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稲垣純一 日本代表チームディレクターの月イチレギュラー対談
すべてはラグビー界の未来のために



Vol.1 ゲスト
読売新聞 久保 博 常務取締役事業局長
-前編-

日本ラグビー協会の稲垣純一理事が、毎回ラグビーに造詣が深いゲストを迎えて、ラグビーの魅力やラグビー界の未来について語り合う対談企画。 第1回のゲストは読売新聞の久保博常務取締役事業局長。2019年ラグビーワールドカップの成功のヒントがここに。
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久保博常務取締役事業局長、稲垣理事

久保博常務取締役事業局長 ――久保さんは、プロ野球をスポーツビジネスとして運営されている一方で、ラグビーにも深く関わっています。そういう方から見たラグビーの魅力はどのようなところに感じますか。

久保 僕は高校時代にラグビーをやっていましたが、ラグビーは団体競技で唯一体を直接コンタクトする、究極のコンタクト・スポーツだと思っています。肉体と肉体のぶつかり合いが我々の魂に火をつける。心を熱くしてくれるスポーツなのです。スポーツビジネスのコンテンツとしても本当に素晴らしい。だから、滅びることはないでしょう。
 野球は非常に静かなスポーツで、1回ごとに攻守が替わる。でも、ラグビーは一瞬で攻守が入れ替わる。その瞬間を見逃せない“ワクワク感”が魅力なのです。
 ただ、一般の人にどうやってラグビーの魅力を知ってもらうか。どれだけ多くの人に知ってもらえるか。それが課題でしょうね。本来は、我々のような新聞社でスポーツ事業をやっている人間の仕事だと思うけど、ここ数年を見ていても、コンテンツがいいのになかなか広がらない。せっかく2019年ラグビー・ワールドカップ日本開催という目標があるのに、応援団としては毎年イライラしています(笑)。

稲垣 トップリーグの場合は、2006年、2007年のシーズン辺りから大幅に観客数が増えて、シーズンで30万人を突破した。2008年のシーズンが38万人強で、それが今までの最高到達点です。でも、そこからなかなか状況を打破できていない。久保さんからは「1試合平均1万人を集めるぐらいの魅力はあるはずだ」とご指摘頂いているのですけどね。

久保 昨シーズン、読売ジャイアンツの観客動員数は年間300万人を超えました。プロ野球を考えたら、トップリーグほどのコンテンツで年間100万人に達しないのはどう考えてもおかしい(笑)。

稲垣 06年度から観客数が増えた要因は、企業から出向した人間でチームを作って、ビジネスマインドで運営したこと。そして、全チームでお客さんを集めるムーブメントを起こした結果です。でも、それ以上増えないのは、やり方が限界にきているのでは、と認識しています。もっと違うやり方で次の段階に移行しないと、観客動員数50万人、60万人というところまで増えていかない。その部分で、今、ラグビーに関係のない外部の人間も入れたプロジェクトチームを作っています。

久保 ラグビーの魅力は変わっていないけど、世界のラグビーはプロ化して、ファイブネーションズがシックスネーションズになったり、トライネーションズがラグビーチャンピオンシップへと発展し、どんどん進化している。
 日本も、2001年にオープン化に踏み切ったけれども、運営する側はプロ化しなかったと僕は思っている。ラグビーの魅力を知ってもらうノウハウは、時代に合わせて変わっていかなければならないのに、依然として昔のままのやり方に見えます。

稲垣理事 稲垣 おっしゃる通りです。
 私も、サントリーから出向して日本ラグビー協会に入っているのですが、運営は、新しい血を入れて、プロフェッショナルでやらないとダメだと思っています。
 トップリーグ発足当時、所属チームのマネジメントスタッフは会社からその仕事を与えられたプロだったのです。ところが協会はまだアマチュアでやっているスタッフが多いから、話が全然噛み合わなかった。だから、私も含めて各企業からスタッフを集めてトップリーグ事務局を作りました。
 でも、先日視察したオーストラリア協会は100名のプロのスタッフがいるのに対して、日本はまだ30名ぐらい。それでは協会の文化としてプロフェッショナルになりきれないでしょうね。プロのスタッフを増やすには、予算の問題もありますし。

久保 悪循環なのですよね。お金がないから人が少ない。人が少ないからお客さんを呼び込む有効な手を打てない。でも、そこで何をきっかけに好循環に変えるかが問題になる。

稲垣 ワールドカップが一番大きなチャンスだと思っています。

久保 うん。2009年にワールドカップの日本開催が決まったときに、ラグビーを知っている人はみんな大喜びしたんですよね。あの日が日本ラグビーにとって最高の日だと思います。
 でも、その日以降も、お客さんが増えていないどころか減っていく。これはなぜなのだろうと考えたときに、ラグビー関係者の喜びが国民に伝わっていないのではないか、と思えてくる。
 2019年に向けて、何を成功の足がかりにするかと言えば、それはお客さんの倍増計画ですよ。手法はいろいろあると思いますが、まず着実に観客を増やしていくことが始まりです。
 ラグビーは惚れ込んだら最後まで、というスポーツですよね。ファンにもそういう人が多い。ただ、ファンが高齢化していることと、新たな広がりが出ないことが問題です。これはジャイアンツでもあった問題なのです。
 東京ドームができた効果と栄光の長嶋茂雄監督時代で大いに盛り上がったあと、反動で観客動員が少し落ち込んだときに私はスポーツ事業部長になりました。そのときの最大の問題が観客の高齢化と、法人に頼り切ったチケッティングでした。チケットはまとめ買いで売れているのにお客さんが来ないんですよ。でも、そこに気づいて手を打つまでに3年ぐらいかかりました。
 やっぱり、自腹を切ってチケットを買ってくれるお客さんをたくさん呼ばない限り、スポンサー・メリットや、アメリカみたいな放映権料の高騰は望めない。だから、興行というのはどんなに辛くても、チケットを1枚1枚売る以外に解決策はないのだと思います。
 ジャイアンツの試合は、それまでテレビ中継が高視聴率だったこともあって、ほとんどがナイターでした。でも、ナイターにこだわっていたら、試合を見に来る子どもさんが減った。そこで、「週末はデーゲームをやらせてください」と提案したのです。調査をしたところ、日曜日のナイターでは子どもの割合が8%を切っていたのに、デーゲームにした場合は13~14%になりました。この5%のアップが生命線なのです。
 現在は20ゲームぐらいデーゲームを行っていますが、おかげで子どもさんのファンがすごく増えました。しかも、デーゲームだと午後4時半か5時ぐらいには終わるから、試合が終わった後にグラウンドでいろいろなイベントができる。そうやって子どもさんをまず最初のターゲットにして、次はガールズシートを作って女性ファンの開拓、というふうにファン層を広げていったのです。
 そういう仕組みを作ったことが、去年観客動員数が300万人を超えた要因のひとつだと思います。このノウハウはラグビーにも生かせるのではないかな。

稲垣 ラグビーも、レディースシートを企画していますし、子どもたちの招待も実施しています。今はチケットセールス部門を作って、彼らの努力で昨年6月のウェールズ戦も11月のオールブラックス戦も満員になりました。努力をすれば成果が現れる。昨年度の日本協会主催試合は観客動員数が10%ぐらい伸びたのです。そういう地道な努力を日本協会全体でやらなければいけないと思っています。

久保 確かに少しずつ動き出していますね。でも、今のスピードだと2019年に間に合うのか。どこかで大きく変える必要がある。ラグビーは非常に大きな可能性を持ったスポーツなので、国立競技場を満員にするぐらいの力はあります。なかでも、トップリーグはさまざまなファンサービスをできる可能性を秘めている。大学ラグビーや高校ラグビーにそれを求めても難しいでしょうけどね。

久保博常務取締役事業局長、稲垣理事 稲垣 マーケティングの面から言っても、強化の面から言っても、大学ラグビーの位置づけが今は非常に難しくなっている。たとえば大学生を秋に日本代表に招集しようとしても、単位の問題があるし、大学ラグビーにウィンドウマンスがないこともあって、調整が難しい。マーケティングの面でも、過去に多くの観客を動員した成功体験があるから、なかなか新しい試みを導入しづらい。それがネックになっている部分はありますね。

久保 大学選手権の決勝に早稲田大学や明治大学が出てこないから観客動員が伸びないという話も聞きますが、それは違いますよ。
 大学選手権決勝の翌日に同じ国立競技場で行われた高校サッカーの決勝戦は、富山県と石川県の北陸勢同士の顔合わせで4万5000人入っている。これは日本テレビが、サッカー協会と一緒になって高校サッカーのファンを作ってきたからですよ。それに対して、ラグビーは新しい大学ラグビーのファンを開拓してきたかと言うと、そうではなかったと思います。だから、観客が減っているのではないかと思います。
 僕は、学生時代、仙台から夜行列車に飛び乗って、1月15日に新日鐵釜石の日本選手権決勝を観に行ったことがありますけど、ラグビーにはそういう行動を起こさせるような魅力がある。ただ、それを気づかせてくれるようなきっかけを時代に合わせて作ってこなかった。ラグビーの魅力をどう発信するか、そのコンテンツと仕掛けが今はちょっと乏しいですね。

稲垣 ターニングポイントになったのが、1995年に南アフリカで行われた第3回のワールドカップでしたね。日本代表がアマチュアとして乗り込んだら、世界はもうプロ化していて、気がついたらニュージーランドに145点取られてしまった。しかも、その試合がNHKで全国中継されてしまった。それが大きな転換点でした。
 その頃、僕はサントリーで副部長をしていて、エディー・ジョーンズなどから新しい情報がどんどん入ってきた。それに比べて当時の代表チームは、明らかに情報が遅れていた。この頃、宿澤(広朗・故人=元日本ラグビー協会理事・強化委員長などを歴任)さんが強化に携わるようになり、「これではチームから代表に安心して選手を送り込むことが難しい」と率直に話して、そして宿澤さんがオープン化などいろいろと改革をして理想のジャパンの基礎づくりをして頂いた。
 ジャパンも、今はようやくプロフェッショナルと言える体制になりつつある。今、一所懸命世界に追いつこうとしているところなのです。

取材・構成●永田洋光
撮影●大崎聡

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PROFILE

久保博●くぼひろし
1949年、宮城県生まれ。1975年東北大学を卒業し、読売新聞社に入社。 経済部主任、地方部主任、事業開発部次長、スポーツ事業部次長などを経て、2001年にスポーツ事業部長に就任。 2006年に事業局次長、2009年に執行役員事業局長、2011年に取締役事業局長となり、2012年に常務取締役事業局長に就任。2014年6月、読売ジャイアンツ球団社長就任が正式決定する。

稲垣純一●いながきじゅんいち
1955年、東京都生まれ。1978年慶應義塾大を卒業し、サントリーに入社。1980年ラグビー部・サンゴリアス設立と同時に参加、初代主将となる。 その後、慶應大ラグビー部コーチ、サンゴリアス副部長、ディレクターを経て、2002年にGMに就任。2007年にトップリーグCOOに就任。現在は日本ラグビー協会理事を務める。



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