――本作は大好評だった『奇ッ怪』のシリーズ2作目となりますが、前作での思い出は?
仲村「観に来てくださったお客様に面白かったという声が多かったですね。でも演じる側としては客席からどんな風に見えるかというのは、実はよく分からない(笑)。だから怖さの加減というのもあまり意識せずに、前川くんの言う通りにやっていました」
前川「ホラーのような直截的な怖さを前面に出しているわけじゃないので、心理的に怖いかどうかというのは、稽古のうちに麻痺してくるんですよ。でも『奇ッ怪』というタイトルで全く怖くないのもヘンなので、初日のお客さんに怖かったと言っていただいて、少しホッとした記憶があります」
――そして今回の新作ですが、仲村さんの役どころは?
前川「モチーフが“能”と“狂言”ということで、それらの演目に多いのが、語り手が辛い経験を語り、それを聞き手が聞くことで強い念がおさまっていく物語なんです。それは人同士はもちろん、物や自然への想いも同じ。例えば毎日使っているお茶碗でも、昔は使わなくなったら神社に奉納しましたよね。豊穣を祝うお祭りだって、元々は祝うと同時に大地をねぎらうことで、感謝を表しつつ怒りをおさめていた。そういうところを忘れている僕らの前に、なんだか怒っている者が人の形をして現れる、という役どころをトオルさんに演じてもらおうと思ってます」
仲村「いやぁ…大きな話になりそうですね…」
前川「もちろんバイトをクビになったとか、日常で人々が抱える気持ちや怨念なども同時に描くつもりなので、それだけではないですよ(笑)」
――仲村さんは‘07年にも前川さんの別の舞台に出ているので、本作で3作目ですね。お互いに感じ合う部分があるということですか?
仲村「前川くんには、僕が普段感じていることをすごく上手に、具体的に芝居にする人だなぁって思わされることが多いんですよ。お茶碗の話もいま初めて聞いたんですが、僕も『お茶碗を燃えないゴミに捨てるのはやめよう』って家族に言ったことがあります」
前川「そうなんですか」
仲村「だから今の話も、聞いていてすんなり納得できました」
前川「演出家としてもトオルさん独特の大きな存在感があるからこそ、役が成立するところがあるんですよ。前回の稽古場でも、この言葉をトオルさんが言ったら面白いんじゃないかっていうので生まれたセリフがありましたし」
――では最後に。他にはないタイプの舞台だけに、能楽集?ホラー?と若干戸惑っているかもしれない読者にメッセージを。
前川「まずはタイトルが漢字だらけなので難しいと思われがちですが、全然そんなことはないです、ってことですね(笑)。いろんな要素が入ってますけど、つまりはこれ面白くない?っていうのを伝えたいだけなので。そういうノリで観に来てもらえれば」
仲村「前川くんの作品では自分の発想にはなかった役や、思いもつかなかったシチュエーションでの役が演じられるのが楽しみなんですよ。絶対の信頼を抱いている前川くんの舞台だから、今回も楽しみにしていてください」
▼現代能楽集VI『奇ッ怪 其ノ弐』
8月19日(金) ~ 9月1日(木) 世田谷パブリックシアター(東京都)
9月10日(土) ・ 11日(日) 北九州芸術劇場 中劇場(福岡県)
9月17日(土) ・ 18日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール(兵庫県)
[出演]仲村トオル / 池田成志 / 小松和重 / 山内圭哉 / 他
□一般発売
東京・兵庫=発売中
福岡=7月10日(日) 10:00