——まず初めに、サントリー株式会社の企業理念を教えて下さい。
「スポーツを支援する最終的な目的はイメージアップです。製品の売上を伸ばすということが、企業ですから間違いなくあります。しかし、スポーツを単なるメディア・コンテンツとしてだけ位置づけているかというと、そうではありません。スポーツには、それを見ることによって感動したり、共感したりという独特の世界があります。そういう場面を提供する、そういう世界を通じてサントリーという企業の活動や理念を理解していただければと思っています。
サントリーの企業理念は、ご存知の方も多いかと思いますが、『人と自然と響きあう』。この言葉は、『人々のニーズに基づいた生活文化の豊かな発展と、その存続基盤である地球環境の健全な維持を目指して、企業活動に邁進し、人間社会に貢献する』という私たちの企業の存在理由、到達目標を表しています。私たちは、この企業理念のもと、よき企業市民として優れた品質の製品やサービスをお届けし、世界の生活文化の発展に貢献していきたいと願っています。
広範囲にわたって社会・文化活動を展開していますが、その原点は創業者・鳥井信治郎の『利益三分主義』に逆上ります。利益の3分の1はお客さまへ。もう3分の1は社会に還元すべきとの強い信念を持ち、恵まれない人たちへの慈善活動、社会福祉事業に熱意を示してきましたが、その創業精神が今も脈々と受け継がれています。最近、“CSR”(Corporate Social Responsibility/企業の社会的責任)ということがよく言われますが、そうした理念に基づき、私たちはサントリー美術館、音楽財団、文化財団、サントリーホール、サントリーミュージーアム天保山といった各分野で文化活動、あるいは地球自然環境保護を目的とした環境問題への取り組みなどを積極的に行っています。そして、その大きな枠組の中の一つとして、スポーツ、さらにはサッカー、Jリーグというものを捉えています」
——Jリーグを支援するようになったきっかけは?
「企業としては、世の中の注目度合いというものを考えなければなりません。サッカーも、日本リーグ時代は確かに観客が多くありませんでしたが、Jリーグがスタートする時点で、私たちは機が熟したと考えました。Jリーグというものをメディア・コンテンツとして捉えたとき、当時も、そして将来的にも大きくなっていくのではないかと判断したわけです。プロ化という問題に向かって、一丸となってチャレンジしていくという姿勢にも共鳴しました。できあがったもの、価値が定まったものに対して応援していく例はたくさんあるでしょうが、まだ海のものとも山のものともわからない段階から、“チャレンジ”ということに対して応援してきた。その姿勢は現在も変わっていないと思いますし、サントリーという企業にはそういうところが一つの大きな特徴としてあるんでしょうね。Jリーグの支援だけでなく、ゴルフトーナメントの主催など、他社さんに先駆けてやってきた実績もありますから」
——Jリーグに対して、これまでにされてきたことは?
「リーグ戦のスポンサード。チャンピオンシップの冠。キャンペーン。Jリーグ缶などの商品開発。チームのスポンサードもしてきました。現在、J1・J2合わせて12チームあります。
また、2003年からはスポーツ・クリニックも行なっています。サッカーやラグビー、バレーボールをやっている子供たちを集めて、普段とは違った競技をやらせてあげる。例えば、サッカーをやっているお子さんはいつもは手を使えませんが、ラグビーボールを手で持ったり、コンタクトバックに思い切りぶつかっていったり。みんなとても喜んでくれました。
それから、今年の4月にはスポーツ・アカデミーも開きました。元日本代表キャプテンの井原正巳さんやスポーツジャーナリストの中西哲生さん、サントリーのラグビー部やバレーボール部の選手も参加して、子供のときの体験や何故そのスポーツを始めたかなどを話していただきました。スポーツをやって楽しかったことも、辛かったことも。そうしたことは、Jリーグとの共通な思い、一致した考えから始まったことですが、子供たちの健やかな育成をサポートできればと思っています」
——Jリーグ関連で、今後予定されていることは?
「8月20日から『キッズ・ドリーム・シート』を始めます(取材日−8月17日)。J1の全試合で50席、子供たちを招待しますが、彼らにトッププレイヤーの素晴らしいプレイを見てもらえればと思っています。サントリーでは2004年『キッズ・ドリームプロジェクト』を立ち上げましたが、その一環です。スポーツだけでなく、音楽や文化活動などの分野で、それぞれトップで活躍されている方々と触れ合ったり、直接教えてもらったり。子供たちが興味、関心を持てる場を提供してあげたいということです。
ただし、私たちはクリニックをやるからといって、そこから将来日本代表を輩出しようとしているわけではありません。もちろん、そうなってくれたらうれしいでしょうが、クリニックの目的はスポーツの素晴らしさを伝えることです。スポーツというのは、それを通じて規律やルール、マナーを教えることができる、学ぶことができるんです。技術と同時に、そういう点もきっちり教える。そのためにはスポーツの楽しさだけでなく、厳しさも伝えていかなければなりませんが、子供たちが変な方向に行かないようにサポートできればと考えています」
——Jリーグから企業が得たことは?
「先程も申しましたが、お客さまにスポーツを通じて、Jリーグのサッカーを通じて、感動的な場面を提供し、共有することができました。Jリーグが成功してくれたことによって、十分メリットを享受できたと思います。
また、新しいことに企業として取り組んでいくということが、社員の意識も高揚させました。よく言うんですが、うちの会社には『やってみなはれ』というDNAが受け継がれているんですね。チャレンジ精神というか、フロンティアスピリットというか。小さな場面から大きな場面までいろいろありますが、Jリーグはそれを最も大きな場面で実践できた良い例であり、サントリーとしてもそのことで誇りが持てました」
——Jリーグに望むことは?
「今すぐこうしてもらいたいということはありませんが……、13年前、Jリーグとサントリーが握手したときと比べ、今は企業の状況、世の中の環境、Jリーグに対する見方が大きく変わってきました。そんな中で、素早く、フレキシブルに、一緒になってできることは何か、Jリーグを盛り上げていくためにどんなお手伝いができるのかなどをご相談させていただきながら、そのときどきで価値を見直し、実行していければと思います。ここ数年の子供たちへの取り組みも、パートナーシップがうまくいっている表れですから」
——Jリーグ発足時と比べ、大きく変わられた点は?
「宣伝という意味合いが薄れてきました。サントリーという企業名をスポーツを通して認知していただくステージから、スポーツ活動に力を入れている企業だなと知っていただく次のステージがあり、現在は子供たちの成長をサポートしている企業だなとお客さまに感じていただけるステージに入ったかなと思っています。宣伝活動から社会への貢献。“お返し”というファクターが強まっています。子供たちが素直に喜んでいる姿を見ると、自分たちがやっているそういった意味合いを感じますね」
——サッカー日本代表、そしてJリーグ、サッカー界全体にエールをお願いします。
「Jリーグでの試合、日本代表戦と、ゲーム数は格段に増えていますし、異なったチーム・環境でプレイするのは、精神的にも肉体的にも大変でしょうが、コンディションを維持してがんばってください。競技の発展は、まずは代表チームが強くなること。そして、それを支えるJリーグのような組織が確立されて、盛り上がること。選手には一番負担がかかるでしょうが、自分のプライドをかけて、サッカー界のためにがんばってほしいと思います。日本のスポーツ文化を変えていくのは、やっぱりサッカーから。サッカー選手の役割は大きいと思います。
Jリーグ発足から紆余曲折はあったでしょうが、今また集客は右肩上がり。事業としても、世界で5本の指に入る成績を収められ、順調に成長してきました。それはひとえに、会社を辞めてまでJリーグを成功させるんだという志を立てて取り組まれた川淵三郎元チェアマンのリーダーシップ、そして知恵を振り絞り、アイデアを持ち寄って、関係者全員が組織として取り組まれた賜物だと思います。
スポーツ文化がなくなることはありません。世界的に見ても、サッカーが一番強力な競技であることは間違いありません。Jリーグのますますの発展、日本のサッカー界のますますの発展のために、サントリーもさらにパートーナシップを強めていきたいと思います」
取材・構成/宮崎俊哉(CREW) |