――お芝居の中身についても、聞かせていただきたいのですが。
伊東「何しろ、Bさん(佐藤)が一番のキーパーソンなんですよ。」
佐藤「なぜそんなプレッシャーをかけるんですか(笑)。」
伊東「私が演じる極道の親分の、秘密を知りながら記憶を失っているという。」
佐藤「その記憶がいつ、どんなふうに戻るのかといったあたりが、肝のひとつかもしれませんね。」
伊東「でも私が一番やりたいのは、市川勇(東京ヴォードヴィルショー)が演じる、あの役だけどね。」
佐藤「ああ。あれは、おいしいですね。」
伊東「おいしい。実においしいよ。」
――おふたりがおっしゃる「おいしい」というのは?
佐藤「とにかく面白いことですね。たくさん笑っていただけそうな。」
――「かっこいい」とかではなく?
二人「いやいやいやいや!」
伊東「かっこよさは、要らないです。ラクではあるかもしれないけど。」
――ラク、ですか。
伊東「ラクですよ! 笑いのない芝居の方が、ずっとラクだと私は思う。だって、台本に書いてある通りに言えばいいんですから。喜劇は、そうはいかないよね。トーンやタイミングが少しでもズレたら、そこでおしまい。」
佐藤「僕は笑いのある芝居もそうでない芝居も好きですが、でも喜劇に出させていただくときは特に、笑いを獲らなきゃいけないという責任がのしかかりますね。独特の緊張感があります。」
伊東「だからさ、タイトルに「喜劇」って掲げるのって、実は相当勇気の要ることじゃない?」
佐藤「そうですね。本当にそうです。」
――資料によれば今回は「介護コメディー」とのことですが。
伊東「好き嫌いで言うなら、私は「コメディー」よりも「喜劇」が好き。それは「俳優」と「役者」の違いにも通じるんだけれども。「俳優」はシェイクスピアでもニール・サイモンでも何でもやるけれど、「役者」は劇場に赤提灯がぶらさがっているような、何だか近しい感じがするでしょ。だから私は「喜劇役者」でありたい、と思っていて。」
佐藤「僕はむしろ「役者」を名乗れないんですよ。今の僕は「俳優」としていろんな芝居をやりながら、どれかひとつに決めきれずに迷っている最中だから。ただ、喜劇への思いは強くあります。芝居の中の一要素としての笑いではなく、もっと真正面から笑いに取り組みたい。」
伊東「そして帰りしな、お客さんが「面白かったねえ!」って言い合いながら劇場をあとにする、その瞬間のために自分は頑張っているんだなあって、今も強く思いますね。」
取材・文:小川志津子 撮影:星野洋介
▼西荻の会「ロング・ロスト・フレンド」
2月17日(木) ~ 3月6日(日)
[出演]伊東四朗 / 角野卓造 / 佐藤B作 / 松金よね子 / 市川勇 / あめくみちこ / 窪塚俊介 / 岩佐真悠子
□発売中