——スポーツ支援を中心に、朝日新聞社の企業理念からお話しいただけますか。
「堅苦しく言うと、新聞社ですから“朝日新聞綱領”でうたっている『不偏不党の地に立って言論の自由を貫き、民主国家の完成と世界平和の確立に寄与す』などが企業理念ということになります。
わかりやすく言えば、新聞報道を通じて、不法や腐敗と戦い、暮らしやすい平和な社会づくりに貢献するということです。
そうした企業理念のもと報道とは別の部分で、夏の甲子園(全国高校野球選手権大会)に代表される高校野球や柔道、マラソン、家庭婦人バレーボールなど様々なスポーツ大会を長い間支援してきました。質の高いスポーツイベントや文化事業などを通じて、新しい価値を国民の皆さんに提供していくのも理念にマッチする大事な仕事と捉えているからです」
——Jリーグを支援されるようになったきっかけは。
「'02年『FIFAワールドカップTM』がきっかけです。朝日新聞は世界で初めてオフィシャルニュースペーパーとなり、全試合で速報号外を発行するなど大会成功を後押ししました。大会後、せっかくここまで高まった日本のサッカー熱を一過性にせず、もっと盛り上げたいという思いから、新たなサッカー事業に取り組み、『Jリーグ百年構想パートナー』になりました。もちろん、サッカーに限らず、みんなが楽しめる総合スポーツクラブを各地域につくり、その中心にJリーグのクラブがある……。“スポーツで、もっと、幸せな国へ”と呼びかける百年構想の理念、芝生のある校庭や広場を増やすといった取り組みにも共感したためです」
——サッカーというスポーツについてはどのようにお考えですか。
「'93年にJリーグが誕生し、'02年の日韓共催となった『FIFAワールドカップTM』。それまで新聞社といえば、スポンサーではなく紙面を通じて盛り上げることで大会や競技団体をサポートするのが普通でしたが、『2002FIFAワールドカップTM』のときに、スポンサーという形で参画し、その結果、改めてサッカーの将来性、魅力を感じました。現在、朝日新聞は、Jリーグだけではなく、『高円宮杯全日本ユースサッカー選手権大会』の共催や『全国少年少女草サッカー大会』の主催など、若い世代の育成も支援しており、小学生世代から大学生世代、そしてプロであるJリーグまですべての世代のサッカー活動をサポートしています。さらにアジアサッカー連盟のオフィシャルスポンサーにもなり、『2006FIFAワールドカップTM』アジア地区最終予選の盛り上げにも力を入れました。それぞれ歴史、関わり方などは異なりますが、年々盛り上がりを感じています。ますます魅力的なコンテンツになっていますね」
——これまでJリーグとされてきたことは?
「芝生化された小学校の校庭での“Jリーグ百年構想サッカー教室”やシンポジウムを開いたりしてきました。横浜の小学校では、日本代表として活躍した元Jリーガーの井原正己さんや横浜 F・マリノスのコーチに先生になっていただきました。Jリーグが主催し、朝日新聞は子供たちが芝生の上で楽しそうに走り回っている様子や芝生化するための支援者のご苦労などを取材して紙面で紹介したり、当日の模様を記念号外にして配ったりました。子供たちや地域の人々が力を合わせて造り上げた芝生の校庭で、裸足で授業を受けたり、いろいろなスポーツを楽しんだりしている様子は見ている方も気持ちがいいし、星空映画祭やお祭りのようなイベントを開いたという報告もあります。こういった学校がまだまだ増えて欲しいので、これからも特に校庭の芝生化は力を入れて応援したいと思っています」
——Jリーグのパートナーとなられて、得られたことは?
「昨年実施した調査で、サッカーは朝日新聞のイメージアップに効果が出ているという結果が出ています。もちろんスポンサー効果だけでなく、紙面でも週1回のサッカー専用面を他紙に先駆けて作り、日本代表の動向や欧州リーグの情報をきめ細かく報道している点も評価されていると自負しています。さらにグレードアップして“サッカーなら朝日新聞”と言われるようにしたいと考えています。活字離れが叫ばれ、ネット社会といわれる今日ですが、若い人たちにも新聞というメディアにもっと目を向けてもらいたい。そういう意味でもサッカーファンには若い人が多い。“サッカーに力を入れている企業”という観点から、朝日新聞社に興味持っていただくきっかけにはなっていると思います。
'04年10月に新聞と読者の間で双方向の新しい関係を築き、より親密なつながりを結んでいこうと、全国紙としては初めて『アスパラクラブ』という無料会員組織を発足させました。新聞紙面に書ききれなかった記者の思い、取材の背景や裏話などのきめ細かな情報提供とともに、Jリーグのチケットプレゼントなどを行っていますが、人気は高いんです。それができるのもJリーグ百年構想パートナーとなったメリットです」
——Jリーグとともに、今後やっていきたいことは?
「“百年構想”をもっと露出して理解を深めていきたい。言葉そのものもそうですが、具体的な狙いや取り組みを多くの人たちに知ってもらえるような活動をして行こうと考えています。Jリーグ、Jクラブ、さらには選手会が、どんな活動をしているのか。Jリーグのクラブがバレーボールの大会をサポートしたり、バスケットや女子ソフトボールチームを持っているといったことは、ほとんどの方はご存知ないですよね。まず手始めに今年の開幕戦ではJ1、J2の全試合会場で、そうしたことを具体的に紹介したパンフレットを65万部観客に配付しました。今後も2弾、3弾をJリーグと連携してやっていきます。もちろんJリーグが実施している「芝生の学校応援企画・わたしたちの芝生校庭自慢」などにも一緒に取り組みます。ほかにもいろいろアイデアが出ていますし、まずできることを一つずつ実施していくことで、百年構想の認知度が上がり、ひいてはパートナーである朝日新聞の認知度も上がってくれればと考えています。
Jリーグが発足して14年目。百年構想のうち10分の1ぐらいは達成できたのかと聞かれる方がいますが、“百”は算用数字ではなく漢数字なんです。つまり“長い”ということ。その意味で付けられたわけですから、100年経ったら“ハイ、終わり”というわけではなく、100年過ぎても百年構想は変わらない。スタートした当時はそういうアピールもされたでしょうが、いまは忘れられている気がします。だからこそ、“百年構想”をきちんと伝えていきたいと考えています」
——Jリーグとはどのような関係が理想的だとお考えですか。
「誤解のないようにして欲しいんですが、報道に関してはあくまでも公平というか、批判すべきは批判するという姿勢に変わりはありませんし、スポンサーだからと言って優先的に特ダネ情報がもらえるものでもありません。その上で、スポンサーという立場から言えば、いろんな取り組みはJリーグ、クラブが主体となって行い、朝日新聞は資金面のほか紙面など新聞社としての特色を生かした形で応援して行く。それが、理想的なパートナーシップではないでしょうか。もちろん企業としてはスポンサーメリットも追求せざるを得ませんが、これまで同様、お互い知恵を出し合いながら百年構想の実現に向けて進んでいければ、と思っています」
取材・構成/宮崎俊哉・山田美恵(CREW) |