——社会貢献、スポーツ支援を中心に、御社の企業理念からお話しいただけますか。
「“世界の人々の健康、楽しさ、快適さに貢献する”という企業理念のもと、社会やお客様に楽しさを提供していくという活動の一環として、サッカーを中心にスポーツを支援してきました。スポーツを通じた生活の豊かさですとか楽しさみたいなものを、広く社会やお客様に提案していきたいという思いでこういった活動をやっています。そのため、スポーツ支援というのは他の企業では宣伝担当の方が担当されているケースが多いようですが、私どもではCSRコミュニケーション本部という部署でやっていまして、単に宣伝、プロモーションの手段ではなく、社会とのコミュニケーション、企業活動として展開していくという姿勢が根本にあります。もちろん、“勝ちT・勝ち樽キャンペーン”といったような商品プロモーションも大きく展開していますが、決して単なる宣伝活動というわけではありません」
——御社は長きにわたってサッカーを支援されていますが、きっかけは?
「サッカーと関わりを持たせていただいたのは1978年からになりますが、敢えて言えばきっかけはキリン本社が偶然、岸記念体育館の向かい側にあったということでしょうか。当時は日本サッカー協会も岸記念体育館に入っていらっしゃいまして、ご近所ということで協会の方が私どもに支援のご依頼にいらしたのが始まりです。ちょうどその頃、私どもも何らかの形で社会に貢献していけるような社会的活動の必要性を感じておりましたので、ぜひということで決まりました。
日本のサッカー界は、1968年『メキシコオリンピック』で銅メダルを獲って、その数年後に日本サッカー協会が財団法人化された。ところが、『オリンピック』で良い成績をあげて、財団法人日本サッカー協会ができて、「よし、これからもっと盛り上げるぞ!」というところから、急に日本サッカーは冬の時代が来てしまったんですよ。その後の『ミュンヘンオリンピック』、『FIFAワールドカップTM』西ドイツ大会、『モントリオールオリンピック』、『FIFAワールドカップTM』アルゼンチン大会、全て予選で敗退してしまいました。上り調子から急降下してしまった。1978年というのは、まさにそんな冬の時代。そこで、日本サッカー協会としては何かしらテコ入れしなければいけないと、切羽詰まったものがあったんだと思うんです。直々に長沼健(元日本サッカー協会会長、現最高顧問)さんがいらっしゃって、当時の小西(秀次)社長が受けたと聞いております。サッカー支援のお話をいただき、日本のサッカー界の状況も理解した上でお手伝いをさせていただくようになりました。
そして、日本初の本格的な国際大会として“ジャパンカップ”が開催されることになるのですが、1978年のスタート時から支援させていただきました。第1回大会は、日本代表と同時に日本選抜も出場していまして、8チームで行われたましたが、これが“キリンカップ”の前身で、今年27回目を迎える歴史ある大会です。イングランドのトットナムホットスパーというチームも来日しまして、当時アルゼンチン代表だったアルディレスなどもいましたね。FCケルンには、日本人プロ第1号の奥寺康彦さんもいたんですよね。その後もイタリアのインテルですとか、小野伸二選手が行って有名になったフェイエノールトも“キリンカップ”で日本に来ています。今思うと、スタートから錚々たるチームが来日し、サッカーファンにとっては夢のような大会だった思います」
——サッカーに対しては、どのようなイメージをお持ちですか。
「みんなと一緒に盛り上がれるスポーツだと思いますし、よく言われるように“世界の共通言語”だと思います。いろいろなスポーツの世界大会がありますが、やはり何といってもサッカーの世界一を決める『FIFAワールドカップTM』が一番盛り上がっていますからね。ちょっと前までは、日本でのサッカー人気はあまり高くありませんでしたが、今のサッカーを取り巻く状況を見ていますと、若い方から年配の方まで、見て楽しむスポーツを超えているようにも感じます。フットサルのように、年配の方でも気軽にサッカーに触れる機会も出てきていますから、今はもう誰もが一緒に楽しめるスポーツになっているなと思いますね」
——サッカーは単に観るだけでなく、多くの人たちとコミュニケーションできるスポーツですね。
「まさにそうです。私どものサッカー支援のコンセプトとしては、ひとつに“世界に挑戦する日本代表チームを応援する”というのがありますが、同時に“日本代表をファンやサポーター、みんなが一緒になって応援する”ということも掲げています。そういう意味で言えば、我々がコミュニケーションさせていただいている方々も幅広い層になっているのかな、と思っています」
——サッカーに関して、これまでなさってきたことを教えてください。
「日本代表強化のサポートという形で、世界に挑戦する場、海外のチームとの試合のセッティングに携わってきました。対戦相手は強化の観点からサッカー協会が決めることですが、当然海外チームの招聘ですとか大会運営には資金が必要になります。そういった資金面からバックアップして、日本代表が世界と戦う強化試合の場を提供してきたという歴史があります。それが、“ジャパンカップ”に始まる今の“キリンカップサッカー”です。また、そうした代表チームの強化とともに、もっと日本中がサッカーで盛り上がる環境を作ることも大切だと考え、サポーターやファンの方々に向けたさまざまなコミュニケーションイベントも展開しています」
——具体的には?
「今では“キリンカップサッカー”のチケットも即完売になったりして行きたくても行けないサポーターの方たちや、会場まで足を運べないサポーターの方々もいらっしゃいますので、試合会場以外でもさまざまな場所で日本代表を応援できる場も提供しています。そのほか、草の根活動としてファミリーフットサルの活動なども展開しているところです。先ほど、以前からのコアなサッカー層だけではなく、かなり多くの方々がサッカーを楽しむようになったというお話をしましたが、サッカーに触れていただく機会を増やしたり、まだまだサッカーに馴染みのない方にももっと親しんでいただけるよう、親子で気軽に参加していただけるファミリーフットサルなども、サッカー協会さんと一緒に行っています。
それと、“勝ちTキャンペーン”は、商品プロモーションのひとつでもあるんですが、こうしたキャンペーンも日本中をサッカーで盛り上げていく一端になっていると感じています。“勝ちTキャンペーン”は2002年にスタートしましたが、お蔭様で応募総数が最高で7000万口を超えたこともあり、コンスタントに4000万、5000万の応募をいただいています」
——今では日本代表戦となれば、青いTシャツやユニフォームを着たサポーターでスタジアムが真っ青になりますね。
「そうですね。6年間継続してやっていますが、ひとつのキャンペーンでこんなに何年も続けている例はないと思います」
——2006年の“日本代表アクションプラン”についてお話しいただけますか。
「まず、日本代表チームの強化支援という意味では、2月18日静岡で開催された“キリンチャレンジカップ”フィンランド戦を皮切りに、3月30日には同じく“キリンチャレンジカップ”のエクアドル戦を開催しました。そして、5月9日〜13日“キリンカップサッカー”が行われ、これが終わったところで、『FIFAワールドカップTM』日本代表最終メンバーが発表され、ドイツに向けて出発となります。今回の“キリンカップサッカー”は、まさにドイツに飛び立つための最終準備という位置づけになっているわけです。
また、“キリンカップサッカー”の際には私どもビール工場で応援観戦イベントも開催します。スタジアムに足を運べないサポーターも数多く出てくると思いますので、北は北海道の千歳から南は広島まで全国のキリンビール工場を開放して、そこに大型スクリーンを設置。できたてのビールを飲みながら、大型スクリーンで日本代表を応援していただこうという企画です。工場に来ていただいた方にも、実際スタジアムで応援しているサポーターと気持ちをひとつにしてもらえるよう、ブルーリングやブルーフラッグといった応援ツールをお配りします。同じ応援ツールを持って、全員同じ気持ちで日本代表を応援していただきたいですね。
さらに、これは大阪限定なんですが、えびす橋の斜め向かいにあるKPOキリンプラザ大阪で、大阪にひっかけて“Oh! soccer 2006 in KPO!”と題し、さまざまなイベントを行います。“キリンカップサッカー”の応援イベントもやりますし、そのほかいろいろ企画していきますので、ぜひそちらもご覧になっていただければと思います。
『FIFAワールドカップTM』期間中には、ドイツに行けないサポーターの方にもドイツに行ったサポーターと気持ちをひとつにして応援していただき、盛り上がってもらおうと日本における応援の拠点、日本代表応援基地をサッカー協会と合同で作ります。具体的には、横浜の赤レンガ倉庫敷地内に“SAMURAI BLUE PARK ”という応援基地を作り、その中に巨大なブルーのテントを張って大型スクリーンを置き、“KIRIN SUPORTERS' STATION”といった形で提供していこうと考えています。ドイツにいる日本代表チームの合宿の様子ですとか練習の様子など、どこかのニュース映像から取ってくるのではなく、専用のクルーを現地派遣して収録した映像を、ダイレクトに映し出す予定です。ドイツに行けないサポーターの方たちも、ドイツにいるサポーターが今どんな風に盛り上がって応援しているのか、日本代表がどんなコンディションでどんな練習をやっているのか、“KIRIN SUPORTERS' STATION”にいらしてくだされば見ていただけます」
——もりだくさんの内容ですね。
「それだけではないんです。日本にいるサポーターのメッセージを、ドイツにいる選手に届けるため、会場には応援メッセージコーナーも設けまして、サポーターの皆さんに書いていただいたメッセージを毎日現地に届けます。また、ドイツにはオフィシャルメディアセンター“G-JAMPS ”も設けますので、それがドイツでの日本代表の情報発信及び応援の基地になります。日・独を結び、日本代表を一緒に応援できる基地を作るというのが、今回の企画の目玉になっていますが、当然私どもは飲料メーカーですので、“日本代表の応援にはビールと清涼飲料をセットで”と。そこで、“KIRIN SUPORTERS' STATION”や“G-JAMPS ”に“KIRIN SAMURAI BLUE BAR”を作りまして、キリンビールですとか清涼飲料を飲みながら応援してもらおうと考えています。日本代表バージョンのオリジナルカクテルが飲めたり、日本ではドイツ料理、ドイツでは日本料理が楽しめる予定です」
——サッカーを支援されるようになって、企業として得られたこと。まず、社内的にはいかがでしょうか?
「やはり社員が、自分の会社は一環してサッカーを応援し続けているという誇りを持っている、持てていると思っています。実際に企業のイメージ調査では、“キリンといえば何を思い出しますか?”との質問に対して、当然キリンのマークですとか、ラガービール、一番搾りなど主力商品があがるのですが、サッカーという想起も上位ランクに入っています。“キリン=サッカー”と認知されているということもありますが、社員自身が自分の会社がサッカーをずっと応援し続けているという企業姿勢に誇りを持っているのは非常に大きなことだと感じています」
——お客様に対しては?
「先ほども申し上げましたように、企業イメージとしてキリンといえばサッカーというイメージがかなり定着してきていますので、キリンという会社に対して親しみを持っていただけるきっかけになっているのではないかと思いますね。サッカーの持つ元気なイメージ、活力のあるイメージが、サッカー日本代表を支援するキリンという企業のイメージ、ブランドと重なってきたということではないでしょうか。同時に、サッカーを通じていろいろな形でお客様や社会とコミュニケーションを図っていく手段になっていると思います」
——今後サッカーに関して、何かされていきたいことは?
「かなり定着してきましたし、広がってきたとはいえ、日本のサッカー文化においては、もっと続けて行かなければならないこと、まだまだ開拓していかなければならないことがあるだろうと思っています。A代表に関しては、みなさんの関心も非常に高いですし話題も集まっていますが、サッカー日本代表はA代表だけではなく、U23、U20、U17それぞれの年齢で代表チームがあります。将来の日本代表をみんなで盛り上げていくには、フルカテゴリーでの日本代表支援がとても重要なことだと思っています。女子代表に関しても、『アテネオリンピック』あたりから盛り上がりを見せてくるようになりましたが、あの日本女子代表チームもサッカー日本代表であることに違いはありません。フルカテゴリーでの日本代表支援を行っていき、底上げをしていきながら本当の意味で日本のトップチームが強くなるような活動をしていければと思っています」
——AFC(アジアサッカー連盟)の支援もされていますが。
「2003年シーズンから、支援しています。AFCには『FIFAワールドカップTM』や『オリンピック』のアジア最終予選が含まれています。もともとのきっかけは、年1回開催される“キリンカップサッカー”、強化試合として行われる“キリンチャレンジカップ”を私どもは提供してきましたが、従来の国内での強化のサポートだけではなく、より一層日本代表チームをサポートしていく形はないだろうかと模索するなかで、AFC支援も始まったというわけです。ですから、日本サッカー協会と一緒になって国内で日本代表チームを強化するとともに、AFC に対してもオフィシャルパートナーとして協力することで、日本代表チームの強化、さらにはアジア全体のサッカーの底上げにつながっていけばと思っています」
——改めて、“キリンカップサッカー”と“キリンチャレンジカップ”の違いを教えていただけますか。
「“キリンカップサッカー”は毎年5、6月に行われる恒例の大会でして、海外から2チームを呼んで3ヶ国対抗を基本とした伝統ある大会です。一方、“キリンチャレンジカップ”というのは2001年から日本代表強化のシナリオに沿って国内で行われ、キリンが支援する国際Aマッチ。“キリンカップサッカー”だけでなく、さらなる代表強化の場として提供しているのが“キリンチャレンジカップ”ですね」
——いよいよ『FIFAワールドカップTM』本番まで秒読みとなりましたが、日本代表チームにメッセージをお願いします。
「日本代表には、今まで培ってきたものを全部出し切って欲しいですね。その結果として見えてくるもの、それはそれできちんと受け止めて次に生かしていかなければけないと思いますので、とにかく全ての力を出し切って戦い抜いてきて欲しい。私どもも1サポーターとして、日本中のサポーターと一緒になって最後の最後まで応援し続けます。今回の大会で結果を出して欲しいのは当然なんですが、仮にダメだったとしても力を出し切って予選敗退したとなれば、それが実力なんです。力を出し切れば、その結果は真摯に受け止められますよね。それが力を出し切ったのか出し切ってないのか、何だかよくわからなかった、不完全燃焼だったとなると、あまり残るものがないというか。力を出し切らないことには自分たちの実力も分からないわけですし、次にもつながりません。とにかく自分たちの力を全て出し切ることだけを考えて欲しいと思います。代表に選ばれた選手のみなさん、応援しています。ぜひ、力の限りがんばってください」
取材・構成/宮崎俊哉・山田美恵(CREW) 撮影/新関雅士
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