日はよろしくお願いいたします。進行的にはまずそれぞれのイケメン観を知る上でも皆さんの得意分野といいますか(笑)、をお聞きしたいと思うのですが。
【中井】 私は
『テニミュ』(=ミュージカル『テニスの王子様』)をよく観ているので、それで皆さんに「若い男の子が好きなんですね」って言われるんですけど(笑)、テニミュが好きなだけで、イケメン全般に詳しいわけじゃないんですよ。でもテニミュ出身者の広がりで、幅広い作品を観ている方だとは思います。
【武田】 徳永さんの、演劇ジャーナリストとしての視点も気になります。
【徳永】 こういう席に呼んでいただいてアレなんですけど、私イケメンに興味がないんです……。ただ演劇界全体の動向の中でそういう流れがあることは、もちろん興味を持たざるを得ないので。それと、以前「演劇男子。」(ぴあMOOK)でもお話させていただいたんですが、最近の小劇場界は役者さんもそうですが、特に作・演出の男子がみんなすごくルックスが良くて。
【釣木】 ですよね!
【徳永】 つまりモテる人がどこで活躍するかはその業界の未来度を測るひとつの指針だと思っていて……って、これ話すと長くなるんですけど。
【武田】じゃ全体的に温まった頃にじっくりお話いただきましょうか。釣木さんは?
【釣木】 私も実はイケメンにそんなに詳しくなくて。でも取材を通して彼らに会うと、「あ、イケメンもこんなこと考えているんだ」って風に思うんですよね(笑)。
【徳永】 わかる!
【中井】 やっぱり分かれるんですよね、ちゃんと考えてる子と何も考えてない子と(笑)。
【釣木】 若くてこれだけカッコいいのに、こんなにちゃんと考えているんだなって、“イケメン”というものを思い直すというか、こちらの無知を恥じるというようなことが起きて。
【徳永】 イケメンと呼ばれる役者さんの多くはインタビューしても手ごたえがあまりないというか、予想範囲内のことが返ってくることが多いんですけど、ある時点から、もっと話を聞きたいってインタビュアーとして惹かれる人たちが出てきました。顔が良くてモノ考えてれば言うことありませんよね?(笑)
【中井】 “鬼に金棒”ってヤツですよね。具体的にはどういう人が?
【釣木】 たとえば
中村倫也くんとか
賀来賢人くんとか
小出恵介くんとか。中村くんなんていろんなジャンルを渡っていて、作品選びがすごく変わってますよね。この人たちはちゃんと考えて自分の立ち位置をわきまえているし、作品的にも面白いところを踏んできている。そういう若い俳優さんは応援したいです。

【徳永】 映像と舞台を単純に比較することはできませんけど、やっぱり舞台は総合力を問われることが多いので、そういうところに惹かれるっていうのはわかります。
【武田】 私もこの業界には小劇場への興味から入っているし、いわゆるイケメンにはあまり興味がない方で。
【中井】 よりによってそういう人たちが集まっちゃって大丈夫ですか!? (笑)
【武田】王道が苦手で根っから判官びいきなところがありますし、アイドルにも一切ハマッたことがなく。なんですけど、去年突然『戦国鍋TV』にハマりまして……。
【中井】・
【徳永】・
【釣木】 ああ~!
【武田】 テニミュ出身者が多いんですが、ふるいにかけられたデキる人たちが揃っている印象。俳優としてのいろんな要素が求められるコンテンツなんですよ。私もあの番組のおかげで先入観を拭えたというか、見る目が少し変わりました。
【中井】 どんな人が出ているんですか?
【武田】 私が勝手に“鍋2トップ”と呼んでいるのが、
村井良大さんと
矢崎広さん。矢崎さんは今年、ほぼ毎月舞台が入っているとか。
【徳永】 あ、つい先日、知り合いの編集さんにも「村井くんいいですよね!」って言われました。これから気をつけて見てみます。
【武田】村井さんは動いているところを観てもらうと話が早いかも(笑)。去年、彼が出た『すうねるところ』という舞台で、終演後に年配の男性がポスター見ながら「この子、村井くんっていうんだ。上手いねえ」って連れの人に話してて。名前ではなく、芝居のみで惹き付けられるホンモノだなと思いました。
『おすふん』に大感動しました
【武田】 最近観た中で印象的だった人はいますか?
【釣木】 やっぱり『ZIPANG PUNK~五右衛門ロックⅢ』の
三浦春馬くん。新感線の世界にすんなりハマってました。
【徳永】 三浦さんは、過去に堤真一さんが出た新感線の作品を再演するときにハマりそう。
【中井】 『野獣郎見参』とかいい作品いっぱいありますよね。
【徳永】 背が高くて姿形ももちろん美しいんだけど、和の所作を踏まえたうえでのアクションがたぶんちゃんとできる人。新感線のアクションを色っぽくやれる人だなって。
【釣木】 新感線が起用する若手は間違いないと思っていいってところがありますよね。
【徳永】 彼に関して言うと、ああしてダンスも歌もできるのは、やっぱり所属事務所のアミューズが時間とお金をかけてちゃんとレッスンさせてきたという強みがあると思います。去年『ロミオ&ジュリエット』で初舞台を踏んだ
佐藤健さんもそうだったけど。
【武田】初めてなのにシェイクスピア台詞を自分のものにしているなあと感心しました。
【中井】 アミューズは今、若手の男の子がたくさんいて、彼らを集めた『SUPERハンサムLIVE』も人気なんでしょ?
【武田】“アミュメン”ですね。個人ではなく全体が好きという意味で“箱推し”という言葉を使ったりするみたいですよ。
【中井】 やっぱり事務所のカラーってありますもんね。テニミュがいいのは、いろんな事務所から集まってきているセレクトショップ的なところ。キャラが好きっていうのももちろんあるんですけど、観ていくうちに「私このタイプが好き」って分かってくる。
【徳永】 その結果が、アミュメン箱推しみたいなことになっていくんですね(笑)。同じような狙いということでいうと、
D-BOYSや
D2の舞台もそうだし、キューブがここ毎年やっている
『押忍!!ふんどし部!』もそうですね。
【武田】 通称『おすふん』(笑)。この春、テレビドラマにもなるんですよね。
【徳永】 去年観て大感動したんです。正直、出演者にはあまり興味はなかったんですけど、脚本が細川徹さんで演出が河原雅彦さんというケミストリーに期待して。そしたら、去年一番笑ったぐらいの舞台で。
【釣木】 へえ~、がぜん観たくなりました。
【徳永】 今年は演出が清水宏さんに代わるので、今度はまたどうなるかなって思ってます。
【中井】 もっとこういう作品が出てくるといいですよね。「どうせイケメン舞台なんでしょ?」って観に行ったら面白かったとか、「あ、この子こういう風に成長したんだ」って思えるような役者さんがどんどん増えてくれれば、全体的にレベルアップするでしょうし。

1本目が勝負!? 期待の初舞台組
【武田】 今年いよいよ初舞台という方も何人かいますよね。
【中井】 松山ケンイチさんとか。なんか彼はもう“イケメン”という括りで扱っていいのか迷うところですけど。
【武田】 松山さん本人が、今回作・演出の西田シャトナーさんの作品に惚れ込んでいるということで、非常に熱を感じます。
【釣木】 テニミュ出身者の細貝圭くんや和田琢磨くんもいて、わりとイケメン揃いの舞台(笑)。
玉木宏さんも初舞台ですね。取材させていただきましたが、テレビで共演した方に1回やった方がいいと言われていたらしく、並々ならぬ思いを感じました。
【中井】 初舞台ではないけど、蜷川作品にいよいよという感じなのが、
松坂桃李さん。
【徳永】 せっかくの機会なので、先輩たちからいろいろ学んでほしいなと思います。新感線や蜷川さんの舞台のシステムがいいのは、先輩たちがいっぱいいるところ。あれが正解なんだってことを具体的に教えてもらえたり、背中を見ることでわかることもあると思うし。
【釣木】 確かにそうですよね。
【徳永】 やっぱりキャストの人数が多いと全員に演出が行き渡らないこともあるから、演出家だけじゃなく、そこにいるベテランの役者さんから学ぶことも多くなると思うんですよね。蜷川さんの舞台に出たらみんなが
藤原竜也さんや
小栗旬さんみたいに飛躍できると思われがちだけど、それは違う。その点、いわゆるイケメン舞台は同年代の同じようなメンツで固まりがちなので、成長という意味では難しいところも。
【中井】 その同じようなメンツの中で、自分をちゃんと見られるかどうかですよね。
【徳永】 そうそう、鏡ばっかり見てる人もいるけど(笑)。頭の良さは絶対的に必要!
【中井】 映像でよくても舞台でイマイチって人もいるのがまた面白いところですよね。首から上と、体全体から発する表情って違うから、舞台ではそういうところもぜひ観てほしい。
【釣木】 舞台が好きになるかどうかはっきり分かれるので、出る側としては1本目って大事ですよね。
【徳永】 舞台って、舞台上にいれば必ず誰かが観ている。台詞がない人を観ているお客さんもたくさんいるわけで。そういう意味では、台詞は少しでも、良ければピンと来てくれる観客は絶対いるから、役者さんにとってやる価値はきっとあるんじゃないですかね。
舞台でこそ観てほしい、おなじみのあの人
【武田】 じゃあ映像でおなじみだけど、この人こそは舞台で観てほしいという人は?
【釣木】 まあ超有名どころとしては、
森山未來さん。
【中井】・
【徳永】・
【武田】 ああ~!
【釣木】 あんなに動ける人もあんなに考えてる人もいないって感じですよね。舞台を観ている人はみんな知ってるけど、『モテキ』だけの人はまだ知らないかもしれないので、彼の舞台はぜひ1回観てほしいです。
【中井】 私、
高橋一生さんが好きですね。森山くんもだけど、ああいう薄めの顔が好き(笑)。それに彼は色気があるなって。それも白じゃなくて、黒い色気(笑)。
【徳永】 私は
向井理さんかなあ。舞台の方がいいという意味ではないんですけど、熱量じゃないところで舞台の演技ができる人ですね。一生懸命頑張ることが舞台のやりがいって勘違いされがちだけど、彼はそうじゃなくて、これまでの2本の舞台はどっちも、冷静で生々しかった。
【武田】 『悼む人』のこれぞ“ニュートラル”という演技は私も印象的でした。
【徳永】 インタビューさせていただいたとき、「舞台には苦しみしかないけど、終わってちょっと時間が経つとなぜかまたやりたくなる」とおっしゃっていたので、舞台ならではのやりがいを感じ始めていらっしゃるようだし、今後もコンスタントに続けていってくれるのではないかと。
若手イケメン作・演出家が演劇界を救う!?
【中井】 そろそろ、徳永さんのイケメン作・演出家の話が聞きたいです。
【徳永】 はい、じゃあ……あの、すごい雑な話をすると、男子はモテる職業を選ぶってところがあると思うんですよね。80年代ならバンド、90年代ならお笑い芸人、みたいな。恐らくその前は野球選手だったり。
【中井】 恐縮です(笑)。
【徳永】 いや、中井さんの旦那さまのような野球選手という流れは王道としてずっとあるんだけど(笑)。だからモテる芽を持っている男子が選ぶ職業というのが、その業界が今キテるとかこれから来るって証になると思ってて。
【中井】 筆頭はやっぱり
藤田貴大(マームとジプシー)さん?
【徳永】 あと三浦直之(ロロ)さんとか山本卓卓(範宙遊泳)さん。それから橋本清(ブルーノプロデュース)さんという方は、モデル並みにルックスがいいです。
【釣木】 中屋敷法仁(柿喰う客)さんも。私、
岩井秀人(ハイバイ)さんも好きなんです。
【中井】 私も! 岩井さんは独特な空気感を持ってますよね。
【武田】 私のイチ推しは田上豊(田上パル)さんかな。
【徳永】 そんなふうに次々と名前が挙がるじゃないですか。書店で、三浦大輔(ポツドール)さんや多田淳之介(東京デスロック)さんが表紙の本が平積みになっていたら、「お?」と気になる人はたくさんいるでしょうし。
【中井】 2人ともロックっぽいイケメン。
【徳永】 そういう意味でも時代は様変わりしていて、彼らみたいな人が演劇をやっていることは、演劇がキていることなんじゃないかって思います。
【武田】 彼ら自身はあまり舞台に立たないのがちょっと残念ですけど、作品を通じて、イケメンたちの頭の中をディープにのぞいてみてもらいたいですね(笑)。
……ではそろそろお時間です。演劇的イケメンを多角的に語ることができて楽しかったです。本日は、ありがとうございました!