三上博史から受け取る1回限りの2時間半。
プロデューサーの語る「タンゴ・冬の終わり」の魅力とは

「役者を始めて間もないときに見て、いつかジジイになったらこの役をやりたい! と思っていたんです。とてもドキドキしてるんですよ」 俳優・三上博史がそう熱く語るのは舞台「タンゴ・冬の終わりに」。1984年にパルコ劇場で初演が上演された作品だ。今年の9月5日から、三上を主演に迎えて再演される。 3年前、人気絶頂で突然引退した役者・盛(三上博史)。盛は復帰の勧めをすべて断り、実家の古びた映画館で妻・ぎん(神野三鈴)とともに引きこもって過ごしている。盛は引退後にじわじわと妄想に取りつかれ、心と体を病み始めている。ある日、そこに新進女優の水尾(倉科カナ)とその夫の連(ユースケ・サンタマリア)が訪れ……。 盛はこれまで、平幹二朗や堤真一といった名優によって演じられてきた。「自分を空っぽにしてとことん役になりきる役者」という盛のキャラクターは、芝居に対するストイックな姿勢で知られる三上にピッタリとハマっている。ハマりすぎて怖いくらいだ。 それもそのはず。今回の上演の企画は「三上博史とパルコ劇場でなにかやりたい」という想いからスタートした。ある意味「作品と三上博史ありき」なのだ。

三上、神野、倉科、ユースケ……プロデューサーが語る舞台上の4人

現在、上演に向けて、日夜稽古が繰り広げられている。稽古の雰囲気はどのようなものなのだろう? パルコの田中希世子プロデューサーに聞いてみた。 「三上さんは、稽古場にいちばん最初に入って、いちばん最後に出ていきますね。役のむずかしさはもとより、台詞の量も『まさに主演』といった多さなので、三上さんにはかなり負荷がかかっていると思います。タンゴを踊るシーンもあるので、ダンスレッスンも早い時期からスタートしていました」 三上は毎日、稽古が始まる前に台詞を1回確認し、終わったあとにまた振り返っているのだそう。その意気込みがうかがえる。 「他の出演者も、稽古中はものすごく集中しています。演技中は緊張感で稽古場がピーンと張り詰めていますね。でも休憩中はうってかわって和やかで、ストイックな三上さんが温かくイジられたりしていて、笑い声がたえない現場です(笑)」 三上演じる盛はもちろんだが、他の役も一筋縄ではいかない曲者ばかり。出演者はそれぞれ己の役を作り上げている。 「ぎん(神野)は、影の主役といってもいい。神野さんの存在が、芝居全体を包み込んでいます。役者としてすごくよい時期に参加していただけているのがとても嬉しい! 水尾(倉科)は、清潔感があって初々しい華のあるヒロイン。倉科さんの声って『ヒロインの声』なんですよ」 連(ユースケ・サンタマリア)は、普段よく演じている役柄とはちょっと違うキャラクターだ。場の雰囲気を変える重要な人物だが、コメディリリーフ的な立ち回りやとぼけた感じはあまりない。 「今回はユースケさんのパブリックイメージとは異なる役で出演してもらっています。ユースケさんも『呼ばれたからには、〈役者〉としてがんばりたい!』と言ってくれている。ファンの方にとっては、ちょっと新鮮かもしれません」

「あなた」に届けられる、たった1回の2時間半

映画「私をスキーに連れてって」で注目を集め、90年代のさまざまなドラマの主演を務めて「トレンディドラマのエース」とまで呼ばれた三上。最近では「平清盛」の鳥羽上皇や「明日、ママがいない」の佐々木園長が記憶に新しい。テレビや映画の印象が強い人が多いだろう。 だが、実は三上が役者の道に入ったきっかけは、舞台と密接な関係がある。 友人に勧められて参加した、寺山修司の映画「草迷宮」オーディション。寺山といえば、70~80年代の演劇を牽引した人物。そんな寺山に、三上は15歳で見いだされた。 2003年の「青ひげ公の城」、2004年・2005年の「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」、2006年の「あわれ彼女は娼婦」など、舞台出演作も多い。 映像とはまた違う、舞台での三上の魅力。「タンゴ・冬の終わりに」では、どんなところが魅力的なのだろう。田中プロデューサーはこう語る。 「『タンゴ・冬の終わりに』は、台詞に力がある演劇的で文学的な作品。と同時に、2組の夫婦の対話を中心にしたドラマティックな愛憎劇でもあります。三上さんの今回の役どころは、以前にパルコ劇場で主演した『青ひげ公の城』や『ヘドウィグ・アンド・アングリ-インチ』の役に比べると、トレンディドラマを演じていたときの姿にすこし近いかもしれません。そんな三上さんを生で、しかも近くで見ることができるのは魅力のひとつです!」 緊張や感情がひしひしと伝わってくる「近さ」は舞台の醍醐味だ。 「三上さんは今『観客ひとりひとりに、絶対届ける』と稽古を重ねています。舞台は1回1回すべて違うもので、劇場の空気や受け取り方はお客さんの気持ちや身体の状態によって毎日変わります。そんな1回限りの2時間半を、三上博史から受け取っていただきたいです」 体験し、共有し、目撃する2時間半。「タンゴ・冬の終わりに」は、9月5日から9月27日まで、パルコ劇場で上演される。大阪・金沢・福岡・愛知・新潟・富山・宮城公演も決定している。

  • 「タンゴ・冬の終わりに」
    9/5(土)~27(日) PARCO劇場 (東京都)
    10/3(土)・4(日) 森ノ宮ピロティホール (大阪府)
    10/9(金) 北國新聞赤羽ホール (石川県)
    10/12(月・祝) キャナルシティ劇場 (福岡県)
    10/16(金)・17(土) 東海市芸術劇場 大ホール (愛知県)
    10/23(金) 新潟市民芸術文化会館 劇場 (新潟県)
    10/25(日) 富山県民会館 ホール (富山県)